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UP TO DATE 「ワンセグ」、小さな画面の大きな可能性
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このところ番号持ち運び制とテレビ付きケータイ(携帯電話)がにぎやかです。テレビ付きは、2006年4月1日に放送を開始したワンセグ放送を受信できるケータイです。ワンセグ放送はモバイル受信を前提としたテレビ放送です。ノイズやゴーストに強く、電車や車での移動中でも安定した画質で受信でき、データ放送もサポートしています。ケータイやPCとの連携による発展の可能性も大きく、小型画面を前提にしていることから、PCやPDA、カーナビ、ゲーム機、携帯音楽プレーヤーなど実に多彩な携帯型受信機が出回っています。
今回は小さな画面に大きな可能性を秘めた「ワンセグ」に焦点をあてます。

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ワンセグとは

「携帯・移動体向けの1セグメント部分受信サービス」というのがワンセグの正式な名称でした。現在では、正式な名称も「ワンセグ」となっています。名前の由来を説明するには、地上波デジタル放送(以降は「地デジ」と表記します)の電波利用のしくみから説明するのがよさそうです。

地デジでは、各テレビ局が放送に使用する約6MHzの周波数帯域が14に区切られています。区切られた1つ1つをセグメントといいます。1つのセグメントは429kHzの周波数幅を持っています。14のセグメントのうち1セグメントはガードセグメントといい、隣接局との干渉防止のために空けてあります。残りの13セグメントが放送に使われます。
ハイビジョン放送は情報量が多く、それだけ広い周波数帯域が必要で、12セグメントを使用します。標準画質の放送では4セグメントを必要とします。セグメントは13ありますので、標準画質放送であれば、1つのテレビ局から同時に3番組を放送するといったことができます。これをマルチ編成と呼びます。スポーツ中継の放送時間が延長されても、他のセグメントを使って定刻通りにドラマの放送を開始することができます。
こうして12のセグメントが使われ、残る1セグメントが、モバイル向けのテレビ放送に使われます。1セグメントだけを使う放送だから1セグメント放送、これを略してワンセグと呼ぶようになっています。

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ワンセグ放送と普通の放送との違い

ワンセグはモバイル受信を目的としていることです。
受信対象を明確にしている放送です。電車やバス、車などの交通機関での移動中や外出先で安定してテレビ放送を受信できるように工夫されています。もちろん自宅で見てもかまいませんが、ワンセグはモバイル向けとして、映像や音声には制限が加えられています。例えば、ワンセグを大画面で見ても実用的ではありません。小型の画面での視聴を前提としているからです。
しかし、小さいからモバイル用途とは言えません。地上波アナログ放送を受信できるテレビ付きケータイは商品化されて久しいのですが、実際に街頭で受信しようとすると、安定した画質で受信するのは難しいことがわかります。車に搭載されたテレビも同様です。ダイバーシティアンテナなどの受信機能を強化した装置を付加しても、走行中に安定した画質を楽しむことは難しいと感じられます。人や自動車、建物などに電波がさえぎられて、音や映像がとぎれたり、雑音が発生したり、画像が乱れたりします。
ワンセグは、モバイル向けに特化しており、デジタル放送の特長を活かし、屋外で遭遇しやすい雑音や画像の乱れなどの受信障害は最小限に抑えられています。小さな画面を前提とし、圧縮技術を採用し、コマ数や音質を制限することで放送信号の情報量を小さくして、安定した受信ができるようにしています。

ワンセグが携帯・移動体向けの放送に向く理由

  • マルチパスやゴースト、ノイズなどの受信障害に強い
    デジタル放送の特長です。電波障害を受けやすい移動体受信に適しています。
  • アナログテレビに比べて省電力
    テレビ付きケータイの例では、アナログテレビ放送の受信で1時間、ワンセグは2時間以上視聴可能と言われます。
  • 放送信号を圧縮することができる。
    狭い帯域でも十分な画質・音質で放送を送ることができます。
  • 双方向データ通信が可能。
    ケータイやPDA、PCで視聴していれば、ネット経由などで手軽に番組に参加できます。
  • ITとの親和性が高い。
    デジタル信号で送られてくる信号は、PCやPDA、ケータイで扱いやすく番組とネットとの連携やeコマースへの拡張などが容易です。
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ワンセグを知るためのキーワード

ワンセグは、かつての正式名称に携帯・移動体の言葉があるように家庭内の据え置き型で視聴するテレビとは一線を画しています。そのワンセグの特徴は、地デジと比較すると、わかりやすくなります。両者の主な違いを比較したのが下の表です。

地デジ ワンセグ
受信対象 固定受信 携帯受信
画面サイズ・解像度 大画面・ハイビジョン 小型・QVGA
動画フレーム数 30フレーム 15フレーム
音声/音声コーデック 5.1チャンネル ステレオ
AAC(192Kbps) AAC(48Kbps)+SBR
データ放送フォーマット BML BML
動画圧縮方式 MPEG-2 H.264
ビットレート 280〜624Kbps/セグメント* 324Kbps*

*:ビットレートは受信条件によって大きく変動します。

いくつかのキーワードについて、地デジと比較しながら、ワンセグの特徴を説明します。

画面サイズ

50インチ超の大画面で高精細な映像を楽しむことができるのが地デジです。一方のワンセグはどこへでも持って行けるコンパクトさや携帯性のよさが売りです。
そのために、画面サイズはコンパクトなQVGA(Quarter Video Graphics Array:キューブイジーエー)を前提としています。解像度320×240ドットで縦横比4対3、または、320×180ドットの縦横比16対9です。QVGAはVGAの4分の1サイズの意味です。VGAはPCでおなじみの640×480ドットで構成されるディスプレイの規格名です。

動画フレーム数

1秒あたりのコマ数のことです。コマ数が多ければ多いほど滑らかな動きを表現することができます。地デジは1秒間に30フレームです。ワンセグではその半分の1秒間に15フレームです。トーク番組のような動きの少ない映像では問題ありませんが、動きの速いスポーツ番組ではブロックノイズが出たり、映画のエンドロールのように動き続ける映像は輪郭がにじむ感じがしたりします。しかし、小型画面ではフレーム数の減少によるデメリットよりも、機能を絞り、放送信号を圧縮することで情報量を減らし、屋外を移動中でも途切れることなく映像を楽しめるメリットの方が大きいといえます。

音声/音声コーデック

地デジの音声は、サンプリングレート最大96kHzの高音質2チャンネルまたは5.1チャンネルサラウンドで放送されています。これに対し、ワンセグはサンプリングレート48kHzのステレオ(2チャンネル)です。CDは44.1kHzですので、ワンセグの方が音質はよいように感じますが、実際の放送では受信状態により最高の状態で視聴できるとは限らないので、CDを超える音質にまではいたりません。さらに、ワンセグ受信機はモバイルを前提としているので、騒音や振動の多い場所での視聴も多く、音声の再生装置も超小型のスピーカーやイヤフォンなどが多く、高音質は実感しにくいのが現実です。そのため、ワンセグでは、原音に忠実なハイファイよりも聞き取りやすさが求められます。
コーデックとは、アナログ信号とデジタルデータを変換する回路や装置、ソフトウェアのこといいます。地デジは、MPEG-2-AAC(Advanced Audio Coding)を採用しています。AACは、MPEG(Moving Picture Experts Group)が開発したマルチチャンネル音声フォーマットで、高音質・高圧縮率を両立しています。さらに、ワンセグではAACに加えてより低ビットレートに効果のあるSBR(Spectral Band Replication)を採用して音質を確保しています。
※サンプリングレート:音声アナログ信号を1秒間に何回デジタルに変換するかを、「Hz」という周波数の単位であらわしたもの。高いほど高音質だが、データ量は増える。
※ビットレート:1秒間の音声データを何ビットで表すかを、bps(bit per second )で表します。数値が大きいほど高音質になるが、データ量も増える。

データ放送

ワンセグも地デジも、BML(Broadcast Markup Language:データ放送用マークアップ言語)でコーディングされたデータ放送が行われています。BMLはXMLをベースに放送業務用に特化した言語です。映像や音声と同時にBMLを受信すると、受信機側に装備されているBMLブラウザがBMLを解釈し画面に表示します。
テキストデータのほか、JPEG、GIFといった静止画像データの送信も可能で、画面内にボタンを配置したり、インターネットへのリンクなどを書くこともできます。データ放送部分からのリンクは1回目のリンクを1次リンクと呼び、映像は消えないままBMLフォーマットの新しいページが表示されます。Webページへのリンクも可能ですが、Webページを表示させるとテレビ映像は表示されなくなり、WEBページが全画面に表示されます。

圧縮技術

狭い周波数帯域の中で、映像・音声・データを送信するには放送信号の圧縮技術は必須です。ワンセグの動画圧縮には、H.264という技術が使われています。MPEG系圧縮のMPEG-4 AVC(Advanced Video Coding)」とも呼ばれます。
データ圧縮率は、地デジに採用されているMPEG-2の2倍以上、MPEG-4の1.5倍以上とされています。同じデータ容量で2倍以上の時間の映像を、画質を保ったまま保存できると言われ、動画コンテンツや携帯機器向けのデータ配信に幅広い普及が期待されています。2008年にはCSデジタルでの採用が予定されています。

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ワンセグ受信機

ワンセグは、電池駆動で携帯可能な多様な機器で受信できるのが大きな特長です。現在でも、専用小型テレビはもとより、ケータイをはじめPDAやPC、ゲーム機、携帯音楽プレーヤー、カーナビなどさまざまな機器に組み込まれています。
衛星放送のような大きなアンテナを必要とせず、やがて全国津々浦々で受信できるようになります。そのため、小型テレビと侮れないほど大きな応用範囲を持っています。

携帯電話

ワンセグの話題がケータイに集中するのは、一台だけで受信と双方向機能を手軽に利用することができる理想的なワンセグ端末だからです。ワンセグ放送を見ながら、画面のすぐ近くにある、慣れ親しんだ携帯のボタンを操作することで、瞬時に双方機能を利用できる手軽さにはPCもかないません。


ワンセグ携帯

専用テレビ、DVDプレーヤー

現在ワンセグ専用テレビは市販されていません(2006年11月末現在)。ポータブルDVDプレーヤーへの搭載は進みつつあります。


ワンセグチューナー内蔵DVDプレーヤー

カーナビ

車載用テレビと合わせて巨大な市場が広がっています。カーナビはワンセグ対応が必須になるものと思われます。車対衛星など双方向への可能性も拓かれています。


富士通テン
カーナビ、AVN7406HD

携帯音楽プレーヤー

ワンセグに対応したMP3プレーヤーです。画面も大きく、使い勝手はよさそうです。HDDの容量も大きく、録画して持ち歩きたくなります。


携帯音楽プレーヤー

携帯ゲーム機

春先に発表され、年内(2006年)にワンセグチューナーの発売が予定されています。インターネットにも接続でき、ワンセグの双方向機能への対応も可能です。


携帯ゲーム機

PDA

PDA自体が現在のところにぎやかな市場とはいえません。しかし、PCやケータイと同様に無線LANやPHSによる通信機能を持っており、ワンセグ端末としては便利です。


PDA

PC

ノートパソコンへのチューナー搭載が進んでいます。モバイルPCにはワンセグ、デスクトップやオールインワンPCには地デジチューナーの搭載が進んでいます。


富士通
ワンセグ対応PC、T70S/V

外付けチューナー

PC用の外付けチューナーも発売されています。
USB接続タイプとSDカードタイプのものが市販されています。


USB接続タイプワンセグチューナー

SDカードタイプのワンセグチューナー
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何が放送されているか

ワンセグでは地上デジタル放送と同じ番組が放送されています。サイマル放送(Simultaneous Broadcasting、同時放送)といいます。ワンセグは、放送免許が2ヶ国語放送やデータ放送、字幕放送など地デジの「補完放送」とされています。そのため地デジと同じ番組が放送されています。しかし、この放送免許は、2008年に更新されることになっています。今後のワンセグの普及の度合いによっては、規制が解けて、ケータイとの連動など双方向性を活かした独自コンテンツが放送されるようになる可能性があります。
データ放送は、通信機能を持つケータイなどの受信機であれば、ニュース・天気予報や番組関連情報を画面上に呼び出すことができます。ケータイやPCのように通信機能が使えれば、ワンセグの双方向性を活用して、番組の詳細な情報を得たり、関連グッズの購入したりなど、インタラクティブなサービスを利用することができます。
なお、地上アナログ放送と地デジの間でも、サイマル放送が行われています。これは、2011年7月のアナログ放送停波のため、デジタル放送への移行期間として、総務省によって1日3分の2以上のサイマル放送が義務づけられていることによります。

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ワンセグのこれから

ワンセグにとって、理想的受信機はケータイです。ケータイキャリアにとっても、ワンセグの双方向性は魅力です。双方向機能で送出されるパケット料だけでなく、テレビ番組との連携、WEBへの誘導、販売やサービスへの入り口として、eコマースへの拡大など、この先大きく成長する可能性を秘めています。テレビを視ている間はパケット料金収入はないと、やや冷淡な印象だったキャリア各社も、「FMラジオ付きケータイ」と「着うた」などのビジネスモデルの成功で自信を付けています。逆にテレビ局の方に戸惑いがあるようです。ケータイでは、テレビとネットの切り替えが瞬時にできます。すると、広告がスキップされてしまうかもしれません。データ放送のBMLは放送局が管理していますが、WEBはそうではありません。視聴者の動向がつかみにくくなります。ワンセグが放送とネットを接近させることで、テレビ局の既存のビジネスモデルは見直しの必要も出てきます。
また、ワンセグ映像の録画にからむ著作権の問題もあります。現在、ケータイでワンセグを録画することはできます。しかし、録画した映像をメモリカードに移したり、メールに添付して送ったりといったことはできません。録画した機器内部で完結する場合に限られています。地デジのB-CASカードのようなコピー制御のしくみはありませんが、一律にコピー不可の信号が同送されています。しかし、ユーザーにとっては、通勤時間にタイムシフトでニュースやスポーツ、語学学習など、通勤時間や休み時間の活用にはとてもよいツールなのに、思った通りに録画ができず、用途が制限されることになります。ユーザーが増えるにつれこれは問題になってくるでしょう。
最後に、ワンセグには災害時のコミュニケーションツールとして期待する声があることを紹介します。ワンセグ受信の主力であるケータイは、ほとんどの場合、常時待機状態となっていることから,緊急警報放送の受信に有効な手段として期待されています。待機電力が必要なため、省エネルギーの観点から必須機能になっていませんが、持ち運び自由で、いつでもどこでも見られます。停電していてもほとんどの受信機が電池で動作します。ケータイのように輻輳(ふくそう)*の心配もありません。データ放送を組み合わせればきめ細かなローカル情報を出すこともできます。実用に向けては、今後のさらなる議論を待つことになりますが、これもワンセグの持つ大きな可能性のほんの一部にすぎません。ワンセグはこれからさらに伸びる放送サービスです。

*:輻輳:通信で利用が集中したときなどに起こる通信網の渋滞のこと。

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