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-パソコンか家電か?PCがリビングにやってくる-

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PCの世界では、2003年前後のDVDの本格的な普及が始まったころから、マイクロソフト社のWindowsXP Media Center 2003 、2005年のインテル社の「Viiv」、そして2007年1月のマイクロソフト社のWindowsVista Home Premiumなど、ホームエンターテインメントを指向する動きが強くなっています。こうした技術に背中を押されるように、PCにもAV機器と見まごうばかりの洗練された筐体デザインや、リモコンによりPCとは思えない操作性を実現したものが登場し始めました。デジタルハイビジョン放送やDVDはもとより、テレビや携帯型デジタル音楽プレーヤーとの連携、インターネットの動画コンテンツ再生など、エンターテインメント性を前面に打ち出したPCはあきらかにこれまでのPCとは異なっています。リビングルームに向かい始めたPCがどのようになっているか見てみましょう。

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エンターテインメント・リビングPCというコンセプト

リビングルームで使うPCはテレパソとどう違う

最近リビングPCという言葉を見かける機会が多くなりました。リビングルームで使いたいPCという考え方は新しいものではなく、2003年のマイクロソフトのWindows XP Media Center Edition 2004、2005年のインテルViiv テクノロジーが発表された頃から製品化されています。日本国内では、テレパソと呼ばれるテレビチューナーを内蔵したPCがその代表です。ビデオキャプチャー機能、DVDやHDDへの録画・再生機能、地上波デジタル、衛星デジタル放送チューナーの搭載、中にはチューナーを二台搭載して二番組同時録画機能、次世代DVDドライブ搭載、ハイビジョン録画機能など、テレビ、ビデオに関する豊富な機能を装備しています。

テレパソ:地デジ・衛星デジタル放送チューナーとBlu-rayドライブを搭載した富士通のノートパソコン、FMV-BIBLO NX-95U/D

こうしたテレパソ全盛の中で、2007年1月Windows Vista搭載PCが国内各社から発表されました。その中にテレパソとは少し違うユニークなコンセプトを持つPCがありました。富士通のエンターテインメント・リビングPC、ソニーのテレビサイドPCです。どちらもリビングルームに設置することを強く訴えるPCです。本稿では、これらをリビングルームPCと呼ぶことにしましょう。例えば、テレビやデジカメ、DVカメラで撮りためた画像や映像、音楽、録画した番組、DVD、「GyaO」や「@Nifty動画」のようなインターネット動画コンテンツなどをリビングルームの大画面で楽しみたいというニーズを形にしたものです。テレビチューナーを内蔵し、専用ディスプレイの大型化したテレパソでも同じことは可能ですが、この場合、テレビはPCの中で動作するアプリケーションと同じです。テレパソはパソコンで、基本的にはPCとしての機能や操作が優先します。

エンターテインメント・リビングPC
DVDレコーダと見間違いそうなスマートなボディ
富士通FMV-TEO

リビングルームPCでは、表示は大画面のテレビ、音声はオーディオ機器、というようにリビングルームの先住者たちと手を組んで高品質のAVライフとエンターテインメント性を実現しようとしています。テレビの近くに置くPCとして、映像や音声などマルチメディア機能を充実し、テレビとの連携、リモコンよるAV機器並みの操作性、鑑賞を邪魔しないファンレスなどの低騒音化、静音化、低発熱構造、インテリアや他の機器と並べて設置しても違和感を生じない外観のデザインなどを実現しています。

テレビサイドPC
ユニークな丸形ボディ
ソニーVGX-TP1DT1
インテル Core 2 Duo プロセッサー T55001.66 GHz、メインメモリ1GB (512MB×2)、160GBHDDにWindows Vista Home Premiumを搭載

テレパソがテレビ視聴などマルチメディアを充実させたPCであるのに対し、リビングルームPCは、PCをベースにしたエンターテインメント機器と呼ぶことができます。

リビングルームPCの大きな特徴は画面

リビングルームPCでは、画面表示をPC専用ディスプレイではなく大画面テレビを前提としています。現在の液晶やプラズマのような薄型大画面テレビはハイビジョン映像の表示を前提としており、画素数も多く、高精細表示が可能です。そこで、大画面テレビの中にはPC用アナログRGB入力ができるようにしたり、DVI端子を用意して1280×1024ピクセルなどの高解像度を実現したものがありました。そして、大画面テレビに標準的に装備されるようになったHDMI端子の登場で、大画面テレビでPCディスプレイと変わらない高精細な表現が可能になりました。

FMV-TEOのリアパネル
左下がHDMI端子

HDMI(High-Definition Multimedia Interface)は映像・音声・制御信号を1本のケーブルにまとめたマルチメディアインターフェースです。HDMIはすべてデジタル信号でやりとりします。従来、DVD/HDDレコーダとテレビやAV機器間相互を結ぶケーブルはアナログ信号を伝達するものでした。DVDのように機器内部ではメディアも信号処理もデジタルで行っているのに、テレビへの出力やPCからの映像信号入力もすべてアナログ信号でした。HDMIはデジタル信号を入出力しますので、PCやDVD/HDDレコーダ、テレビなどの機器内部で入出力のために、デジタルからアナログ、アナログからデジタルへ変換する必要がなく、そのため、変換誤差や変換時の信号劣化による画質や音質の低下がありません。映像音声信号とともに、制御信号や機器同士の認証信号のやりとりを行うことができるため、機器間の連携も容易になり、デジタル放送や録画で問題になりがちな著作権保護機能への対応もスムーズです。PCの動作やリモコンによるテレビの電源オンオフ、画面モードの切り替え、デジタル放送受信や録画など、大画面テレビとの緊密な連携が必要となるリビングルームPCにもHDMI端子は必須といってよいでしょう。
しかし、HDMI端子の規格は新しく発展途上です。年を追って改良されており、それにより伝送できる信号が異なります。しかも、同じバージョンでも機器ごとにサポートされる機能が異なっているのが実情です。従って、HDMI機器どうしの接続時にはHDMIのバージョンではなく、目的の機能が実現できるかどうか機器ごとの仕様を確認する必要があります。

各HDMIバージョンごとに伝送できる主な信号の種類
HDMI のバージョン 1.0 1.1 1.2 1.2a 1.3 1.3a
規格制定年 2002 2004 2005 2006
音声 Dolby Digital/DTS
DVDオーディオ X
SACD X
PCM 2ch 8ch(7.1ch)
映像 解像度 1080p 1440p
色深度 8bit 16bit
フレーム/秒 60 120
制御 機器間制御 X 1.2a 1.3a

リビングルームで使うPCとは

リビングルームで使用するPCには、処理速度、記憶容量、インターフェース、グラフィック性能などこれまでPC本来の性能とされてきた部分以外に、求められる機能や性能があります。リビングルームでのPCユーザーは情報処理のオペレーターではありません。PCをテレビと同じ感覚で操作して楽しみたいと思っています。
例えば、リモコン操作で瞬時に映像が見られるのはAV機器では当たり前で、リモコンのボタンですぐにインターネットを見たいのがリビングルームのユーザーです。電源オン、OS起動、その後アプリ起動、、、というPCのスタートアップシーケンスを待つ人はいません。情報機器ではなく娯楽機器なのです。
また、PCの外観にも、リビングルームの他の機器やインテリアに極端な違和感を生じないようなデザイン性が求められます。富士通のエンターテイメント・リビングルームPC、FMV-TEOは、PCというよりもまるでDVD/HDDレコーダのような外観です。オーディオラックに収納することができ、他のAV機器とならべても違和感はありません。
PCにつき物のキーボードは、マウスの代わりにタッチパッド付きの無線式のコードレスキーボードです。付属するリモコンの操作で、テレビを見たり、録画・再生したり専用ブラウザでWEBサイトを表示したり、接続したテレビの電源オンオフを行ったりすることができます。「すぐにテレビ」機能や「すぐにインターネット」機能により、リモコンボタンでインターネットやテレビを待たされることなく楽しむことができるのです。

また、PCに大画面テレビを接続して使用する場合には、ユーザーは画面から少し離れた位置からリモコンで操作することが多くなり、デスクトップに小さなアイコンを並べてマウスで操作するPCのユーザーインターフェースとは異なる操作環境が必要になります。その距離を10フィート(約3m)程度と想定して、アイコンやメニュー表示を調整した環境を10フィートUIと呼んでいます。蛇足ですが、これに対して通常のPC用ディスプレイ2フィートUI、携帯電話のようにすぐ近くで使用するものを0フィートUIと呼ぶメーカーもあります。
Windows Vista Home Premiumに搭載されているWindows Media Center(以降WMCと表記します)は、リビングルームPCやテレパソ用に、テレビの視聴、録画・再生、音楽の録音・再生、ビデオ、DVD再生などの機能をもち、専用リモコンで操作することができます。Windowsが提供する10フィートUIのソフトです。国内メーカーはこのWMCに相当する10フィートUIによる独自のマルチメディアソフトを自社のテレパソに搭載しています。地デジなど国内特有の放送事情もあって機能的には独自ソフトがWMCを上回っていることが多いといわれています。このあたりは「3. リビングに向かうPCを後押しするテクノロジー」の項でお話しましょう。
リビングルームPCでは、外観や使い勝手、ユーザーインターフェースにいたるまで、PCユーザーではなくPCを家電品として扱うユーザーを意識しなくてはなりません。リビングルームPCは、デジタル家電やAV機器に分類するのが相応しいかもしれません。

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リビングに集合し始めたPCたち

Windows Vistaの発売に合わせるように、リビングルームに定住を狙うPCが登場しています。オーディオメーカーのオンキヨーのオーディオPCのHDC1.0を加えて、現在のリビングルームPCの実情を紹介します。

富士通(FMV-TEO)

エンターテインメント・リビングPCという新しいコンセプトで登場しました。大画面テレビに接続して使用することが前提という大胆なPCです。テレビとはHDMIケーブル1本で接続され、デジタル放送の視聴、録画、再生、インターネット上の動画コンテンツもリモコンで操作し、テレビのチャンネルが増えたような手軽な感覚で楽しむことができます。

FMV-TEO
CPU:Core 2 Duo T5500(1.66GHz)
メインメモリ: 1GB
HDD: 400GB
光学ドライブ:DVDスーパーマルチドライブ
デジタル3波チューナー/無線LAN/1000BASE-T
OS:Windows Vista Home Premium

FMV-TEOでは、OSに標準装備されているWMCではなく、富士通独自の10フィートUI「マイメディア」で、デジタル放送、DVD、ビデオ、画像、音楽などメディアの視聴・編集・加工・保存・再生を行います。
「すぐにテレビ」、「すぐにインターネット」などの高速起動、リモコンによるWEBブラウズ、ビエラリンクに対応し、テレビの電源オンや入力切替、パソコン画面の表示を行うことができます。

アップルMac mini (MA608J/A)

アップルコンピュータ(以下、アップル)は2005年1月に高さ約5cm、一辺が約16.5cmの小さな正方形のMac miniを発表しました。それから約1年後、Mac miniはインテルCPUとリビングルーム向け機能を搭載して再登場しました。

Mac mini (MA608J/A)
CPU:Core Duo(1.83 GHz)
メインメモリ:512MB
HDD: 80GB
光学ドライブ:DVD±R SuperDrive
DVIビデオ出力、1000BASE-T、無線LAN、Bluetooth 2.0+EDR
OS:Mac OS X v10.4 Tiger

Mac miniのリビングルーム向け機能とは、「Apple Remote」と新しくなった「Front Row」です。Apple RemoteはMac mini付属のリモコンです。iPodライクな操作感で、Appleの10フィートUIであるFront Rowを軽快に操作することができます。Front Rowは、新Mac miniにあわせてアップデートされており、DVD再生、iTunesに登録された音楽や音楽ビデオ、Movieフォルダ内の映像、さらにはiPhotoに登録された写真を楽しむことができます。ホームネットワーク接続された他のMacやPCに保存されている音楽や写真、映像も楽しむことができるようになっています。大画面テレビとの接続も可能ですが、HDMI端子は装備していません。

ソニーLivingPC / VAIO type X Living

「大画面テレビとつないでハイビジョンの高画質をリビングで」のキャッチコピーで、ブルーレイディスクドライブを搭載したリビングルームPCとして登場しました。テレビサイドPC(TP1)と似たコンセプトですが、こちらは外観はオーソドックスなAV機器スタイルにまとめられています。

VAIO type X Living
CPU: Core 2 Duo E6400 (2.13GHz)
メインメモリ:1GB
HDD:500GB
光学ドライブ:ブルーレイディスクドライブ
デジタル3波チューナー/1000Base-T/無線LAN
OS:Windows Vista Home Premium

デジタル3波(衛星、110度CS、地上波)チューナーを内蔵し、ブルーレイディスクとハイビジョンテレビ、HDMI端子の組み合わせで、デジタルハイビジョン放送をそのまま録画して楽しめます。メディアを扱うプリインストールソフトも充実しています。OS標準のWindows Media Center 以外にVaio Video ExplorerやEmotional Playerといったテレビ視聴・録画・再生・コンテンツ管理、音楽、画像、ネットワークなどが多数搭載されており、多彩な楽しみ方ができます。

日立Woo「Prius Deck N」

「Prius Deck N」シリーズは、「リビングPC」のコンセプトでありながら専用の20インチワイドディスプレイが用意されています。さらに、HDMI端子も備えており、リビングルームの大画面テレビやプロジェクターへも接続できるようになっています。

Prius Deck DH75N
CPU:Pentium D 820 (2.80GHz)
メインメモリ: 512MB
HDD:500GB
光学ドライブ:DVDスーパーマルチ
地上アナログダブルチューナー
OS:Windows XP Home
(2005年10月発売)

ケースは、幅59mmのスリムタワー型で、まるで1Uのラックマウントサーバを縦置きにしたような形状です。従来の同社製品と比較してもほぼ半分の幅に小型化されており、例えばディスプレイ背面に置くことでディスプレイ一体型なみのスペースで設置することもできるようになっています。このモデルは2005年10月に発売され、デジタルチューナーは非搭載ですが、HDMI端子を搭載しています。Windows Vista搭載のPrius Tシリーズではディスプレイ一体型や大画面の専用ディスプレイとの組み合わせなどテレパソ的なコンセプトのPCが多く、HDMI端子を装備したPriusPCはありません(2007年1月以前の機種)。

オンキョー (HDC-1.0)

HDオーディオコンピュータという珍しいコンセプトを実現したのが、オーディオメーカーオンキヨーのHDC-1.0です。
HDC-1.0は、オーディオ機器然とした外観からは想像しにくいのですが、CPUにインテルCore2 Duo T5500(1.6GHz)を装備したれっきとしたPCです。インターネットやメール、オフィスも、ソフトさえインストールすれば動作します。
オーディオPCを標榜するだけに、オーディオ機器としての仕様は徹底しています。剛性の高いシャーシ構造、振動対策を強化したアルミニウム製フロントパネル、ノイズの影響を受けにくい部品配置など、オーディオで培ってきたノウハウがおしみなく投入されています。

HDC-1.0
CPU:Core2 Duo T5500 (1.6GHz)
メインメモリ:1GB
HDD:120GB
光学ドライブ:DVDスーパーマルチ
OS:Windows Vista Home Basic

サウンドボードはデジタル機器内で発生するパルス性ノイズを完全除去することに成功し、VLSCと呼ばれる回路では基板上に大容量コンデンサや極太のバスバーを使用して高音質を実現しています。PCというよりオーディオ機器というべきかもしれません。

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リビングに向かうPCを後押しするテクノロジー

PCがリビングルームで活躍するためには、ただ大画面に表示できるというだけでなく、テレビやAV機器に劣らないマルチメディア機能、リビングルームでの使用に適した操作性や機能が必要です。これらを実現するための技術を紹介しましょう。

ViivテクノロジーとWindows Media Center

Viivはインテルのデジタルホーム向けプラットフォーム技術です。Viiv対応のPCは「リビングルームのエンターテイメントの中核として、ビデオやオーディオ、ネットワークコンテンツやゲームなど、さまざまなエンターテイメントをリモコン操作中心の簡単なインターフェースで楽しめるマシンとなる」としており、まさにリビングルームPCへの取り組みそのものです。

Viiv PCのシステム要件
  デスクトップPC ノートPC
CPU Pentium DまたはCore DuoなどのデュアルコアCPU Core Duo
デュアルコアCPU
チップセット Intel 945、955、965、975 Express
Ethernet Intel PRO/1000PMまたはIntel PRO/100 VE/VM
無線LAN - Intel Pro/Wireless
オーディオ HD Audio
(5.1チャネル+5.1チャネル出力またはS/PDIF+2.1チャネル出力)
リモコン 必須
HDD Serial ATA(NCQサポート)
OS Windows Vista Home PremiumまたはWindows Vista Ultimate

Viiv対応のPCは上表の要件を満たさなくてはなりません。
例えば、CPUはデュアルコアでなくてはならないのでCeleronやシングルコアCPUはViiv対応になりません。Viivはリビングルームを志向するテクノロジーであると同時にインテルのデュアルコア販売戦略の一部ということもできるのです。
なお、Windows Vista 以前のViiv対応OSはWindows XP Media Center Edition2004/2005(以下、MCEと表記)のみでした。Windows XP Professional やHomeをOSとして搭載したPC はViiv対応とはなりませんでした。
MCEやWindows Vistaに標準搭載されているWMCは、専用リモコンによる手軽な操作で、統合的にPC上のさまざまなメディアを扱うことができるOSによる「10フィートUI」です。
Windows XP では、MCEにのみ搭載されていましたが、国内メーカーのテレパソはWindows XP ProfessionalやHomeに独自の10フィートUIを組み込んでテレビ機能などを実現していたのです。これは、MCEがProfessionalやHomeに比べてライセンスが高価だったこと、OS標準のWMCでは他社と差別化できないこと、WMCがデジタル放送に対応していなかったことなどが原因です。そのためWindows MCEはほとんど普及しませんでした。


WMCのメニュー画面

ところがWindows Vistaでは、国内PCメーカーはWMC採用に動き始めています。
最も売れ筋となるWindows Vista Home PremiumにWMCが標準搭載されており、MCEのような特別な機能ではなくなったうえ、独自のテレパソ機能や10フィートUIとWMCの並立はユーザーに混乱を与えます。また、インテル・マイクロソフト両社はViiv+WMC環境に対応したインターネット上のコンテンツを充実させています。映像配信を中心にしたコンテンツでマイクロソフトのメディアオンラインのしくみを利用して配信しており、それらの視聴にはWMCが適しています。さらに、Vistaで画面描画の仕組みが大きく変更されたことが影響しています。XP以前はテレビソフトの多くで「ビデオオーバーレイ」技術が使われていました。CPUやGPU(グラフィックプロセッサユニット)にあまり負荷がかからないこともあり、古くから使われてきましたが、Vista Home Premium以上の「Windows Aero」環境ではビデオオーバーレイは廃止されており、ビデオオーバーレイを使ったソフトはAeroが一時的に無効化され、「Basic環境」になります。動作しない場合もあり、再生できたとしても、切り替えには数十秒かかるため、操作感がよくありません。Aero環境では、ビデオ再生に「DXVA」という技術が使われており、WMCは、MCEですでにDXVAを使用しています。HomePremiumを搭載するPCは多く、それらに標準で装備されていることから、Vista向けに表示機能を変更するのならメディア関連機能はWMCに、ということになりそうです。
しかし、そこから先の対応は各メーカーごとに異なります。例えば、富士通は、FMV-TEOでWMCを使用せず(搭載しているので呼び出せば使用できる)、独自の「マイメディア」で対応しています。ソニーはWMCを全面的に採用していますが、それと別に「Emotional Player」など独自の再生ソフトを搭載しています。NECは独自のMedia Garageを捨て、WMCを採用していますが、そこから呼び出されるテレビ機能は「SmartVision」という別の独自のUIをあたかもWMCの一部として動作するように組み込んでいます。ホームネットワーク機能も独自のものです。日立製作所もWMCに統一しながらも、テレビ機能は自社の「Prius Navistation」を組み込んでいます。WMCが地デジに対応しておらず、各社が独自のテレビ機能を組み込むことはやむをえないとはいえ、WMC+独自UIと異なる操作系が混在することはユーザーにとっては快適とは言いがたいところがあります。

各社の対応状況
メーカー WMC対応 自社10フィートUIなど
富士通 不採用 マイメディア
ソニー 採用 Emotional Playerなど別アプリを搭載
NEC 採用 WMCにSmartVisionを組込み
日立 採用 テレビ機能はPrius Navistationを組込み

静音化・ファンレス・待機電力・高速起動

PCの静音化、ファンレス構造、待機電力、高速起動は、リビングルームPCにとって、CPUの動作速度やストレージの容量などの処理速度・処理能力などこれまでのPCの選択基準と同程度の重要性を持っています。
PC内部の高性能なパーツはCPUを含め、動作時にはかなりの熱を発生します。そのための放熱ファンは必須で、CPU、GPU、チップセットクーラー、電源ユニット、ケースファンなどデスクトップ型PCでは2〜5台のファンがうなりをあげています。ハードディスクや光学ドライブなど回転機構を持つ装置の回転音やアクセス音もリビングルームでは大きな音に聞こえるかもしれません。
特に発熱が大きいのはCPUですが、従来、CPUはクロック周波数を高めることで高速動作と高性能化を実現していました。しかし、最近ではCPUコア数を増やして性能を上げる方法が主流になってきました。さらに注目されてきたのが、ノートPC向けのCPUです。ノートPC向けのデュアルコアCPUであるCore 2 DuoやCore Duoを採用するデスクトップPCが増えています。もともと消費電力が小さく、発熱も小さいため、ファンレス化が容易です。ノートPCでは限られた筐体の中で性能を発揮するために放熱用のファンが少なく、この技術がデスクトップ型のPCで活かされることで、PC全体のファンレス化が実現されます。
富士通のエンターテイメント・リビングルームPC「FMV-TEO」やソニーのテレビサイドPC「VGX-TP1」にもCore2Duoが採用されています。静音化に配慮していない一般的な通常PCで48dB程度、PCからファンを排除したファンレスPCで31dBまで静音化できると言われます。

また待機電力と高速起動にはPC独自の事情があります。リビングルームでは、すぐにテレビを見たい、すぐにWEBサイトを見たいという要求を無視できません。他のAV機器と同じように電源をオンにしてすぐに操作したい場合には、PCを高速起動させるために、電源オフ時に周辺デバイスの状態を読み取って保管し、電源オンの復帰時に元通りの状態に再構成しなければなりません。ところが、復帰速度は周辺デバイスやデバイスドライバに強く依存し、家電製品のように瞬時に電源オンの状態に戻すのは困難です。そのために、常に電源をオンにしておくか、スタンバイモードにしておくことになります。電源オンでは待機電力が大きすぎ、スタンバイモードでは復帰に時間を要する(数秒程度)ため、遅れが生じます。電源オフでは遅すぎる、電源オンのままでは消費電力が大きい、スタンバイモードでも遅れるという状態が生じます。そこで登場したのが、ソフトウェアではWindows Power Sense、ハードウェアではCPUの動作状態を負荷に応じて動的に制御する技術です。Windows Power Senseでは電源オンとスタンバイの間に「レスト(休憩)」というパワーステート(電源状態)が追加されました。「レスト」では、PCは電源オンのまま可能な限りの省電力モードで動作し消費電力を引き下げます。
また、CPUの負荷に応じて動作を制御する技術は、ノート用CPUのようにクロック周波数と動作電圧を動的に制御する仕組みをデスクトップPCに導入しようとするもので、AMDのAthlon64のCool'n'Quietテクノロジーですでに実現されています。
こうした省電力化技術は、これまで何ら対策が存在しなかった問題にOSやCPUアーキテクチャーのレベルで取り組みが始まったのは、メーカーが処理性能本位から、使用環境まで含めたPCの性能に向き合い始めたことを感じさせます。

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リビングの覇権を争うPCのライバル

大画面テレビのHDMI端子は、果たしてどの機器に接続されるのか、ゲーム機まで含めてPCは果たしてテレビサイドの好位置を確保できるかを考えます。
リビングルームでは、オーディオ装置やDVD/HDDレコーダ、VTR、さらにはゲーム機が大画面テレビに接続されています。これらは、PCにとって、大画面テレビのパートナーの座を争うライバルです。
テレビ自体がブロードバンドでインターネットに接続すればネット上のコンテンツを表示できるものが登場しています。2006年7月には松下電器産業・ソニー・シャープ・日立製作所・東芝の大手家電5社とソネットエンタテインメント(ソニー系のプロバイダ)を加えた6社が、ネット対応デジタルテレビ向けのポータルサイトを運営する会社を共同で設立しています。サイト名は「アクトビラ」。映画やドラマ、ニュースなどのコンテンツを集めて、視聴者が見たいときにテレビ画面を通じて見られるようにするとのことで、2007年3月9日以降発売の「アクオス(シャープ)」、4月25日以降発売の「ブラビア(ソニー)」、4月10日以降発売の「ビエラ(パナソニック)」など大画面テレビ全機種で利用可能と発表されています。テレビでさえPCのライバルになっています。

さらに、強力なライバルは、DVD/HDDレコーダやゲーム機です。どちらもともに消費者に積極的に受け入れられており、高い世帯普及率を誇るリビングルームの先住者です。放送の録画やその再生ができるようにしたり、テレビを使ってゲームを楽しめるようにしたりする付加アイテムで、テレビとの強い結びつきを持っています。しかし、これらの実体はコンピュータです。LANインターフェースを内蔵し、当然インターネットへの接続も可能です。DVD/HDDレコーダはネット経由で番組表を入手し、キーワード検索で自動的に番組を録画します。PCでもなかなかみかけないTB(テラバイト)オーダーのストレージを持つものもあります。携帯型のゲーム機には無線LANが内蔵され、インターネットのコンテンツを表示することができます。据え置き型のゲーム機では、専用のネットコンテンツ(Wiiチャンネル)を持つものもあり、内容はゲーム機で楽しむネットテレビです。PCよりもはるかに親しみやすい操作性を持つこれらの機器も侮れません。

しかし、PCの持つアドバンテージは小さくはありません。インターネットへの快適なアクセス、アプリケーションソフトの利用、コンテンツやデータの取り込み、それらの編集・加工、メールやテレビ電話などの通信機能、これらを効率よくスマートに実現できるのはPCだけです。
ところが、リビングルームでPCを使うときに大画面テレビがPCディスプレイに切り換わると言うのではリビングルームの主は納得しないでしょう。さらには情報機器を操作するという緊張感を生じたりしたら、エンターテインメント性は著しく損なわれてしまいます。リビングルームでは、これまで通りのPCと言うわけにはいきません。少なくともリビングルームの住人としてAVラックに収まる外形・寸法と他の機器やインテリアとの調和を乱さない外観、他の機器と同様なリモコンによる操作、機器の静粛性や低発熱性、接続端子の前面と背面への配置の振分けとレイアウトなど、これまでのPCでは考慮されることがなかった要素を見直さなくてはなりません。この点でPCはまだリビングルームの新参者です。 しかし、家電品や民生機器で消費者の厳しい注文に応じてきた国内PCメーカーには、PC家電化への苦手意識はないと思われます。10フィートUIをOSに先駆けて搭載し、著作権保護など制約が多く、複雑な国内のデジタル放送事情にもたくみに対応しています。

GyaOや@Nifty動画、メディアオンラインなどコンテンツの鑑賞、音楽配信、さらにJavaやFlashなど次々に登場する新しい技術や規格、更新され続ける機能を活用したさまざまなコンテンツはパソコンだからこそ対応できるといってよいでしょう。

今後リビングルームPCには、プリンタやデジカメなどの周辺機器との接続、PLC(電力線通信)による家庭内LANでの画像や映像の共有や配信機能、メールやWEBカメラを使った大型のテレビ電話などのコミュニケーション、DVD/HDDレコーダに代わる映像や音楽などの大容量データの保存、加工、編集などリビングルームエンターテインメントを統合するサーバとしての機能が期待されています。コンピュータとAV機器、ゲーム機との連携や融合はまだ端緒についたばかりです。技術的にはまだこれからといってよいほど、PCがリビングルームでできることは沢山あります。そろそろリビングルームにPCを置いてみてはいかがでしょうか。

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