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UPTODATE ユビキタス・ネットワークを実現する無線LANシステム
富士通株式会社
ソフトウェア事業本部 開発企画統括部
情報アプライアンス開発部
プロジェクト課長 金子 伸生氏
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ブロードバンド・インターネットが進展する中、ユビキタス・ネットワーク(*1)を実現するキー・テクノロジーとして、近年、無線LAN(Wireless Local Area Network)への期待が高まっています。本稿では、無線LANシステムの概要及び今後の動向についてご紹介します。

無線LANとは?

インターネットの普及と相俟って、有線LANは既に多くの企業で導入され、最近では、家庭内にもLAN環境を構築するケースが増えています。無線LANは、文字通りケーブルがない(電波を伝送媒体とする)だけで、基盤のネットワーク技術は従来の有線LANと同じです。したがって、ファイル、ドライブ及びプリンタの共有といった有線LANと同様の機能を利用できる上、ケーブルからの解放に伴う様々なメリットがありますが、有線LANにはなかった新たな問題も発生します。


(1)無線LANにおける課題

無線LANに固有の主な課題を以下に示します。

  1. バッテリー寿命の問題

    無線LANカードの消費電力が大きく、端末のバッテリーが短時間で切れてしまう。

  2. セキュリティ機能の脆弱性

    通信内容を傍受される危険性があるため、適切なセキュリティ対策が必要である。

  3. 相互接続の問題

    各システムの実装方式が異なるため、事前に十分な相互接続検証が必要である。

  4. 周波数帯域の問題

    IEEE802.11bが使用する2.4GHz帯は、電子レンジ、医療用機器、Bluetooth等でも使用しており、これらの機器の近くで使用すると、電波干渉により通信が不安定になる。また、IEEE802.11aが使用する5.2GHz帯は、日本では気象レーダーの周波数帯域と重なるため、屋外での使用は制限されている。

(2)無線LANの標準化動向

現在は、IEEE802.11b準拠の製品が主流ですが、最近は、動画や大容量通信を目的に高速なIEEE802.11a準拠の製品も出始めています。また、セキュリティ面を強化し、不法侵入や盗聴によるデータ流出を防止するため、IEEE802.1x(認証サーバによるユーザ管理規格)に対応した製品もあります。2003年以降には、IEEE802.11g(2.4GHz帯で54Mbpsの通信を行う規格)やIEEE802.11h(周波数を効率よく選択する技術及び送信電力を効率よく制御する技術に関する規格)準拠の製品も登場し、(1)で示した課題も解決され、より効率のよい無線LANシステムが実現するでしょう。

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無線LANのネットワーク構成と構築上のポイント

(1)無線LANのネットワーク構成

無線LANには、アドホックモード(AdHoc)とインフラストラクチャモード(Infrastructure)の二通りの接続形態があります。以下のように、構築するネットワークの規模や目的により使い分けることになりますが、有線LANやインターネットとの接続を考えた場合、インフラストラクチャモードによる接続形態が一般的です。

[アドホックモード]
アドホック接続により、アクセスポイントを使用せずに簡易ネットワークを構築できます。個人で複数台のPCを使用して、ファイル共有やプリンタ共有をすることが可能です。
図・アドホックモード
[インフラストラクチャモード]
インフラストラクチャ接続により、アクセスポイントを経由して有線LANやインターネットに接続するSOHO/小規模から大規模までのネットワークを構築できます。ローミング機能(*2)により、事務所から会議室に移動するような場合でも、設定を変更することなく使用することが可能です。また、RADIUSサーバによって、個人認証を一元管理することで、不正アクセスを防止できます。
図・インフラストラクチャモード

(2)無線LANネットワーク構築上のポイント

無線LANネットワークの構築に際して、接続するクライアント数と使用するアプリケーションからトラフィック計算を行い、必要な帯域を見積もると共に、同一のアクセスポイントへアクセスが集中しないように、負荷分散を図る点などは、有線LANと基本的に同様です。無線LANの場合には、さらに、無線特有の事項として、以下の点に留意する必要があります。

  1. 無線周波数の決定

    無線LANは使用できる周波数チャネルの数が限られており、隣接したアクセスポイントが同一の周波数(または近い周波数)を使用していると、お互いに干渉を起こし、性能劣化の原因となります。そのため、複数のアクセスポイントを設置する場合には、それぞれが干渉しないように周波数を割り当てること(ゾーニング)が重要となります。

  2. アクセスポイントの空間的な配置

    アクセスポイントは、互いに干渉しないように、できるだけ離し、アクセスできる領域をすべてカバーするように設置します。例えば、正方形のフロアの場合、フロアの対角線上の隅に設置するようにします。窓際などで外から回折して干渉する恐れもありますので、十分な注意が必要です。

    図・アクセスポイントの空間的な配置
  3. セキュリティの強化

    ネットワークへの不正アクセスを防ぐためにMACアドレスによるフィルタリングやID/パスワードによる個人認証を行うと共に、無線LANでは、電波傍受による情報漏洩の危険性が高くなるため、暗号化によりデータの安全性を確保する必要があります。

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無線LANソリューション

ケーブルからの解放によるレイアウトフリーや可搬性だけが無線LANのメリットではありません。

無線LANシステムは、有線/無線を融合したブロードバンドネットワークを通し、いつでもどこでも、利用者やその場に応じた情報サービスを享受できるユビキタス・ネットワーク社会への第一歩です。

[無線LANと移動通信網間のシームレス通信]

ユビキタス・ネットワークの実現には、無線通信網の種別にとらわれないシームレスな通信基盤の実現が不可欠です。富士通は、端末側でネットワークを自動的に選択/設定するミドルウェア及びMobile IP(*3)と連携し、異種網ローミング時に転送データが途切れないようにするセッション維持技術からなるシームレスローミング技術を開発しました。この技術を用いると、たとえば、事務所では構内PHS、ホットスポット(空港内のカウンタ等)では無線LAN、移動中(搭乗時等)はIMT-2000携帯電話網などを用いてインターネットや社内LANに継続してアクセスすることが可能になります。

図・シームレス通信

(監修:編集委員 森 正夫   (株)鶴屋吉信)

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*1 ユビキタス・ネットワーク: ここでは、二つの用語、ユビキタス・コンピューティング(あらゆる物にコンピュータが組み込まれる)とユビキタス・ネットワーク(至る所でネットワークに繋がる)を明確に区別して使用しています。
*2 ローミング機能: 端末が移動した場合に、より近いアクセスポイントへ自動的に切り替える機能です。
*3 Mobile IP: Mobile IPは移動先でも同一IPアドレスを使用するためのインターネットの標準技術です。
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