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UPTODATE バイオテクノロジと情報技術の融合 〜 ヒトゲノムの解析 〜
編集委員 飯塚英明 川鉄情報システム(株)
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人間のDNAは、約30億の塩基対からなりたっています。これを文字にして印刷すると「広辞苑」に換算して、約330冊分にもなると言われます。これら人間の全遺伝情報、すなわちヒトゲノムの全容が先ごろ発表されました。従来は10万個あると推定されていたヒトの遺伝子が、実際は3万〜4万個で、ショウジョウバエの2倍しかないことが分かるなど、驚くべき事実が次々と明らかになっています。
ヒトゲノムの解析は、人間の進化・ルーツをたどる研究にも役立ちます。また、多くの遺伝病や生活習慣病の遺伝要因の解明により、遺伝子診断、遺伝子治療、新しい薬の開発など、医療、医学への大きな貢献が期待されています。

遺伝子数

ヒトゲノムとは

ゲノム(genome)とは、遺伝子(gene)と染色体(chromosome)からの造語で、ドイツ語式の発音です。一言でいえば「生命の設計図」ということになります。ヒトの場合ゲノムは、約30億文字(塩基対)からできており、これらを設計図としてヒトが作られているのです。

ヒトはそれぞれ、背が低い、髪が黒い、皮膚が白い、胃が弱いなどといった遺伝情報を持っていますが、ヒトに限らず、地球上のすべての生物は個体独自の「DNA」を遺伝情報として持っています。生物はすべて細胞からできていますが、その一つ一つにDNAが入っているのです。
このように、「ゲノム」という抽象的な概念の実体は、「DNA配列」というデジタルデータであり、この中でも特に生命活動を維持するための機能的な部品を規定しているところが「遺伝子」です。

ゲノム情報が新しい医療を切り開く

ヒトゲノムの全データが公開され、いまや科学者の関心は「ゲノム解読後に何をすべきか」という次の段階(ポストゲノム)に移りつつあります。すでに明らかになった遺伝子の、どの部分がどう違えば、どういう個人差(たとえば、病気のかかりやすさ)に結びつくのかを解明しようとしています。
病気との関係解明の次には、個人の遺伝的特徴(ゲノムの塩基配列)に応じた医療「テーラーメード医療」が可能になると考えられています。
従来の医療は、すべてのヒトに同じ治療を施す、レディーメードな医療でした。しかし遺伝子が異なるわけですから、当然同じ治療をしても効く人もいれば効かない人もいます。例えば投薬にしても、開発された医薬品が効く人の割合は一般に70%程度だと言われます。人によっては投薬が無駄になるばかりか、副作用を起こす危険性さえあるのです。 これに対し、個人の遺伝子の差によって異なる医療を施すことができれば、効率的でかつ副作用の少ない医療が可能になります。テーラーメード医療が実現すれば、個人ごとに遺伝子の診断を行い遺伝子のタイプを測定したうえで、体質に見合った治療や投薬を行えるようになります(ゲノム創薬)。


ヒトゲノム計画
ヒトに書かれたすべての遺伝情報の解読を目指す国際協力研究プロジェクトで、日米各国で1990年ごろより公式のプロジェクトとしてスタートしました。当初は2005年までにヒトの全遺伝子を決定する予定でしたが、プロジェクトの順調な進展により、現在では2003年までにこれを達成できると言われています。また、このプロジェクトから生産される大量の遺伝子配列データを扱うための情報科学研究がともに進展し、新しいタイプのデータベースの確立、大量データからの生物学的意味の抽出などの研究が展開されています。

DNA
デオキシリボ核酸(Deoxyribo Nucleic Acid)。アデニン〔A〕、グアニン〔G〕、シトシン〔C〕、チミン〔T〕という4種類の塩基と、デオキシリボースという糖と、リン酸の化合物で、鎖状の巨大な分子を構成します。一般的には、2本のDNA分子の間でAとT、またはGとCが相補的塩基対を形成して、二重らせんを構成します。相補的構造によって自己の複製が作れるようになっています。このDNAの塩基配列に蛋白質などの遺伝情報が含まれています。

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バイオにおけるITの重要性

注目を集めるバイオインフォマティクス

バイオインフォマティクスとは、バイオテクノロジ(生命工学)と情報技術(IT)の融合した技術分野のことで、生命情報科学ともいい、ゲノム研究とともに始まり発展してきました。そもそも当初は実験プロジェクトをサポートすることが主目的で補助的な役割でしたが、新しいポストゲノム時代では、ゲノムの情報を基盤に生命の原理を明らかにし、新産業の創出を行うことが目的となり、情報科学の主役となります。

現在は、バイオ研究に利用できる膨大なデータが得られましたが、その意味については明らかにされていない状態です。そこでコンピュータを用いて生物情報の意味を解析する、バイオインフォマティクスが必要となります。 欧米に先行されたバイオ研究を日本が巻き返すべく、さまざまな国家プロジェクトが進行中です。その一つとして、バイオインフォマティクスを高度に活用するための研究基盤の構築が行われました。

最新ITを活用した統合データベースシステムへ

また、最近の医薬品開発は、ゲノム創薬が重要なテーマになっており、バイオインフォマティクスによる機能解析は、必須となっています。
以上のように、ゲノムに関する取り組みは、人類にとって、難病や食糧問題を解決する可能性の高い、まったく新しい分野であり、大きな成果が期待されています。


バイオインフォマティクスの事例
ある遺伝子の配列について、その役割が分からない場合、類似性のある既知の遺伝子を検索、比較して機能を推定することや、患者と健常者とのわずかな遺伝子の違いを統計的に解析して、病気を引き起こす原因となる遺伝子群を発見すること等が行われています。
最近では遺伝子解析に加え、蛋白質に関して、立体構造を精密に予測したり、細胞内で実際に作られている蛋白質のすべての種類を解析すること等により、創薬や生命現象解明への手がかりが得られつつあります。

【関連URL】

(執筆:編集委員 飯塚英明 川鉄情報システム(株))

次号(8/20発行号)は「VoIP」の予定です。

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