ホームコンピューティング -パソコンか家電か?PCがリビングにやってくる- |
PCの世界では、2003年前後のDVDの本格的な普及が始まったころから、マイクロソフト社のWindowsXP Media Center 2003 、2005年のインテル社の「Viiv」、そして2007年1月のマイクロソフト社のWindowsVista Home Premiumなど、ホームエンターテインメントを指向する動きが強くなっています。こうした技術に背中を押されるように、PCにもAV機器と見まごうばかりの洗練された筐体デザインや、リモコンによりPCとは思えない操作性を実現したものが登場し始めました。デジタルハイビジョン放送やDVDはもとより、テレビや携帯型デジタル音楽プレーヤーとの連携、インターネットの動画コンテンツ再生など、エンターテインメント性を前面に打ち出したPCはあきらかにこれまでのPCとは異なっています。リビングルームに向かい始めたPCがどのようになっているか見てみましょう。
エンターテインメント・リビングPCというコンセプトリビングルームで使うPCはテレパソとどう違う最近リビングPCという言葉を見かける機会が多くなりました。リビングルームで使いたいPCという考え方は新しいものではなく、2003年のマイクロソフトのWindows XP Media Center Edition 2004、2005年のインテルViiv テクノロジーが発表された頃から製品化されています。日本国内では、テレパソと呼ばれるテレビチューナーを内蔵したPCがその代表です。ビデオキャプチャー機能、DVDやHDDへの録画・再生機能、地上波デジタル、衛星デジタル放送チューナーの搭載、中にはチューナーを二台搭載して二番組同時録画機能、次世代DVDドライブ搭載、ハイビジョン録画機能など、テレビ、ビデオに関する豊富な機能を装備しています。
こうしたテレパソ全盛の中で、2007年1月Windows Vista搭載PCが国内各社から発表されました。その中にテレパソとは少し違うユニークなコンセプトを持つPCがありました。富士通のエンターテインメント・リビングPC、ソニーのテレビサイドPCです。どちらもリビングルームに設置することを強く訴えるPCです。本稿では、これらをリビングルームPCと呼ぶことにしましょう。例えば、テレビやデジカメ、DVカメラで撮りためた画像や映像、音楽、録画した番組、DVD、「GyaO」や「@Nifty動画」のようなインターネット動画コンテンツなどをリビングルームの大画面で楽しみたいというニーズを形にしたものです。テレビチューナーを内蔵し、専用ディスプレイの大型化したテレパソでも同じことは可能ですが、この場合、テレビはPCの中で動作するアプリケーションと同じです。テレパソはパソコンで、基本的にはPCとしての機能や操作が優先します。
リビングルームPCでは、表示は大画面のテレビ、音声はオーディオ機器、というようにリビングルームの先住者たちと手を組んで高品質のAVライフとエンターテインメント性を実現しようとしています。テレビの近くに置くPCとして、映像や音声などマルチメディア機能を充実し、テレビとの連携、リモコンよるAV機器並みの操作性、鑑賞を邪魔しないファンレスなどの低騒音化、静音化、低発熱構造、インテリアや他の機器と並べて設置しても違和感を生じない外観のデザインなどを実現しています。
テレパソがテレビ視聴などマルチメディアを充実させたPCであるのに対し、リビングルームPCは、PCをベースにしたエンターテインメント機器と呼ぶことができます。 リビングルームPCの大きな特徴は画面リビングルームPCでは、画面表示をPC専用ディスプレイではなく大画面テレビを前提としています。現在の液晶やプラズマのような薄型大画面テレビはハイビジョン映像の表示を前提としており、画素数も多く、高精細表示が可能です。そこで、大画面テレビの中にはPC用アナログRGB入力ができるようにしたり、DVI端子を用意して1280×1024ピクセルなどの高解像度を実現したものがありました。そして、大画面テレビに標準的に装備されるようになったHDMI端子の登場で、大画面テレビでPCディスプレイと変わらない高精細な表現が可能になりました。
HDMI(High-Definition Multimedia Interface)は映像・音声・制御信号を1本のケーブルにまとめたマルチメディアインターフェースです。HDMIはすべてデジタル信号でやりとりします。従来、DVD/HDDレコーダとテレビやAV機器間相互を結ぶケーブルはアナログ信号を伝達するものでした。DVDのように機器内部ではメディアも信号処理もデジタルで行っているのに、テレビへの出力やPCからの映像信号入力もすべてアナログ信号でした。HDMIはデジタル信号を入出力しますので、PCやDVD/HDDレコーダ、テレビなどの機器内部で入出力のために、デジタルからアナログ、アナログからデジタルへ変換する必要がなく、そのため、変換誤差や変換時の信号劣化による画質や音質の低下がありません。映像音声信号とともに、制御信号や機器同士の認証信号のやりとりを行うことができるため、機器間の連携も容易になり、デジタル放送や録画で問題になりがちな著作権保護機能への対応もスムーズです。PCの動作やリモコンによるテレビの電源オンオフ、画面モードの切り替え、デジタル放送受信や録画など、大画面テレビとの緊密な連携が必要となるリビングルームPCにもHDMI端子は必須といってよいでしょう。 各HDMIバージョンごとに伝送できる主な信号の種類
リビングルームで使うPCとはリビングルームで使用するPCには、処理速度、記憶容量、インターフェース、グラフィック性能などこれまでPC本来の性能とされてきた部分以外に、求められる機能や性能があります。リビングルームでのPCユーザーは情報処理のオペレーターではありません。PCをテレビと同じ感覚で操作して楽しみたいと思っています。 また、PCに大画面テレビを接続して使用する場合には、ユーザーは画面から少し離れた位置からリモコンで操作することが多くなり、デスクトップに小さなアイコンを並べてマウスで操作するPCのユーザーインターフェースとは異なる操作環境が必要になります。その距離を10フィート(約3m)程度と想定して、アイコンやメニュー表示を調整した環境を10フィートUIと呼んでいます。蛇足ですが、これに対して通常のPC用ディスプレイ2フィートUI、携帯電話のようにすぐ近くで使用するものを0フィートUIと呼ぶメーカーもあります。
リビングに集合し始めたPCたちWindows Vistaの発売に合わせるように、リビングルームに定住を狙うPCが登場しています。オーディオメーカーのオンキヨーのオーディオPCのHDC1.0を加えて、現在のリビングルームPCの実情を紹介します。 富士通(FMV-TEO)エンターテインメント・リビングPCという新しいコンセプトで登場しました。大画面テレビに接続して使用することが前提という大胆なPCです。テレビとはHDMIケーブル1本で接続され、デジタル放送の視聴、録画、再生、インターネット上の動画コンテンツもリモコンで操作し、テレビのチャンネルが増えたような手軽な感覚で楽しむことができます。
FMV-TEOでは、OSに標準装備されているWMCではなく、富士通独自の10フィートUI「マイメディア」で、デジタル放送、DVD、ビデオ、画像、音楽などメディアの視聴・編集・加工・保存・再生を行います。 アップルMac mini (MA608J/A)アップルコンピュータ(以下、アップル)は2005年1月に高さ約5cm、一辺が約16.5cmの小さな正方形のMac miniを発表しました。それから約1年後、Mac miniはインテルCPUとリビングルーム向け機能を搭載して再登場しました。
Mac miniのリビングルーム向け機能とは、「Apple Remote」と新しくなった「Front Row」です。Apple RemoteはMac mini付属のリモコンです。iPodライクな操作感で、Appleの10フィートUIであるFront Rowを軽快に操作することができます。Front Rowは、新Mac miniにあわせてアップデートされており、DVD再生、iTunesに登録された音楽や音楽ビデオ、Movieフォルダ内の映像、さらにはiPhotoに登録された写真を楽しむことができます。ホームネットワーク接続された他のMacやPCに保存されている音楽や写真、映像も楽しむことができるようになっています。大画面テレビとの接続も可能ですが、HDMI端子は装備していません。 ソニーLivingPC / VAIO type X Living「大画面テレビとつないでハイビジョンの高画質をリビングで」のキャッチコピーで、ブルーレイディスクドライブを搭載したリビングルームPCとして登場しました。テレビサイドPC(TP1)と似たコンセプトですが、こちらは外観はオーソドックスなAV機器スタイルにまとめられています。
デジタル3波(衛星、110度CS、地上波)チューナーを内蔵し、ブルーレイディスクとハイビジョンテレビ、HDMI端子の組み合わせで、デジタルハイビジョン放送をそのまま録画して楽しめます。メディアを扱うプリインストールソフトも充実しています。OS標準のWindows Media Center 以外にVaio Video ExplorerやEmotional Playerといったテレビ視聴・録画・再生・コンテンツ管理、音楽、画像、ネットワークなどが多数搭載されており、多彩な楽しみ方ができます。 日立Woo「Prius Deck N」「Prius Deck N」シリーズは、「リビングPC」のコンセプトでありながら専用の20インチワイドディスプレイが用意されています。さらに、HDMI端子も備えており、リビングルームの大画面テレビやプロジェクターへも接続できるようになっています。
ケースは、幅59mmのスリムタワー型で、まるで1Uのラックマウントサーバを縦置きにしたような形状です。従来の同社製品と比較してもほぼ半分の幅に小型化されており、例えばディスプレイ背面に置くことでディスプレイ一体型なみのスペースで設置することもできるようになっています。このモデルは2005年10月に発売され、デジタルチューナーは非搭載ですが、HDMI端子を搭載しています。Windows Vista搭載のPrius Tシリーズではディスプレイ一体型や大画面の専用ディスプレイとの組み合わせなどテレパソ的なコンセプトのPCが多く、HDMI端子を装備したPriusPCはありません(2007年1月以前の機種)。 オンキョー (HDC-1.0)HDオーディオコンピュータという珍しいコンセプトを実現したのが、オーディオメーカーオンキヨーのHDC-1.0です。
サウンドボードはデジタル機器内で発生するパルス性ノイズを完全除去することに成功し、VLSCと呼ばれる回路では基板上に大容量コンデンサや極太のバスバーを使用して高音質を実現しています。PCというよりオーディオ機器というべきかもしれません。
リビングに向かうPCを後押しするテクノロジーPCがリビングルームで活躍するためには、ただ大画面に表示できるというだけでなく、テレビやAV機器に劣らないマルチメディア機能、リビングルームでの使用に適した操作性や機能が必要です。これらを実現するための技術を紹介しましょう。 ViivテクノロジーとWindows Media CenterViivはインテルのデジタルホーム向けプラットフォーム技術です。Viiv対応のPCは「リビングルームのエンターテイメントの中核として、ビデオやオーディオ、ネットワークコンテンツやゲームなど、さまざまなエンターテイメントをリモコン操作中心の簡単なインターフェースで楽しめるマシンとなる」としており、まさにリビングルームPCへの取り組みそのものです。 Viiv PCのシステム要件
Viiv対応のPCは上表の要件を満たさなくてはなりません。 WMCのメニュー画面 ところがWindows Vistaでは、国内PCメーカーはWMC採用に動き始めています。 各社の対応状況
静音化・ファンレス・待機電力・高速起動PCの静音化、ファンレス構造、待機電力、高速起動は、リビングルームPCにとって、CPUの動作速度やストレージの容量などの処理速度・処理能力などこれまでのPCの選択基準と同程度の重要性を持っています。 また待機電力と高速起動にはPC独自の事情があります。リビングルームでは、すぐにテレビを見たい、すぐにWEBサイトを見たいという要求を無視できません。他のAV機器と同じように電源をオンにしてすぐに操作したい場合には、PCを高速起動させるために、電源オフ時に周辺デバイスの状態を読み取って保管し、電源オンの復帰時に元通りの状態に再構成しなければなりません。ところが、復帰速度は周辺デバイスやデバイスドライバに強く依存し、家電製品のように瞬時に電源オンの状態に戻すのは困難です。そのために、常に電源をオンにしておくか、スタンバイモードにしておくことになります。電源オンでは待機電力が大きすぎ、スタンバイモードでは復帰に時間を要する(数秒程度)ため、遅れが生じます。電源オフでは遅すぎる、電源オンのままでは消費電力が大きい、スタンバイモードでも遅れるという状態が生じます。そこで登場したのが、ソフトウェアではWindows Power Sense、ハードウェアではCPUの動作状態を負荷に応じて動的に制御する技術です。Windows Power Senseでは電源オンとスタンバイの間に「レスト(休憩)」というパワーステート(電源状態)が追加されました。「レスト」では、PCは電源オンのまま可能な限りの省電力モードで動作し消費電力を引き下げます。
リビングの覇権を争うPCのライバル大画面テレビのHDMI端子は、果たしてどの機器に接続されるのか、ゲーム機まで含めてPCは果たしてテレビサイドの好位置を確保できるかを考えます。 さらに、強力なライバルは、DVD/HDDレコーダやゲーム機です。どちらもともに消費者に積極的に受け入れられており、高い世帯普及率を誇るリビングルームの先住者です。放送の録画やその再生ができるようにしたり、テレビを使ってゲームを楽しめるようにしたりする付加アイテムで、テレビとの強い結びつきを持っています。しかし、これらの実体はコンピュータです。LANインターフェースを内蔵し、当然インターネットへの接続も可能です。DVD/HDDレコーダはネット経由で番組表を入手し、キーワード検索で自動的に番組を録画します。PCでもなかなかみかけないTB(テラバイト)オーダーのストレージを持つものもあります。携帯型のゲーム機には無線LANが内蔵され、インターネットのコンテンツを表示することができます。据え置き型のゲーム機では、専用のネットコンテンツ(Wiiチャンネル)を持つものもあり、内容はゲーム機で楽しむネットテレビです。PCよりもはるかに親しみやすい操作性を持つこれらの機器も侮れません。 しかし、PCの持つアドバンテージは小さくはありません。インターネットへの快適なアクセス、アプリケーションソフトの利用、コンテンツやデータの取り込み、それらの編集・加工、メールやテレビ電話などの通信機能、これらを効率よくスマートに実現できるのはPCだけです。 GyaOや@Nifty動画、メディアオンラインなどコンテンツの鑑賞、音楽配信、さらにJavaやFlashなど次々に登場する新しい技術や規格、更新され続ける機能を活用したさまざまなコンテンツはパソコンだからこそ対応できるといってよいでしょう。 今後リビングルームPCには、プリンタやデジカメなどの周辺機器との接続、PLC(電力線通信)による家庭内LANでの画像や映像の共有や配信機能、メールやWEBカメラを使った大型のテレビ電話などのコミュニケーション、DVD/HDDレコーダに代わる映像や音楽などの大容量データの保存、加工、編集などリビングルームエンターテインメントを統合するサーバとしての機能が期待されています。コンピュータとAV機器、ゲーム機との連携や融合はまだ端緒についたばかりです。技術的にはまだこれからといってよいほど、PCがリビングルームでできることは沢山あります。そろそろリビングルームにPCを置いてみてはいかがでしょうか。 参考URL
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