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UPTODATE 進化するカーナビゲーション
〜次世代カーナビ〜

富士通テン株式会社 AVC本部
システム開発統括部長   伊藤 辰男氏


カーナビゲーションシステムは、今から13年前の1990年に登場しました。それは、当時の最先端技術を集積して生まれた製品でした。

(1)自動車の走行距離を検知するシステム。(2)緯度・経度を測定するGPS(Global Positioning System / グローバル測位システム)の情報を受信する装置。(3)フロッピーディスクなどに代わる新しい大容量記憶メディア・CD-ROM。(4)小型化が進んだ液晶ディスプレイ。――以上が出揃った上で、初めてカーナビゲーションシステムが世の中に登場しました。

現在もカーナビは、最新の技術を取り込んで発展を続けています。今回は、カーナビゲーションの現状と今後について紹介します。

カーナビの基本的な仕組み

カーナビゲーションの基本機能は2つ。自動車の現在地の緯度・経度を衛星から受信するGPS、走行距離を検知する車速センサ / ジャイロなどの「ロケーション」機能。そして、目的地までの方位・距離を計算して得られたルート検索結果をCD-ROM収録の地図に重ねて表示し、最適な道順を案内する「ナビゲーション」機能です。

機能変化の過程

最新のカーナビゲーションにおけるハードウェアの性能は、16bitCPUから32bitCPUへの変更などにより大きく発展しました。複雑化するハードウェアを制御するため、PCのようにOSを搭載するまでに進化し、現在のカーナビの内蔵コンピュータは4、5年前のデスクトップPCなみの性能を持つようになりました。

それとともに、新たな機能も盛り込まれました。そのひとつが「通信 / 情報処理」機能。リアルタイムに道路・渋滞情報が更新されるVICSのデータを受信して地図上に表示する機能です。これによりドライバーは、渋滞の予測と回避が可能になりました。

近年、カーナビゲーションに求められているのは、ITへの対応に代表される通信 / 情報処理の機能の発展です。

それについて以下に説明します。

(1)既存の機能のさらなる拡大

PC並みのスペックを獲得したカーナビは、大型で高解像度のディスプレイ表示によって、地図データをより具体的に表示できるようになりました。また、音声ガイド機能も改良され、肉声による聞き心地の良いガイド案内をタイミングよく再生できるようになりました。

それらの発展に伴ってデータの容量が増大し、当初は1枚のCD-ROMで充分だったのが、同じ範囲の地図でも何十枚ものCD-ROMが必要になりました。そこで、90年代末ごろからは、CD-ROMからさらに大容量のDVD-ROMへと変化していきました。

最近では、パソコンのようにハードディスク(HDD)をカーナビに搭載する動きも出始めています。HDDなら、CD-ROMの枚数に換算して20枚程度までのデータを1台に収録できる上、データの読み書きが飛躍的に速くなります。また、将来的に通信回線を通して最新の地図データをダウンロード配信する場合、データ保存用にHDDが必要になるので、今後各社が開発するカーナビはHDDの搭載へとシフトしていきます。

地図データが細密になっていくのと同時に、演算処理の方法も発展しています。カーナビ登場時の検索時間は約90秒でしたが、現在では数秒単位に縮まっています。しかし、最短ルートの選別や渋滞の識別(事故渋滞のような一時的な渋滞と、工事渋滞のような長期的な渋滞)の処理には時間がかかりますので、演算方法や地図データと実際の道路とのギャップを埋める技術などはまだまだ改良・改善の余地が残っています。

(2)IT化への対応

カーナビの地図データには、目印としてあらかじめ官公庁や病院、観光地などの施設情報が収録されています。しかし、ユーザーがカーナビに求めているのは目印としての情報ではありません。「東京・渋谷」とか「山中湖」など目的地の地名で検索すると、そこにあるスポット情報とルートを案内するスポット情報検索の機能なのです。

ただ、スポット情報は、CD-ROMなどのメディアに記録して販売してもすぐ古くなり、そのたびに買い換えなければなりません。そこで、インターネット上に存在するスポット情報サイトを運営する企業と提携して、カーナビにサイトからのデータが表示できる仕組みが考案され、携帯電話などの通信機器を設置して、サイトから最新の情報を受信できるように開発が進んでいます。

■カーナビのIT対応化のモデル図

カーナビのIT対応化のモデル図

インターネットにアクセスできる環境が整うことで、情報サービス以外にも様々なコンテンツが配信できる可能性が出てきました。音楽や動画などをカーナビで受信できるようになり、メールも利用できる環境が整ってきました。これが、カーナビのIT化への対応です。そのほかにも、カーナビから会社のグループウェアなどにアクセスできるようにすれば、自動車内をバーチャルオフィス化することも可能です。

(3)IT化の問題点

カーナビは、こうした技術により道案内ツールから「車載IT端末」へと進化しています。しかし、問題点もあります。IT化への対応を推進する場合、インターネット接続用にPCカード型PHSのような組み込み型の無線通信機器、つまり携帯電話(通信モジュール)が必要となりますが、その場合、通信コストと通信機器の本体価格が普及へのハードルになってきます。

通信料についていえば、今やブロードバンドの主役であるADSLの接続料金は電話代込みで月5,000円を下回るようになり、2003年はFTTH(光ファイバー接続)が本格的に家庭へ進出しはじめるだろうといわれています。しかし、携帯やPHSの通信料金はまだまだ高額です。PCカード型PHSの常時接続サービスがISDN並みのスピードでようやく10,000円を切ったという現状です。

次に本体の価格です。携帯電話の多くは量販店なら1万円台以下で販売されていますが、カーナビに搭載予定の組み込み型通信モジュールでは、耐熱性や電波の受信品質、組み込み時の人件費などがかかるため本体価格を2〜3万円台から下げることが難しいのです。

メーカーとしては、通信インフラの問題だからとハードルとなっている原因の解決を他人まかせにせず、それらを乗り越えるべき課題として研究開発を進めています。


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自動車用組み込み部品の花形として

カーナビゲーション全体の出荷台数は2002年度の推計では、日本国内は約200万台となっています(EIAJ調べ)。同年度の国内乗用車出荷台数がおよそ450万台であるのに比べると、カーナビ市場は大規模なマーケットになってきました。これは、カーナビメーカーが高度な機能を追求する一方で低価格化にも取り組んだ結果と考えられます。

富士通テンでは、カーナビ開発の高コスト構造を改め、カーナビ本来の分かり易い操作と正確で高速なルート検索の演算方法や表示に集中して、低価格で提供できるカーナビゲーションの開発を進めています。

■カーナビ購入時に重視するポイント / 保有者と未保有者の違い

カーナビ購入時に重視するポイント / 保有者と未保有者の違い
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おわりに

カーナビの進化は、今後、高度化と低価格化の2つに分かれていくと思われますが、いずれも地図データづくりという地道な作業の上に成り立っています。

現地に直接足を運び、コンビニなどの目印になる建造物を確認したり、新たに舗装された道を走ったり、名前の無い交差点があると官公庁に問い合わせて交差点に名称をつけてもらい、ナビゲートしやすい環境を整えるなど、そうしたフィールドワークがあってこそのカーナビだということを、開発者は忘れてはならないと思います。

将来はカーラジオのように、世界中全ての車にカーナビが標準搭載されている環境を目指しています。それが、カーナビをつくる者の使命だと思います。


(監修:編集委員 飯塚 英明 川鉄情報システム株式会社)

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