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第6回 デジタル放送の画質と音質

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デジタル放送の魅力は、目を見張るほど美しいハイビジョン映像とCD並みの高い音質を楽しめることでしょう。今回は、ハイビジョン、高画質映像の表示方式、高品質の音声、2カ国語ステレオ放送、5.1チャンネルサラウンドなど、デジタル放送の映像と音声の仕組みを解説しながら、デジタル放送の映像と音声の魅力に迫ります。


より美しく、ハイビジョン映像と表示方式

地上デジタル放送のハイビジョンでは、アナログテレビ放送で見慣れた番組が見違えるほど鮮明で美しい映像に見えます。この映像表示の仕組みについて、ハイビジョンを中心に解説します。

ハイビジョン映像とは

ハイビジョンはNHKが開発した高精細度テレビジョン技術に付けられた名称です。従って、Hi-Visionは和製英語で海外では通じません。英語ではHigh Definition Televisionと言い、HDTVまたはHDと略されます。Definitionは解像度、鮮明度の意味です。
最初に開発されたハイビジョンはアナログ方式です。BS(衛星放送)ではアナログ方式のハイビジョン放送も行われていましたが、2007年9月に終了しました。現在では、BSデジタル放送、地上デジタル放送で、ほとんどの番組がデジタル方式のハイビジョンで放送されています。
ハイビジョンに対して、現在のアナログテレビ放送のような標準画質のテレビをStandard Definition Televisionと言いSDTVまたはSDと略されます。HDTVとSDTVでは横・縦方向のドット数、画面の縦横比が異なります。縦横比4:3で正方形に近いSDTVに対して、HDTVは16:9と幅広の画面になります。同じハイビジョンと言っても、BSデジタル放送と地上デジタル放送では画素数が異なります(表1)。

表1:HDTVとSDTVの画面の比較
名称 映像の縦横比 画素数 1ドットのイメージ
BSデジタルハイビジョン

BSデジタル放送のほとんどの番組が右記の画素数のハイビジョン映像で放送されている
16:9
SDの1ドット=6ドット。
きめ細かく、深みのある表現ができる
地上デジタルハイビジョン

地上デジタル放送は、周波数幅の制約により、横幅を1,440に圧縮して送信。これをテレビ側で1,920に引き伸ばして表示する
16:9
SDの1ドット=5ドット。
きめ細かく、深みのある表現ができる
地上アナログテレビ放送

BSデジタル放送の一部でも放送されている。WOWOWのマルチ編成やNHK BS-1、BS-2はSDTV
4:3
SDの1ドット。
デジタルハイビジョンの5〜6ドットに相当

図1:SD画像とHD画像

映像がきめ細かくなると大画面でも近くで観ることができます。SDTVでは適正な視聴距離は画面の高さの5〜7倍と言われていましたが、HDTVでは画面左右の視野角が30度になる位置で、画面の高さの約3倍の距離です。この距離から観ると、視野いっぱいに迫力ある映像が広がります。現在では、番組制作にあたっても近距離で視聴することを意図した画面作りをすると言われます。
縦横比16:9の幅広の画面になったことや球面のブラウン管に対して薄型テレビの画面が平面であることも、テレビを近距離で観ることができるようになった理由に加えることができます。

表2:おすすめの視聴距離
SDTV(4:3) HDTV(16:9)
画面サイズ(画面高さ)(注1) 推奨視聴距離 画面サイズ(画面高さ) 推奨視聴距離
21型(34cm) 170cm 42V型(52cm) 160cm
28型(42cm) 210cm 57V型(70cm) 210cm
32型(48cm) 240cm 65V型(80cm) 240cm

注1 画面の高さは計算値です。メーカーや機種によって違いがあります

「フルハイビジョン」とは、ハイビジョンの表し方

薄型テレビのCMやカタログには、「フルHD」や「Full Hi-Vision」「フルスペックハイビジョン」(注2)といった表現が目立ちます。これは最も画素数の多いBSデジタル放送のハイビジョンの「1920×1080」画素で送られてくる放送信号を100%そのまま表示できることを意味しています。
メーカーによって、「Full HD 1080」、「Full HD」、「Full Hi-Vision」など表記はさまざまですが、内容は同じです。「1366×768」画素や「1280×720」画素の液晶パネル(液晶テレビの表示部分)と区別して高級感や優位性を訴えるために付けられた表記と考えられます。現在は37V型以上の薄型テレビのほとんどが1920×1080のハイビジョンに対応しており、こうした表示もひところほどの輝きはありません。
この1920×1080画素はBSデジタル放送のハイビジョン映像の画素数です(表1参照)。これに対して、地上デジタル放送は1440×1080画素で、画素数からはフルハイビジョンとは言えません。しかも縦横比が16:9ではありません。地上デジタル放送は1920×1080で撮影した映像の横方向を1440に圧縮して送信し、受信したテレビ側で映像を左右に1920に引き延ばして表示しています。1つひとつの画素を長方形とすることで16:9の画面を作り出しています。
BSデジタル放送では画像の圧縮や引き延ばしの必要はなく画素は正方形です。そのため、地上デジタル放送は画質の点でBSデジタル放送にやや劣ります。
画質には、色の再現性やノイズの少なさ、コントラストや明るさなどさまざまな要素が含まれます。テレビを選択する機会がおありでしたら、自身の目で複数の画面の違いを、「画面の高さの3倍」の距離で確認することをおすすめします。

注2 フルハイビジョンという表記は、液晶やプラズマの表示画面が横方向1920ドット以上の解像度を持ち、横1920画素のデジタルハイビジョン映像を1画素1ドットで表示できることを意味するだけです。画質の良し悪しを表すものではありません。

インターレース方式からプログレッシブ方式へ

テレビの映像は毎秒30枚の静止画を連続表示して動画にしています。静止画は、画面全体が一度に表示されるわけではありません。1個の光の点が、明るさと色を変えながら画面の左上端からほぼ真横に右端まで移動します。右端からはすばやく左端に戻り直前の左端の位置のすぐ下から同じように明るさを変えながら右に移動します。この動きを画面の右下端まで繰り返します。
光の点の移動を走査と言い、この点が描く線を走査線と言います。走査線の数は、SDTVでは480本(注3)、デジタル放送のHDTVでは1080本に達します。
左上端からスタートした点は1/30秒で1画面の走査を終えてスタート位置に戻り、次の走査を開始します。人の目には残像で1/30秒ごとに静止画が描かれているように見えます。

注3 総走査線の本数はSDTVで525本、HDTVでは1150本ですが、本講座では有効走査線の本数、それぞれ480本、1080本で説明しています。

図2:映像表示の仕組み

実際のテレビ放送信号は、1画面を2回に分けて半分ずつ走査するようになっています。1本目、3本目、5本目というように1本おきに奇数だけを走査した後、2本目、4本目、6本目というよう偶数だけを走査します。こうして1/60秒ごとに奇数・偶数の走査線で互い違いに画像を作ります。このような走査方法をインターレース方式(飛び越し走査)と言います。

インターレース方式では、画面が半分ずつ更新されますので、動きの速い画面をなめらかに表示することができますが、走査回数が倍になり大画面表示や高精細な表示ではちらつきが目立つ短所があります。

図3:インターレース方式

図4:プログレッシブ方式

そこで、大画面テレビや高精細画面の表示にはプログレッシブ方式(順次走査)が採用されています。一度に1画面分、ハイビジョンであれば1080本を走査して1/60秒ごとに静止画像を表示する方式で、ちらつきのない高精細な映像が得られます。
ところが、実際の放送では、地上デジタル放送を含めハイビジョン映像はすべてインターレース方式で送られています。そこで、大画面テレビの多くはテレビ内部でインターレース方式をプログレッシブ方式に変換しています。1/60秒ごとに放送信号を合成し、倍の速度で走査して、1/60秒ごとに1画面分の画像を描き出して表示しています。

高音質と多機能、マルチチャンネル

デジタル放送の音声は、CDに迫る「高音質」、「ステレオの2カ国語放送」、「5.1chサラウンド放送」、という3つの新しいサービスが実現されています。

CDに迫る高音質

デジタル放送ではCD並みの高いクオリティで音声を聴くことができます。
アナログテレビ放送の音声はFMラジオ放送と同じ音質です。CDと比べると音質の差は歴然としています。また、放送局のアンテナから受信アンテナやテレビに届く過程でノイズや障害の影響を受けて音質が劣化することもあります。
これに対して、デジタル放送の音声は、音声をCD並みの音質でデジタル化し、このデジタル音声信号の状態で送受信されます。デジタル信号はノイズや障害の影響を受けにくく、影響を受けても誤り訂正技術などにより、ほとんどの場合、放送局でデジタル化されたままの音声信号に戻すことができます。テレビが受信できてさえいれば、放送局で収録された音声信号をそのまま受け取ることができるのです。

図5:アナログテレビ放送とデジタル放送の音声信号

ハイビジョンの大きな映像データを送信するために、音声データは極力小さくすることが求められます。そのため、デジタル放送の音声信号は、MPEG2-AAC(Moving Picture Experts Group 2-Advanced Audio Coding)と呼ばれる圧縮率の高い音声データ形式で送信されています。CD並みの音質を維持したままでデータ量を1/20程度に圧縮することができます。

ステレオ2カ国語放送

アナログ放送でも多くの番組がステレオ音声で放送されています。このステレオの左右のチャンネルの音声信号を使って、2カ国語放送や、実況中継と解説などの解説放送などが行われています。ただし、音声信号が左右2チャンネルに限られるために、2カ国語は一言語ずつモノラルで、解説放送も実況と解説がそれぞれモノラルで放送されます。
デジタル放送では、5.1チャンネルサラウンド番組でスピーカー6個分の音声信号を放送できるくらいですから、送信可能な音声信号に余裕があります。2カ国語放送ではそれぞれの言語をステレオで、解説放送も同様にステレオで実現することができます。3カ国語放送も可能です。海外のニュース番組やドラマなどを現地の言葉で聴くことはもとより、字幕放送と組み合わせて映画のように視聴することもできます。

図6:アナログ放送とデジタル放送の2カ国語放送

ステレオ2カ国語放送の視聴にはステレオが再生できるデジタル放送対応テレビであれば、ほかに特別な装置は不要です。2カ国語放送と字幕放送を組み合わせる場合、簡易型のデジタル放送チューナーや廉価な地デジ対応テレビの一部に字幕放送に対応していないものがあります。

ホームシアターを楽しむ、サラウンド音声

映画や音楽を映画館並みの大画面と迫力あるサウンドを自室で楽しむのがホームシアターです。薄型テレビは大画面でも場所をとらず、コンパクトで高性能な音響システムが市販されおり、愛好家も増えていると言われています。
このホームシアターに欠かせない音響の仕組みがサラウンドです。視聴者を囲むように設置した5〜6個のスピーカーで映画館のような臨場感や迫力ある音響を実現します。どの位置から音が出ているかが判りやすくなります。後方からの音は後方から、前方からの音は前方から聞こえるようになっています。例えば、スポーツ中継では後方からは歓声、前方からはプレーする選手の声が聞こえ、まるでスタンドで観ているような臨場感を味わうことができます。映画では、後方のドアが開く音やそこから人が歩いてくる足音が再現され、その場に居合わせているかのような迫力ある音声が楽しめます。

図7:5.1chサラウンド

この、サラウンド音声を楽しむためには、まずテレビやチューナーに5.1チャンネルサラウンド出力の同軸端子や光端子が装備されていなくてはなりません。さらに、デジタル放送の音声フォーマットMPEG-2 AACを6個のスピーカー用の音声信号に分解するデコーダーを搭載したAV(オーディオビジュアル)アンプなどの音響システムが必要です。
デジタル放送のサラウンドが楽しめるAAC対応製品には次のロゴマークが付いています。

図8:AAC対応ロゴマーク

ただし、サラウンドを視聴できるシステムを揃えたとしても、デジタル放送でサラウンド番組が楽しめるかというと、実際はそうでもありません。サラウンド放送の番組が少ないのです。有料放送であるWOWOWやスターチャンネル以外には、地上波デジタル放送、BSデジタル放送ともにサラウンドで放送している番組はほとんどありません。現状、放送する側はハイビジョン映像の番組制作に手一杯であること、視聴者側は、専用の音響システムが必要なサラウンドを十分に認知していないことなどにより、ニーズが高くないのが大きな理由と考えられます。
今後、ハイビジョン映像とサラウンド音声をそのまま記録できるBlu-rayレコーダなどの機器が浸透するにつれて、普及することが期待されています

さらなる高画質・高音質へ

2015年にスーパーハイビジョンの実験放送が開始されることはすでに第3回目でお話ししました。解像度は7680×4320、音響22.2チャンネル。視聴者と画面との標準的な距離は、画面の高さの0.75倍とされており、例えば100インチの大型テレビの場合、画面の高さは125cmですから推奨される視聴距離は画面から94cmの位置ということになります。100インチの大画面を1m足らずの至近距離から視聴できるほど精細度が高いと言うことです。この精度は、視力1.0で識別できる物理的な限界と言われており、これ以上高画質化しても識別することができず、意味がないというほどのレベルです。医療や美術・芸術、精密加工・微小加工分野などにおいては、こうした超高精細画像へのニーズがあることは考えられますが、今の時点でオーバースペックであるかもしれないこのスーパーハイビジョンが実は家庭用に開発されていると言われています。
アナログテレビで十分と思っていても、薄型テレビでフルハイビジョンをしばらく見続けると、美しく鮮明な映像が忘れられなくなります。人の感性はより高品質なものを求め続けます。超高精細映像など家庭に不要だとは今、断言できないのです。

次回は、デジタル放送のコンテンツと未来についてのお話です。

参考リンク

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