高画質化を加速させるか、多様化に進むか? 成熟期を迎えたデジタルカメラの挑戦の軌跡 |
相変わらず不況風が吹きすさぶ中、苦戦を強いられている多くの家電製品をしり目に、デジタルカメラ市場が絶好調といわれています。 CIPA(有限責任中間法人カメラ映像機器工業会)の調べによれば、平成14年度の総出荷台数は、2000万台を軽々突破して銀塩カメラをあっという間に追い抜き、平成15年には3000万台にも乗せる勢い。平成14年度の前年比は実に66.4%増といわれ、まさに驚異的な伸びを記録しました。平成15年初の、やや鈍化傾向を示すであろうという業界の予測を裏切り、その好調さは止まることを知りません。
●デジタルカメラは、フロッピィカメラからはじまった1981(昭和56)年、ソニー株式会社が画期的なカメラを発表。カメラ業界が騒然とした出来事がありました。その新しい写真システムは、銀塩カメラの将来をも打ち砕くのではないかとささやかれるほど、当時のカメラ機器メーカーの度肝を抜くもので、製品名から「マビカショック」※1と呼ばれました。 マビカに採用された電子スチルビデオカメラ方式は、フロッピィカメラとも呼ばれましたが、それは画像を記録するメディアとしてフロッピィディスクを使用するためでした。レンズから入ってきた光をCCDで電気信号に変換するところからこのシステムは、電子カメラすなわちデジタルカメラの始祖といわれています。 厳密にいえばフロッピィカメラは、CCDで電気信号に変換した光(画像)をデジタル化せずにアナログ信号のまま記録するため、デジタルカメラではありません。しかしこれによって提起された写真、映像のデジタル化は多くのメーカーを技術開発へと突き動かし、その後の本格的なデジタルカメラ時代の幕を切ったことは否めないでしょう。 ●CCD(Charge-Coupuled Device)デジタルカメラにとってCCDは、現在も最大の要です。フロッピィカメラはCCDをフィルムの代わりに用いるところに特色があり、その後のデジタルカメラもCCDの進歩に支えられてきたといっても過言ではありません。 CCDの表面には、受けた光を電気信号に変える画素(撮像素子とも呼ばれます)が数10万個から数100万個並べられています。CCD自体は色を識別できないためにフィルターが付けられ、それで色を読み取ります。一つひとつの画素が光を電荷に変換し、その電気信号が画像データとしてメディア(記録媒体)に取り込まれる、という仕組みです。
●本格的なデジタルカメラ時代の到来フロッピィカメラは、当初の衝撃の大きさの割には市場がさほど拡大しませんでした。一番の理由はアナログ方式だったことです。なんといっても画像がさほど鮮明でなかったことと、パソコンの普及率もまだまだで画像処理技術が未成熟であったことがその原因です。テレビで画像を楽しむ程度の利用方法では、消費者の食指は動かなかった、ということでしょう。 それから7年後の1988(昭和64)年、富士写真フイルム株式会社がフルデジタルカメラを発表しました。翌年の1989(平成元)年にCCD40万画素の「フジックスメモリーカードカメラ」※2が登場。いよいよデジタルカメラ時代が幕を開けました。 長い準備期間を経て、本格的にデジタルカメラが人々の話題に上るようになったのは1995(平成7)年。マビカショックからすでに15年あまりが経過していました。 おりしも1995年はパソコンの基本ソフトWindows95※4が、日本をはじめ世界中で爆発的に普及した年であり、デジタルカメラとパソコンの普及は切っても切れない間柄であることがわかります。
●高画素数競争/低価格競争/小型化競争を超えて現在のデジタルカメラは、普及機でおよそ200〜300万画素、高級機では600万画素以上が主流。価格も2〜3万円代から7〜8万円台と求めやすくなっています。その上、撮影モードの工夫、独自のCCDシステムの開発など、メーカー各社はそれぞれの独自性を打ち出すのに必死です。大きさや軽さも、ポケットサイズから手の平サイズにまで進化してきました。 画素数でいえば、数10万画素の画像は、サービス版程度の大きさではそれなりの画質が得られましたが、それ以上になると銀塩カメラには及びもつかないほど粗いものでした。これが100万画素、すなわちメガピクセル以上になるとA4版程度のサイズにプリントしても遜色ないほどの画質を得ることができるようになっています。300万画素、400万画素、600万画素の時代に突入した今日、ある意味で消費者のニーズは、画質に関していえばほぼ満たされたということができ、画素数競争もそろそろ終盤にさしかかっているといえるかも知れません。 これまで画素数以外にデジタルカメラが解決してこなければなかった課題はたくさんありました。初期のデジタルカメラを使ったことのある人ならだれもが経験した電池切れ問題。これは液晶モニタ使用による電力の大幅な消費がおもな原因です。また起動やデータ記録の遅さによって一瞬のシャッターチャンスを逃すといった、カメラとしては致命的な欠陥もありました。それに手ぶれ。液晶モニタを見ながら撮影するためにどうしても持ち手が安定しないのが原因で起こる致命的な問題です。 しかし去年から今年までにかけて、各メーカーはこうしたデジタルカメラの欠陥のほとんどを解決しつつあるといってもいいでしょう。銀塩カメラを出荷台数で上回った去年から今年、デジタルカメラはまさに成熟期に入ったわけです。 成熟期に入ったということは、これからがメーカーの生き残りを賭けた試練の時代がやってきたことを意味しています。開発者側が消費者を主導し、技術が新しいニーズを開拓してきたこれまでと違い、消費者がデジタルカメラの使い方を開拓し、ニーズを拡大しつつ、メーカーに実現を求めていくわけです。多様でわがままな消費者ニーズをメーカーがいかにすくい上げていくかが勝負の鍵を握っています。
●記録メディア問題は解消するか消費者にとって大きな関心事は、記録メディア乱立状態の解消でしょう。 デジタルカメラの誕生期には、画素を記録するメモリーは本体に内蔵されていました。そのためメモリーがいっぱいになると、いったん専用ケーブルでパソコンにデータを移し替えなければ次の撮影ができませんでした。そこで考えられたのが着脱式の記録メディアです。 現在、デジタルカメラの記録メディアは大きく分けて5種類。CF(コンパクトフラッシュ)、xD(xDピクチャーカード)、SD(SDメモリーカード)、スマートメディア、メモリースティックです。形状や大きさ、信頼性、価格、将来性にそれぞれ特徴があって、これが1番とはなかなか決められないのが現状といわれています。しかし1枚の価格は高いもので8千円近くしますから、安い買い物ではありません。 問題は、記録メディアがどのカメラでも使えるようにはなっていないことです。デジタルカメラを買い替えようとしても、以前に買った高価な記録メディアが使えないとすると二の足を踏んでしまうのは当然。消費者の側からいえば、できるだけ早く統一した記録メディアの基準を作って欲しいというのが本音でしょう。
●おわりに私たちはこれまで、自分や自分の家族の思い出を何百枚もの写真に残してきました。カメラ付き携帯電話がやはり今年爆発的に普及し、画像の使い捨ての風潮をいとい、写真文化の後退を憂える声も上がっています。銀塩カメラは今後本当に、画像記録ツールとしての座をデジタルカメラに譲ってしまうのでしょうか。 その是非は別として、時代は着実にデジタルに向かって突き進んでいることは確かでしょう。デジタルの世界はまだまだ広大です。思いも寄らなかった技術の進歩が、明日生まれるかも知れません。デジタルカメラの挑戦はこれからも続くことでしょう。
|
ページのトップへ▲ |