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UP TO DATE PLC(高速電力線通信)
電力線を利用して全室ブロードバンド

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ブロードバンドが広く普及したことで、会社はもちろん、家庭においてもインターネット環境は快適なものになっています。しかし、パソコンが2台目3台目、しかもリビングから書斎、子ども部屋、寝室……と分散していくと、LANケーブルを延長するのも大変になってきます。かといって無線LANでは、遮へい物の制約やセキュリティの課題もあります。そこで、登場したのがPLC(高速電力線通信)です。PLCは、既存の電力線を利用して、数十Mbpsのデータ通信を可能とする技術です。今回は、その仕組みや利用の手順などを紹介しましょう。

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従来のLAN接続の課題を解決

2006年12月、PLC(高速電力線通信)を可能にする専用アダプターが発売され、売り切れ店が続出するなど、大変な人気となりました。なぜ、これだけ大きな注目を集めたのでしょうか。それは、従来使ってきた有線LANや無線LANにいくつかの課題があったからです。

有線LANの課題:「配線が繁雑、レイアウト変更が面倒・・・・・・」

現在利用されている最も一般的なLANが、この「有線LAN」です。名前のとおりケーブルを引き回して利用するため、繁雑になり「配線ジャングル」などと揶揄されています。オフィスのレイアウトを変更する際にも作業が面倒になりますし、そのための時間も経費もかかります。

無線LANの課題:「セキュリティが心配!遮へい物があると届かない・・・・・・」

上記の有線LANの課題を解決する1つの手段として期待を集めたのが無線LANです。アクセスポイントを設置して、パソコンはもちろんプリンタやプロジェクターなども無線で接続できます。
確かに無線LANはケーブルがないためすっきりしていますし、レイアウト変更も容易です。ただ、セキュリティに難があります。無線でデータが飛び交っているため、そのつもりになれば盗み見ることができるのです。もちろん暗号化してセキュリティレベルを上げることは可能ですが、設定が面倒で一般の人には敷居が高く感じられます。
さらに、コンクリートの壁や遮へい物があると届きにくいという欠点もあります。

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簡単・低コスト・安全・高速なLANを実現

こうした有線・無線LANの課題を解決するものとして期待されているのが「PLC」です。では、PLCとはどのような仕組みで、どんなメリットがあるのでしょうか。

PLCとは:「電力線をケーブル代わりにネットワーク」

PLCとはPower Line Communicationsの略で、文字どおり電気配線(電力線)を利用してコミュニケーションするネットワーク形態です。会社や家庭の電力線がLANケーブルの代わりとなり、どの部屋にいてもネットワークに接続できるようになります。
PLCには、電力線でデータを転送するための機器「PLCアダプター」が必要です。図1のように、有線LANでは各部屋へケーブルを伸ばさなければなりませんが、PLCでは、そのケーブルの代わりを既存の電力線が行います。コンセントに差し込んだPLCアダプターを経由してネットワークに参加します(図1)。

PLCのメリット:「簡単、安全、高速」

<簡単・便利>

建物内のどこにいても、コンセントさえあればネットワークに参加できるので、大変便利です。

<すっきり>

ネットワークを利用するための新たな配線工事が必要ありません。ケーブルも少ないので、室内もすっきりします。

<セキュリティ>

無線LANのように空中を電波が飛んでいるわけではありません。また、電力線内のデータを暗号化することで、情報漏えいの不安を低減できます。

<高速>

PLCアダプターは高速通信を可能としており、障害物の影響も受けずに十分な速度でインターネットを利用できます。PLCアダプターは理論値で190Mbps、実測値で30Mbps〜80Mbps(注1)の通信速度を実現していると発表されています。

(注1):NIKKEI NET特集

認可の経緯:「想定外の電波漏えいで認可が遅れる」

便利なPLCですが、通信機器としての認可がなかなか下りませんでした。
最大の障壁となったのはPLCからの「漏えい電波」の存在でした。既存の電力線にPLCアダプターを接続することで、想定外の電波が流れ出て、短波ラジオ、アマチュア無線、非常通信用無線などに深刻な影響を与えると懸念されたのです。
このため、実験が繰り返されると同時に、総務省による「高速電力線搬送通信に関する研究会」が2005年中に12回開かれています。また、2006年、情報通信審議会において高速電力線搬送通信設備にかかわる許容値が示されるなど、実用化に向けて取り組み、2006年10月に認可が出ました。

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PLCを利用するには

それでは、PLCはどのような機器を用意して、どのように利用するのでしょうか。仕組みも含めて具体的にご紹介します。

PLCの仕組み:「電気信号にデータ信号を重ねる」

電力線を利用するといっても、すでに電力線の中はテレビや冷蔵庫など電気製品のための電気が流れています。
図2をご覧ください。(1)の電気の信号は50/60Hzの低い周波数(波形の山谷が1秒間に50または60回繰り返す)です。これに対してコンピュータのデータ信号(2)は2M〜30MHzと高い周波数(山谷が1秒間に200万〜3000万回と高速に繰り返す)です。そこで、(1)と(2)を重ね合わせて、(3)のような信号にして電力線内で送ります。そして、その電力線のコンセントに差し込まれたPLCアダプターによって、(4)、つまり(2)と同じデータ信号だけを取り出します。これがPLCの仕組みです。

利用のステップ:「PLCアダプター、親機と子機で接続」

それではPLC利用のステップをご紹介しましょう。
既存のネットワークがある前提で説明します。その既存LAN(インターネットへの接続環境)に加える機器は、PLCアダプターです。これには親機と子機があります。親機は1台ですが、子機はLANに接続したいパソコンの台数分が必要です。
親機はネットワーク側のルータにLANケーブルで接続。そして、コンセントに差し込みます。
子機は使いたい部屋でコンセントに差し込み、パソコンとはLANケーブルで接続します。別の部屋で使いたい場合は、子機を移動してその部屋のコンセントに差し込みます。
1つの部屋に複数のパソコンがある場合、ハブを利用することでデータを分岐できます。これは通常のネットワークと同じです。もちろん、増設も簡単にできます(図3)。

PLCを導入してもネットワークの設定を変更する必要はありません。
上図のように接続した場合に、PLCの受け持ち部分(PLC親機〜PLC子機間)は1本のLANケーブルと同じ働きをしています。つまり、ネットワーク上は、PCとルータがLANケーブルで接続されているのと同じなのです。

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注目したい新しい機能

PLCの注目したい機能として次のようなものがあります。

リピート機能:「広いフロアで使う場合は必須」

大きなビルや工場などでPLCを利用する場合、PLCアダプター間の距離が離れるとデータが届きにくくなってしまいます。これは通信速度を維持できないためで、解決策として用意されたのが、リピート機能です。ネットワークに接続された複数のPLCアダプターがリレー式にデータを伝達することで速度低下を防ぐ仕組みです。リピート機能によって距離にさほど影響されずデータ通信できます。

QoS機能:「動画を快適に見られるようになる」

QoSとはQuality of Serviceの略で、PLCに限らず、既存ネットワーク環境でも必要とされ、すでに一般化されている機能です。重要な特定の通信のためにネットワークの帯域を保証する機能です。例えば、企業内で重要なデータ転送がある場合、そのデータ転送を優先することができます。つまり、優先的に送受信するデータを予約する仕組みです。家庭内でもTVなどの動画配信データを優先して送る予約をしておくと、ノイズやコマ落ちが少なく、快適に鑑賞できるようになります。

セキュリティ機能:「企業でも安心して使える」

PLCは空中を電波が飛んでいないため、無線LANと比べてセキュリティレベルが高いといえるでしょう。ただし、ケーブルをコンセントに差し込めばデータを盗み見られる危険性があります。そのために用意されているのが暗号化機能です。AESなど高度なアルゴリズムを搭載した暗号化機能が発表されています。
また、ネットワークIDを設定してグループ化することで、そのグループ内のPLCアダプターのみがネットワークに参加できるようにしています。

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広がる可能性

順調に市場が拡大するPLCですが、これからどのように発展していくのか、簡単に触れておきます。

世界のPLC市場:「海外の状況」

PLCは、欧州、アジア、南米などでは、2002年頃から実用化されており、すでに海外では家庭内またはオフィス・工場内におけるブロードバンドの選択肢の1つとして定着しているようです。
PLCの世界市場は今後5年間、年平均成長率6.5%で成長すると期待されています。最新のARC Advisory Groupの調査によれば、2007年には約90億ドルであったPLC市場は、2012年には120億ドルを超えると予測されています(図4)。

国内のPLCの進化:「家電製品をパソコンから制御」

国内ではPLCアダプターが販売されて2年が経過しました。企業よりも家庭向けの製品が中心に出荷されており、家庭ユースが市場を牽引しているようです。
また、家庭内では、無線LANとのすみ分けが進んでいます。価格や実行速度などにおいて、ほとんど差はありませんが、遮へい物がある場合はPLCが有利です。PLCの配線が気になる方は無線LANを選んでいるようです。
すでに世界では導入期から成長期に移行しつつありますが、日本国内では、まだブレイクしているとはいえません。成長期に移行するのは2009年以降と予想されています(注2)。
2009年以降は、PLC機能を内蔵、または連動する家電製品の組み込み機器市場が本格的に立ち上がってくると期待されています。いわゆるホームネットワークを構築し、照明や家電のオン/オフを外出先からも操作したい、といったニーズに応えるものです。
コンセントを入り口としたPLC利用は、パソコンのインターネット接続のみならず、より便利で快適なホームネットワークを支える技術として、今後ますます注目されていくことでしょう。

(注2):「電力線搬送通信(PLC)市場動向」インテロン社(PDF: 240KB)

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