
マイクロソフトのオフィスソフトの次期バージョンMicrosoft Office 2010の話題を耳にするようになってきました。ところが、2010はおろか、現行製品である2007さえ採用していない企業が少なくありません。「費用がかかる、操作性が大幅に異なる……」という理由が多いようです。
そこで注目されているのが「OpenOffice.org」。一般には「OpenOffice」と呼ばれている、Microsoft Officeの互換ソフトです。最大のメリットは無料で利用できることです。さらに、国際的な文書標準に対応、従来のOfficeの操作性を維持し、多くのユーザーの支持を集めています。このOpenOffice.orgの魅力や生い立ち、気になる互換性を確認します。
OpenOffice.orgとは
OpenOffice.org(オープンオフィス・ドット・オルグ)とは、文字どおりオープンソースのオフィスソフト。オープンソースであることから、無料で公開され、誰でも自由に利用することができます。本人に技術と興味があれば、開発に参加することもできます。
ワープロソフト「Writer」、表計算ソフト「Calc」、プレゼンテーションソフト「Impress」、図形描画「Draw」などで構成されており、Microsoft Officeとの対応は表1のようになっています。
表1 OpenOffice.orgのアプリケーション
機能 |
名前 |
Microsoft Officeとの対応 |
ワープロ |
OpenOffice Writer |
Microsoft Word |
表計算 |
OpenOffice Calc |
Microsoft Excel |
プレゼンテーション |
OpenOffice Impress |
Microsoft PowerPoint |
ドローツール |
OpenOffice Draw |
図形描画機能 Microsoft Draw (注) |
ホームページ作成 |
OpenOffice HTML Editor |
Microsoft FrontPage Express |
数式エディタ |
OpenOffice Math Editor |
数式エディタ |
|
注:現在のMicrosoft OfficeにはMicrosoft Drawはラインアップされておらず、図形描画機能として、WordやExcelに組み込まれています。
もともとOpenOffice.orgは、1980年代にドイツのStarDivision社で開発された統合アプリケーションでした。これをサン・マイクロシステムズが買収し、StarOffice(日本語版はStarSuite)として発売。さらに、このプログラムソースを2000年6月に公開して、OpenOffice.orgとなっています。2009年11月現在の最新のバージョンは3.1.1です。
OpenOffice.orgの魅力
それでは、なぜOpenOffice.orgに多くの企業が注目しているのでしょうか。それには以下の理由があります。
コスト削減
最大の魅力は無料であること。世界同時不況の出口が見えずコスト削減が最優先されている今、多数のMicrosoft Officeライセンスを抱える企業にとってライセンス契約料は無視できない経費となっています。
ちなみに企業向けのMicrosoft Officeは同梱されるソフトの種類によってOffice Standard 2007、Office Professional Plus 2007、Office Enterprise 2007という3つのエディションがあります。1本あたり約45,000円から70,000円となっています。企業向けにはボリュームディスカウントもありますが、規模によってはライセンス料が数億円に及ぶところもあります。OpenOffice.orgに移行すると、このコストから解放されるのです。
OpenDocument対応
「OpenDocument」というオフィスアプリケーションの標準ファイルフォーマットがあります。米国マサチューセッツ州で採用されて話題となり、中立性を重視する他の州や英国など各国の公的機関での採用が増え始めています。
この標準フォーマットのベースとなったのがOpenOffice.orgでした。OpenOffice.orgで使われていたファイル形式を拡張し、標準化団体のOASIS(構造化情報標準促進協会)が標準化したものがOpenDocumentなのです。
その後、Microsoft Officeも2007になってOpenDocumentへの対応アドインを出荷しはじめましたが、国際的な標準ファイルフォーマット対応ソフトとして先行したOpenOffice.orgは、ベンダーに偏らない中立性でも注目されています。
操作性の維持
Microsoft Office 2007では、ツールバーに代わるリボンと呼ばれる新しいインターフェースが採用されました。初期のOfficeからMicrosoft Office 2003まで続いてきたツールバーのメニュー構造が大きく変更されたのです。従来のツールバーの操作に慣れ親しんだ既存ユーザーからは、目的の機能が探しづらいと評判がよくありません。これが、いまだに多くのユーザーがMicrosoft Office 2003のままバージョンアップしていない大きな理由といわれています。
ところが、パソコン出荷時に初期インストールされるMicrosoft Office(OEM版)はすでに2007になっています。2003の出荷は2007年6月に終了しています。また、2010年に販売されるMicrosoft Office 2010にもリボンのインターフェースが引き継がれることになっています。つまり、慣れ親しんだ操作でオフィスソフトを使い続けようとすれば、Open Officeをはじめとする互換ソフト以外の選択肢はありません。
ソフトウェアの全社統一
Microsoft Officeが対応しているOSはWindowsとMacOSだけですが、OpenOffice.orgはWindows、MacOS 、Linux、FreeBSD、Solarisに対応しています。特殊なOSを使用しているエンジニアも含め、全社でオフィスソフトを統一できる利点があります。
バージョンの統一も可能となります。Microsoft Officeでは導入時期やバージョンアップ費用の関係で、2000や2003などが混在して利用されていることもあります。しかし、OpenOffice.orgであれば費用を気にすることなく同じバージョンで統一できます。
多言語対応
OpenOffice 3.0では、日本語や英語はもとより、中国語、韓国語を含めて100言語以上に対応しています。対応言語はさらに増え続けています。
OpenOffice.orgはもともと多国語に対応することを前提に設計されています。言語ごとに専用版ソフトを用意する必要はなく、多言語文書作成に不便を感じることも少ないでしょう。
そのほかの魅力としては、Office 2007では標準装備とはなったものの、OpenOffice.orgはそれ以前から対応している独自機能があります。現在ではアドインとして、OpenOffice.orgで開くと元文書が編集できるハイブリッドPDF、OpenOffice.orgのDrawでは、高価なAcrobat Proでしか作れなかったフォーム付きのPDFが作れるなど、さまざまな独自機能が強化されています。
互換性の検証
気になる互換性を検証してみましょう。ここでは、メインとなる「OpenOffice Writer」「OpenOffice Calc」「OpenOffice Impress」を確認してみます。
なお、最新のソフトウェアはOpenOffice.orgのホームページや窓の杜からダウンロードできます。
OpenOffice.org Writer
互換ソフトウェアだけあって、見た目はMicrosoft Word とよく似ています。メニューバーの構成はWord 2003とほぼ同じですから、Word 95や2000など古くから使い続けているユーザーには、Word 2007よりもOpenOffice Writerの操作の方がなじみやすいかもしれません。日本語の扱いについても、ほとんど同じ操作が可能です。文章や段落の書式をまとめるスタイル機能は、ページやフレームにまでスタイルを指定できるWriterの方が充実しています。
ただし、一部にWriterではできない機能やWordと異なる仕様があります。たとえば、アウトラインプロセッサの機能や操作性はWordに及ばなかったり、罫線や表機能では点線や破線など一部の線種を使用することができない (図3-1、図3-2)、文法チェッカーは標準ではインストールされていなかったりします。しかし、これらは別の機能で実現したり、拡張機能をインストールしたりすることで、Wordと変わらない機能や文章表現、レイアウトが可能です。
OpenOffice.org Calc
インターフェースはExcelとほぼ同じなので、違和感なく操作することができるでしょう。しかも、Calcのシートは大きく、Excel 2003の256列×65,536行を上回る1,024列×65,336行、1年365日を列方向に表示するに十分です。その後Excel2007 も16,384列×1,048,576行と巨大化しています。
関数もほとんどがExcel同様に利用できます。ただし、引数の指定に「,(ピリオド)」ではなく「;(セミコロン)」を使用する点が異なります。「ASC(全角を半角に変換)」「JIS(半角を全角に変換)」「PHONETIC(ふりがなを表示)」「DATEDIF(期間の長さを求める)」などの一部の関数はCalcにはありません(図4-1)(図4-2)。しかし、こうした関数の多くに、エクステンション(拡張機能)や同等の関数が用意されており、日常の使用に困ることはないでしょう。
また、Excelのマクロ機能はそのまま利用することができませんが、最新版ではVBA(Visual Basic for Applications)互換モードが実装され、一部の機能はVBAの記述のままで動作するように改良されてきています。
OpenOffice.org Impress
プレゼンテーションにおいてもPowerPointの代替えとして使用することができます。注意すべきは、日本語処理に難点があることと、Calcの取り込みなど表組に図5のような現象があることです。
しかし、PowerPointを凌駕するような図形機能も用意されており、また、PowerPoint用のテンプレートはほとんどそのまま利用可能なので、ネット上に数多く公開されているテンプレートをダウンロードして使うことができ、手軽にプレゼンテーションを行うのに十分、役に立つものとなっています。
OpenOffice.org以外の互換ソフト
OpenOffice.org以外の互換ソフトとして、Kingsoft Office 2010とStarSuiteについて少し触れておきます。両者ともに、有料ソフトウェア製品です。
ツールバーを使用した2003と同じ操作性と互換性を持つKingsoft Office 2010は、Excel、Word、PowerPointに相当するソフトウェアで構成され、互換性の高さで定評があります。
有料のソフトウェア製品として、サポートもしっかりしています。30日間の試用も可能です。
OpenOffice.orgの母体となったソフトウェアであり、現在バージョン8になっています(アジア圏以外では「StarOffice」、商標の関係でアジア圏では「StarSuite」の名称で販売)。こちらも有料のソフトウェアで、サポートが提供され、90日間の評価版が用意されています。開発元のサン・マイクロシステムズは「Microsoft Office 2003 Standard Editionと比較して75%以下の価格」で購入できると発表しています。
OpenOffice.org移行への現実性
OpenOffice.orgへの移行にあたって注意しなければならないのは完全互換ではないということです。社外と頻繁にドキュメントのやり取りがある場合は、互換性がネックになる危険性があります。また、サポートもありませんから、運用担当者の負荷は増加することになるでしょう。その手間と費やす時間は覚悟しなければなりません。
しかし、OpenOffice.orgはMicrosoft Officeに代わる価値はあります。無償というのは大きな魅力です。既存のドキュメント資産が継承できます。また、ユーザーにとって、ビジネスツールとして使うオフィスソフトは「指先が覚えている」操作性が無視できません。慣れ親しんだインターフェースが維持されている点も見逃せません。日常使用する重要なビジネスツールが1社独占状態にあることを不安視する向きもあります。
以上のような事情から、OpenOffice.orgをはじめとするOffice互換ソフトのユーザーは世界規模で拡大しており、企業や官公庁などの利用も多くなっています。WordやExcel、PowerPointのデータが利用できさえすれば、高価なOffice製品にこだわらない。革新的なインターフェースよりもどちらかと言えば使い慣れた操作性を優先したいと考える人が増えているようです。
スペック至上主義から使い勝手やローコスト優先へ、OpenOffice.orgの台頭はコンピュータソフト全体の大きな変化のあらわれなのかもしれません。
参考サイト
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