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UP TO DATE 地上波デジタル放送
−2011年、アナログ放送は終了する−



2011年すべてテレビ放送はデジタル放送となり、アナログテレビ放送は停波することになります。全国4800万世帯の1億2000万台のテレビがなんらかの方法を講じないと、テレビは見られなくなります。
発端は、1997年3月郵政省(現総務省)の幹部による「地上放送のデジタル化に向けた取組み」の発表。当時、欧米諸国が相次いで地上波のデジタル放送を開始する予定であったことが背景にあったといわれますが、実現性の検討を詳細に行う前に、早いタイミングでのデジタル化構想が発表され、その後、この計画は電波法の改正案に内容として盛り込まれ、通常国会で承認されました。
一部に反対論や停波時期の延長論が渦巻く中で、地上波デジタル放送の受信可能範囲は着実に拡がっています。いったい地上波デジタルとは、何なのでしょうか。

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なぜデジタルなのか

現在のテレビ放送は、50年の歴史を持ち、かつては娯楽の王様と呼ばれ、今でも放送局の持つ豊富なコンテンツには、ネットを中心に成長してきたIT企業は羨望のまなざしを向けています。
しかし、テレビ放送の実情はとても厳しいのです。

多様化するメディアに奪われる視聴者

1996年には16%にすぎなかったインターネットの世帯普及率は2001年には50%を超え、2005年は77%に達しています。ブロードバンド普及に伴い、音声・動画が当然のように流通し、しかも強力な双方向性を持っています。ネットへの広告の出稿量は増加しており、テレビ局のビジネスモデルにも影響が出始めています。インターネットだけではありません。1996年に1000万台だった携帯電話は2006年には国内で9000万台に達し、単なる通話装置ではなく、メール、WEB、音楽プレーヤー、ラジオ、テレビ、決済機能、PDA機能まで実現し、多機能携帯端末と化し、すでにテレビの持つ機能をはるかに凌駕しています。こうした新しいメディアの台頭はテレビの存立基盤そのものを揺るがし始めています。

電波の効率的な利用

携帯電話、PHS、無線LAN、RFタグ、Bluetooth、GPS、衛星放送など電波を利用するテクノロジーやサービスの増加により、電波は以前にも増して貴重な資源となっています。無線を使ったサービスや技術の拡大、実用化を目指す企業や事業者、行政機関は、周波数の再割り当てや電波の効率的な利用を強く求めています。現在のテレビ放送はVHFからUHFに至るまでに5つの広い周波数帯を占有しています。それでもアナログ放送は、すでに現状でチャンネルは満杯と言われており、利用状況は決して効率的とは言えません。

追いつけないサービスの多様化・多機能化

年末のNHK紅白歌合戦では16年度にはデジタルテレビ審査員に70000人の参加があったといいます。
自宅のリモコンで簡単に参加できる視聴者参加型番組は、まさにデジタル放送の特長を活かしたもので、視聴者とテレビとの結びつきを大きく変える可能性を持っています。サービスの多様化、多機能化には、ITとの結びつきが欠かせません。そのために、高密度な情報伝送の実現、情報機器との親和性を高める必要があります。双方向性やデータ放送など、サービスの充実により、他のメディアに奪われた視聴者を取り戻すには、現在のアナログテレビ放送のままでは無理があります。

変化し始めた視聴スタイル

HDD/DVDレコーダーやホームサーバーなどのデジタルビデオ機器がテレビの視聴スタイルを変えました。タイムシフト視聴と呼ばれ、HDD/DVDレコーダーに録画したものを自分の都合のよい時間に視聴するスタイルです。その先には、見たい時に見たい番組を見るビデオオンデマンドがあります。このスタイルは、テレビ局にとって深刻な問題です。視聴率が計算できず、しかも、再生時にはCMが飛ばされてしまいます。これはテレビ局のビジネスモデルを根底から揺さぶることになります。

以上のように、テレビを取り巻く環境は厳しいものがあります。メディア間の競争、電波の有効利用、サービスの多様化、多機能化、視聴スタイルの変化、こうしたテレビ放送の抱える問題を解決できるのが、テレビ放送のデジタル化なのです。テレビのデジタル化はもはや時代の要請ということなのです。

しかも、アナログからのデジタルへの移行には、波及効果を含めると212兆円と試算される経済効果のおまけもついてくると言われています。

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デジタル放送とは

アナログ放送にはない、デジタル放送の特長はなんだろうか。

雑音やマルチパス障害に強いデジタル放送

アナログ放送では、電波の強弱やノイズ、ゴーストなど受信状態によって映像や音の質が大きく変化しますが、デジタルの場合は、送られてくる信号から1と0が識別できればよいので、弱い電波であっても普通に受信できる状態でも画質に差は出ません(但し、一定のレベル以下では、まったく見えなくなってしまいます)。都市部におけるゴーストの解消や雑音の影響を解消するのに最適なのです。さらに受信状態が一定せず、アナログ放送では安定して受信しづらい移動体や携帯端末向けの放送も実現できるようになります。

情報機器や他のデジタルメディアとの高い親和性

デジタル化されたデータは、コンピュータをはじめとする情報機器との親和性が高く、データ放送や双方向サービスへの対応が容易で、パソコンに変わる行政サービスへの端末の可能性も検討されています。パソコンや携帯電話を使った録画や視聴予約、サーバ型放送への展開、光回線を使った難視聴地域へのIPマルチキャスト放送などさまざまなデジタルならではの応用や展開が考えられています。デジタル化によって見るテレビから使うテレビへと用途が飛躍的に拡大するのです。

周波数利用効率が高く多チャンネルが可能

アナログ放送は1チャンネル6MHzの帯域を使用しますが、隣接周波数との混信や干渉を避けるためにチャンネルを連続して配置することができません。デジタル放送も同様に6MHzの帯域を使用しますが、動画の圧縮技術などにより、6MHzの帯域の中で、ハイビジョン放送1チャンネル、標準画質の放送なら3チャネルに加えて、ワンセグと呼ばれる移動体向けの1チャンネルを送信することができます。地方局や難視聴対策のための中継局では、同じ周波数で中継できるという大きなメリットがあります。アナログ放送では同一周波数や近接周波数での中継はできません。地元に放送局はそれほどないのにチャンネルが満杯と言われるのはそのためなのです。

サービスの統合化や柔軟な変形が可能

デジタル化することで、電波以外の伝達手段で送信できるようになります。ADSL等のDSL回線や光回線を使って、ビルの谷間や大きな建物の影で難視聴になる地域への配信や、インターネットやLANを通じてテレビ放送も可能になります。サーバに蓄積した番組をオンデマンドで視聴したり、それらに課金する仕組みなどが作りやすく、多種多様なサービスへの展開が容易になります。

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地上波デジタル放送の特徴

日本の地上波デジタル放送は2003年の放送開始以来、アナアナ変換(後述)を含めさまざまな問題を解決しながら着実に受信可能範囲を広げています。以下に日本の地上波デジタル放送の仕様をまとめてみました。

項目 規格 備考
規格 ISDB-T
(Integrated Service Digital Broadcasting System-Terrestrial)
デジタル放送の規格名、日本独自の規格で海外のデジタル放送との互換性はない。
使用周波数帯 470MHz〜770MHz UHF、13〜30chに相当
搬送波 マルチキャリア(OFDM) 直交周波数分割多重方式
ゴーストに強く、同一周波数で中継できる長所がある
変調方式 DQPSK, QPSK, 16QAM, 64QAM QPSK:4相位相変調(携帯受信SDTV)
DQPSK:差動4位相変調(ワンセグ)
16QAM:4ビット直交振幅変調(SDTV)
64QAM:6ビット直交振幅変調(ハイビジョン)
動画圧縮方式 MPEG2 DVDにも採用されている動画圧縮方式。動画を40分の1程度に圧縮できる
動画フレーム数 30〜60フレーム  
音声 MPEG2 AAC
LCプロファイル
AAC(Advanced Audio Coding)は音声圧縮方式の一種、高音質・高圧縮を目的に標準化。
画面サイズ 高画質・高音質の欄参照 SDTV〜HDTVまで
データ放送 BML XHTMLをベースに日本独自仕様の言語
セグメント単位の運用 13セグメント/最大3種同時運用 それぞれに対して違った変調をかけることができる。
ワンセグ放送も可能。
その他特長 マルチパス耐性
同一周波数中継
インパルスノイズ耐性
ゴーストに強い。
同一周波数で中継できる→周波数資源の有効利用
ノイズに強い

地上波デジタル放送はハイビジョンが基本

地上波デジタル放送では、50%以上の番組がハイビジョンで放送されます。 ハイビジョンはNHKが開発した高精細度テレビジョン技術の愛称です。高品位TVとかHDTV(Hi-Definition TV)と呼んだりすることもあります。これに対して、従来のテレビ放送の映像をSDTV(Standard Definition television)やSDと呼んだりします。映像の規格は5種類定義されています。

端子 規格 総走査線数 水平解像度 有効走査線数 走査方法  
D1 525i 525本 720 480本 インターレース 現在、見ている普通のテレビ画像。
D2 525P 525本 720 480本 プログレッシブ 通常のテレビ画像の2倍の情報。
D3 1125i 1125本 1920 1080本 インターレース 鮮明なデジタルハイビジョンの画像。解像度では、750pより優れているが、ちらつきでは劣っている。
D4 750P 750本 1280 720本 プログレッシブ 鮮明なデジタルハイビジョンの画像。解像度は、1125iに劣るが、ちらつきは優れている。
D5 1125P 1125本 1920 1080本 プログレッシブ ちらつきがないデジタルハイビジョンの画像

端子は、受信機やチューナーとハイビジョンテレビを簡単に1本のケーブルで接続するためのコネクタの規格です。D3以上をハイビジョンと呼んでいます。

D端子の写真

テレビ放送では、画面を細かい横の線に分解して送ります。受信側では、この線を同様に画面上で横に走らせて画像を結びます。この線を走査線といい、その数が多ければ多いほど高精細な映像が映し出せることになります。走査線を走らせるのに、インターレースとプログレッシブという方法があります。インターレースは、走査線を1、3、5、、、と一本ごとに走らせ、次に、2、4、6と奇数、偶数を交互に走らせます。従来のテレビはこの走査方式です。プログレッシブは、上から一画面分を順に走査します。インターレースは動きをなめらかに表現できる反面、画面にちらつきが生じやすい欠点があります。

ハイビジョンでは、画面の縦横比(アスペクト比)は16:9の横長の画面です。この縦横比は、人間の視野に近く、臨場感や没入感を得やすいとして決められたと言います。画角30度で見るのが効果的とされます。そのために画面の高さの3倍以内で見るのがベストと言われます。ちなみに従来のNTSC方式のテレビは画角10度、画面の高さの7倍で見ることを前提にしているといいます。
デジタル放送では、CD並の音質と、5.1チャンネルサラウンドで音声を送ることもできます。ハイビジョン画像に加えて臨場感豊かなサウンドを楽しむことができます。

テレビとのつきあい方が変わる双方向サービス

クイズ番組、投票やアンケート、ショッピング、オークション、ゲームなどさまざまな番組に受信機のリモコンを使って視聴者が参加できるようになります。先述したように、年末のNHK紅白歌合戦の例では、70000人の視聴者が自宅にいながらにしてテレビ番組に参加するというこれまでのテレビではできなかった楽しみ方を経験しました。視聴者のリクエストに応じた情報提供など、双方向サービスは視聴者のテレビとのつきあい方や番組の作り方を劇的に変える可能性があります。
双方向サービスを受けるためには、B-CASカードの登録と、地上波デジタル放送受信機に電話線を接続したり、一部の受信機に装備されているLAN端子をADSLなどに接続し、インターネット経由でテレビ局に接続します。前者の場合には通話料金が、後者の場合には別途プロバイダー料金が必要になります。

必要なときに必要な情報を。データ放送

地上波デジタル放送では、映像や音だけでなく、ニュースや天気予報、放送中の番組の解説、出演者、音楽、料理番組のレシピ、商品など関連するさまざまな情報をデータとして送ることができます。受信機のリモコン操作で、番組と一緒にいつでも画面に表示させることができます。字幕情報も用意されることになっており、難聴者はもちろん、字幕だけで番組を楽しんだりすることができます。さらに、重宝なのがデジタルレコーダーの機能としておなじみの電子番組表(EPG)です。画面に表示される番組表を見ながら録画や視聴予約をしたり、チャンネルを選択することができます。スポーツ中継が延長され、番組表に変動が生じた場合にも直ちに番組表が更新されます。
これらのデータ放送のデータは、XHTMLをベースにしたBML(Broadcast Markup Language)というマークアップ言語で記述され、映像や音といっしょに送られてきます。受信機にはBMLを表示・実行するためのブラウザが内蔵されています。BMLはARIB(Association of Radio Industries and Businesses)が制定した日本独自の規格です。

強力なガード、しかし使いづらさに苦情も、著作権保護

デジタル放送では、放送局が送信したのと同じクォリティの映像や音を受信側で再現することができます。アナログ放送と違って画質や音質が劣化することがありません。これは録画した番組をコピーするときも同じです。何世代でも元の画質や音質と同じ状態でコピーすることができます。そのため、デジタル放送では著作権保護のため、テレビ局は1世代に限りコピーを許可するコピーワンスというプロテクト制御信号を番組と同時に送信します。すでにBSデジタル放送では実施されています。
ところがHDD/DVDレコーダーで、デジタル放送番組をHDDに録画するとその時点で1世代コピーが実行されたことになり、メディアにコピーして保存しておくことができません。CPRM(*)という著作権保護機能に対応したメディアにムーヴ(移動)させる形で保存することはできます。しかし、ムーヴを失敗した場合でもHDDに録画した番組は消去されることが多く、ユーザーにとっては使いづらいものになっています。苦情も多く、メーカーからは見直しへの要望も出ています。デジタル放送に対するプロテクトは海外では実施されておらず日本だけで行われているという残念な事実もあります。
(*:Content Protection for Recordable Media 、コピーワンス番組を録画するときに使われるコピーガード方式)

これがないと見られない、B-CASカード

デジタル放送の受信機には、「B-CASカード」というICカードと登録用はがきが同梱されます。B-CASカードにはIDが記録されており、このIDがデジタル放送信号の暗号化を解除するための鍵になります。有料放送のスクランブル解除や双方向番組への参加時もこのIDが使用されます。放送局から送られてくるコピーワンス信号もこのB-CASカードで復号されます。
2004年4月からデジタル放送受信の際には必ずB-CASカードを使用するようになっており、使用しないと無料放送であってもデジタル放送を見ることはできません。
B-CASカードと一緒に添付される登録用はがきでIDを登録します。登録したからと言って無料の放送が有料になるわけではありません。登録しないと、「B-CASカードを挿入してください」というメッセージが表示されたり、NHKの場合は使用開始から1ヶ月間経過するとチャンネルを合わせるたびにメッセージが表示されたりします。WOWWOWのような有料放送は登録しないと視聴できません。

1つの放送局から同時に3つの番組。マルチチャンネル・マルチ編成

デジタル放送では、6MHzの帯域を429KHzずつ13のセグメントに分割して使用します。標準画質の放送であれば、セグメントを4つずつ使用して、3番組と次に説明するワンセグの4つを同時に放送することができます。合計1.8MHzで送信することができます。例えば、野球放送が長引いたときには、1つのチャンネルで野球を延長放送し、別のセグメントを使って放送予定時刻どおりにドラマを放送すると言ったことができます。全部の帯域(12本)をまとめて1本のハイビジョン番組を放送することもできます。
現在はBSデジタル放送のWOWWOWの番組表を見るとよくわかります。通常は同時刻には1本の番組なのですが、ときには同時刻に3本の番組が並んでいることがあります。標準画質で3本送っているのです。

携帯でテレビが見られるワンセグ放送

ワンセグ放送は、携帯端末向けの地上波デジタル放送です。
デジタル放送では、1チャンネルあたり6MHzの帯域を使います。この6MHzは13のセグメントに分割されます。この中の1セグメントだけを使って放送するのがワン(1)セグ放送です。携帯電話などの端末は画面が小さく高画質を求める必要がなく、音質もほどほどでよいため、1セグメント割り当てることができます。
マルチパスや雑音に強いデジタル放送の特長を活かして携帯端末向けに放送することになっており、カーナビ、携帯電話、PDA、モバイルPCや携帯ゲーム機や携帯音楽プレーヤーなどの対応機器で、いつでもどこでもテレビを視聴できるようになります。
従来から、テレビ付きの携帯電話は存在しますが、通常のアナログテレビ放送を受信するので、画質や音質は受信状況に大きく左右され、安定した画質で視聴するのは困難と言われます。これに対して、ワンセグ放送は、雑音やマルチパスに強いデジタル放送ですから、画像や音質ははるかに安定しています。
ワンセグ放送と家庭で受信するデジタル放送との違いは以下の表のとおりです。

  固定受信向け ワンセグ放送  
動画圧縮方式 MPEG2 H.264 H.264の圧縮率はMPEG2のほぼ2倍
MPEG2はDVDにも採用されている動画圧縮方式
動画フレーム数 30〜60フレーム 15フレーム 現在のアナログテレビは30フレーム
音声コーディック AAC(192Kbps) AAC(48Kbps)+SBR AAC(Advanced Audio Coding)は音声圧縮方式の一種、高音質・高圧縮を目的に標準化された。サンプリング周波数は最大96kHz。
総ビットレート 最大23.3Mbps 約312kbps  
画面サイズ 高画質・高音質の欄参照 320×240(QVGA)
または320×180
 
データ放送 BML BML  

2006年4月からの本格的な放送開始に向け、対応携帯電話やノートPCが出揃いつつあります。
放送開始後は、通常の固定受信向けの放送と同じ番組が放送されることになっています。視聴は無料です(NHKは受信契約が必要です)。
このワンセグは日本独自の放送方式によって実現したサービスで、携帯電話やゲーム機でも利用可能であることから、持ち運び可能な新しいメディアとして、また災害時の情報ツールとしても期待できそうです。

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地上波はアナログからデジタルへ

2011年7月にはアナログ放送波を停波し、テレビはすべてデジタル放送に切り替わります。デジタル化のスケジュールとそこに至るまでの問題点を考えます。

止まらないデジタルへの潮流

テレビ放送のデジタル化を止めることはできないといってよいでしょう。携帯電話が次々に実現する各種サービス、インターネットの持つ双方向性、急速に進む音楽や画像の配信サービス、双方向性を活かしたビデオオンデマンドなどの新たなサービスを展開する衛星デジタル放送やケーブルテレビなど新しいメディアの台頭は目覚しいものがあります。これに対してかつては娯楽の王様と言われたアナログテレビ放送は完全に差をつけられています。HDD/DVDレコーダーの普及はタイムシフト視聴を手軽なものにし、CM飛ばしなどビジネスモデルを根底から覆しかねない問題も発生しています。社会的な要請もあります。電波を使うサービスやテクノロジーの増加によって、国民全体の資産である電波資源の有効活用と再配分を求める声が日増しに大きくなりつつあります。VHFからUHF帯に広い帯域を占めるアナログテレビ放送に、デジタル化による密度の高い電波利用とそれによる帯域の開放が求められています。放送のデジタル化にはそうした背景があります。
(地上アナログ放送終了後のアナログテレビは、地上デジタルチューナーまたはチューナー内蔵の録画機を接続すれば使用可能です。)

実現へのステップ

地上デジタルテレビ放送は段階的に受信範囲が広がっており、2006年中にすべての県庁所在地で視聴可能になります。そして、平成23年(2011年)7月24日には地上デジタルテレビ放送に完全移行し、現在の地上アナログテレビ放送の終了を予定しています。 これまでの経緯と今後の予定を一覧してみましょう。

◇地上波デジタル放送の歩み◇
98年 3月 旧郵政省が地上デジタル化のめどを2000年と発表
98年 10月 旧郵政省がデジタル化のスケジュールを発表
98年 11月 東京タワーから実験電波を送出
99年 5月 改正放送法と高度テレビジョン放送施設整備促進臨時措置法が国会で成立
00年 12月 BSデジタル放送開始
01年 6月 改正電波法可決でアナログ停波決定
01年 7月 地上アナログ放送の2011年7月24日停波告示
03年 2月 アナログ波の一部周波数変換(アナアナ変換)スタート
03年 12月 3大都市圏(関東・中京・近畿)の一部で地上デジタル放送開始
04年 12月 総務省が全国県庁所在地での地デジ放送開始の目標時期を示す「ロードマップ」を発表
05年 4月 12府県で放送開始
05年 10月 デジタルチューナー搭載機器表示シール開始
05年 11月 カラーテレビ出荷台数でデジタルがアナログを超える

06年 4月 携帯端末向け放送(ワンセグ)開始予定
07年 11月 BSアナログハイビジョン放送終了
06年 12月 全国の都道府県庁所在地で放送開始完成予定
11年 7月 地上アナログ放送終了予定

(毎日新聞 2006年1月5日 東京朝刊より抜粋)

なお、地上デジタルテレビ放送局開局スケジュールの詳細は以下のURLをご覧ください。
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/whatsnew/digital-broad/schedule01.html

引越のための仮住まいを作るアナアナ変換

アナアナ変換とは、地上デジタルへの移行時に、デジタル放送用の周波数を確保するために、既存の放送の周波数を変更する作業のことです。引越しのための仮住まいのようなものです。このアナアナ変換の対象になるのは全国で約426万世帯です。周波数変更と言っても簡単ではありません。アナアナ変換の対象となる地域では、放送局側では中継局新設費用などの負担もあり、視聴者はテレビチャンネルの再設定や、場合によってはアンテナの取り替えが必要な場合があります。一般家庭の対策費用はすべて国が負担することになっており、この費用は当初727億円と見積もられましたが、現在では1800億円にまで膨らんでいます。そして、この1800億円は、テレビ放送がすべてデジタル化された時点で消えてしまう費用なのです。

どうなる1億台のテレビ

現在1億台を超えるアナログテレビを2011年までにすべてデジタル対応にしなくてはなりません。2005年5月時点でデジタル放送対応テレビの普及率はわずか8.5%です。
2005年末にはそれでもデジタル対応テレビの出荷台数が放送開始からの累計で800万台を超え、出荷台数は年とともに増えています。しかし2005年のテレビの売り上げ台数はおよそ700万台のうちデジタル放送に対応しないテレビの出荷台数が70%を占めています。カラーテレビの耐用年数は約10年で、それも年々伸びる傾向にあります。カーナビのテレビやポータブルテレビ、ビデオやHDD/DVDレコーダーも同じです。デジタル家電として人気の高いHDD/DVDレコーダーでさえ、2005年の出荷台数の70%が地上波デジタル非対応機なのです。あと5年でこれらのテレビはそのままでは放送を見ることはできなくなります。
地上デジタル全国推進会議は2011年のアナログ停波までのデジタル放送対応テレビの普及台数を次のグラフのように見ています。2006年のW杯ドイツ大会、2008年の北京五輪ではずみをつけて、停波直前の2年で駆け込み需要を、と読めます。

見えないところはどうする、難視聴対策

地上波デジタル放送は直進性の強いUHF帯の電波を使用します。そのため、送信アンテナの見通し範囲で問題ありませんが、建物の影や、ビルの谷間、山間部など(難視聴地域)では、アナログ放送よりも受信ができない場所が多くなるといわれます。
アナログ放送は、電波が弱くても、ゴーストやノイズまじりでなんとか受信だけはできますが、デジタル放送では、一定のレベルの信号を受信できれば、信号の強弱にかかわらず画質は変わりません。しかし、あるレベル以下の弱い電波ではまったく受信ができなくなってしまいます。
電波の弱い地域では、より多素子のアンテナへの交換や、ブースターの導入などが必要となります。
都市部では光ケーブルによる難視聴対策も検討されています。しかし、光ケーブルによるデジタル放送には著作権の壁があります。電波によるコンテンツの送信は「放送」、光ケーブルは「通信」、両者の著作権の扱いが異なることから、光ケーブルによる番組送信は認められないというテレビ局側の主張があります。国境のないインターネットへの番組の流出という懸念もぬぐいきれません。 ケーブルテレビという選択もあります。ケーブルテレビにおいては、区域外送信の問題があります。デジタル放送は区域外での視聴を認めておらず、難視聴地域だからといって区域外に再送信することはできないことになっています。
いずれにしても、光、ケーブルテレビどちらも従来、無料で見られたテレビ放送が、光ケーブルやケーブルテレビ料金など何らかの支出を伴うことになります。総務省は難視聴対策に対しては、当事者の負担としています。

アナログ停波は実現するか

2011年のアナログ放送停波は難しいとする意見と停波は実現するという意見が拮抗しています。
難しいとする意見では、アナログ停波が正確に知られていないこと(2005年3月の調査でアナログ停波は2011年7月と知っていた人はわずか9.2%だった)、デジタル放送対応テレビの普及の遅れていること、アナアナ変換に伴う巨額の費用見積の誤差、直進性の強いUHF電波を使用することによる新たな難視聴区域の発生、過疎地や山間部の難視聴対策、後から後から出てくる諸問題を解決できるかどうか、疑問視する向きも多いのは事実です。
一方、デジタル移行は実施できるとする意見では、サッカーW杯や北京オリンピックなどの大きなイベントが薄型テレビの低価格化を推進し、デジタル対応機器の普及が進むと見ています。確かに、2005年末の薄型テレビやデジタル家電販売の好調は、デジタル放送に向けて世の中が動き始めたと感じさせるものがあります。普及が進めばさらに低価格化が進み、価格低下でさらに普及が進むというスパイラルも期待されます。放送法や著作権法見直しなど、政府の後押しも強力です。また、放送局側の事情もあります。2011年以降もサイマル放送(アナログとデジタル両方の同時放送)を継続するとなると、2局分のコストで放送を続けることになります。放送局側の負担は莫大なものになりますし、2011年までに更新される放送免許や機器の更新の問題もあります。停波の延期も簡単な話ではないのです。
では見通しはどうかというと、停波の実現はかなり厳しいと考えられます。テレビの生産台数が追いつきません。国内では、年間1000万台が生産されていますが、残り5年間、すべてデジタル対応機だとしても5000万台。すでに販売済みの800万台(2005年12月)を加えても、1億2千万台の半分にしかなりません。現実には、25インチ未満のアナログ放送用テレビが売上の大半を占めています。やっと認知度が向上してきたとはいうものの、一般の視聴者にとってまだデジタル放送は対岸の火事なのです。後5年は短すぎるように思われます。

各国のデジタル放送

現在は、以下の国と地域でデジタル放送が行われています。
それぞれの国にデジタル放送の規格がありますが、現在は北米のATSCと欧州のDVB-Tに大別することができます。日本と中国はそれぞれ独自の方式を採用しています。
ATSCはゴーストに弱く、移動体受信もよくありませんが、同じ電力ならば電波が遠くに飛びます。欧州のDVB-Tは同一周波数中継やゴーストに強い特長があり、移動体受信も考慮されています。

  • アメリカ、カナダ、韓国(以上、ATSC方式)
  • イギリス、スウェーデン、フィンランド、ドイツ、スペイン、オランダ、オーストラリア、シンガポール、台湾(以上DVB-T方式)
  • 中国(独自方式)、日本(ISDB-T)
  • メキシコ、インド(方式不明)

代表的な国を一覧してみましょう。

方式 ATSC
(Advanced Television System Committee)
DVB-T
(Digital Video Broadcasting -Terrestrial)
DVB-T
(Digital Video Broadcasting -Terrestrial)
ATSC
(Advanced Television System Committee)
採用国・地域 アメリカ イギリス ドイツ 韓国
搬送波 シングルキャリア(8VSB) マルチキャリア(OFDM) マルチキャリア(OFDM) シングルキャリア(8VSB)
変調方式   QPSK, 16QAM, 64QAM, MR-16QAM, MR-64QAM QPSK, 16QAM, 64QAM, MR-16QAM, MR-64QAM 8VSB
音声 ドルビーデジタル(AC-3) BC(Backword Compatible)
MPEG-1オーディオと互換
BC(Backword Compatible)
MPEG-1オーディオと互換
ドルビーデジタル(AC-3)
経緯 1998年11月地上波デジタル開始
2006年までにデジタル化移行完了の予定
1998年9月地上波デジタル放送開始
開始当初は有料だったが、現在は無料
2002年11月デジタル放送をベルリン首都圏で開始、無料。翌2003年8月にアナログ放送を終了。
2010年にアナログ放送は終了の予定
2001年10月地上デジタル本放送開始
2005年末までに全国で本放送。
2010年終了予定だが、2006年の普及状況を考慮して決定。
デジタル化の指向性 高画質HDTV 多チャンネル・双方向サービス・高画質(非HDTV) 多チャンネル 高画質・HDTV中心
視聴者数   126万人(2002年) 地上波は少数派。テレビ視聴者の10%程度  

あらゆる人に優しいデジタル化の実現を

イギリスは、デジタル技術によって多機能化したテレビが、IT化が進む社会の中で、情報のユニバーサルアクセスを実現させる早道であると考えているといいます。
ハイビジョン放送の画面を見ると、誰もが美しいと感じます。より高画質・高音質・高機能・高品質サービスに向かうことは当然かもしれません。しかし、忘れてはならないのは、今のテレビのままでよいとする大多数の意見です。高機能が複雑で扱いにくいリモコンを生み、手軽に楽しみたいテレビなのに高価なハイビジョンテレビが必要になり、双方向サービスが特定の年代だけを対象にする番組に偏ったりするといったことのないように、誰もが公平にテレビからの情報にアクセスできるようにすることが放送デジタル化への条件です。
高齢者にとってテレビは、携帯電話よりも扱いやすく、パソコンよりも安価で、操作が簡単で、最も親しみのある情報へのアクセス手段です。聴覚障害者にとって、字幕やデータ放送はテレビによる情報バリアフリーを実現するための強力な手段になります。デジタル放送技術はテレビを通じた情報へのアクセシビリティの向上を、実現できる可能性を十分に持っています。高齢者、聴覚障害者、さらには行政サービスや災害時の情報ツールとしても強力な機能を備えています。見るテレビから使うテレビへ、より多くの人がその恩恵を受けられることを祈りたいものです。

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