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ほっ!とコーヒー 第13回

はだか電球
“家族を照らしていた、まあるい灯(ともしび)”


いや〜明るい、明るいな〜。 繁華街も商店街も、住宅地だって昼間のようだ。 どうだい見ろよ、もう夜道なんて言葉は死語に近いね。

僕が子どもの時分は、家の中だってこんなに明るくはなかった。 はだか電球がひとつ、部屋の真ん中にぶら下がっていただけだったもんな。 そう、まあるい傘のついてるヤツ。 電気代がもったいないからといってね、おふくろは外が暗くなるまで電灯を点けなかった。オヤジが帰ってくると、パチンと点けたもんさ。顔に光があたると、何か全身があったかくなった気になったものさ。 夕食は、まあるい光の下、まあるいちゃぶ台で食べる。 みんなまあるい世界で生活していた。

蛍光灯が一般家庭に普及しはじめたのは、確か昭和30年代だった。 蛍光灯ときたら、長細くって明るくて、部屋中がまぶしくなってしまった。 おかげで、家具やら布団やらが積み上げてあっても、薄暗さで気にならなかった部屋が、妙にゴミゴミして、狭く感じられるようになった。

はだか電球のオレンジ色の光に照らされたオフクロも、まあるい顔だったな。君のオフクロもそうだった?

あれ、はだか電球の街灯が、まだこんな路地にあるぞ。 ちょっと寄り道してみよう。貴重だね〜。 あら、はだか電球の居酒屋もあるぞ。「呑み処 おふくろ」だってさ。ちょっと寄っていこうよ。いいだろ?

「おいおい、急にはだか電球の話なんかするから、なんか変だと思ったら、実は最初からここに来るつもりだったんだろ」


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