海外金融業界動向
内部統制の強化への取り組み
[2005年8月号]
近年、世界的に進展している規制緩和や情報通信技術の革新などを背景とした金融取引のイノベーションは、業務の多様化やリスク管理の高度化を推し進める形で金融機関の経営に対してこれまでにないガバナンスを求めるようになっています。実際、金融機関を監督する金融庁が公表した「金融改革プログラム」 (2004年12月)や「地域密着型金融の機能強化の推進に関するアクションプログラム」(2005年3月)でも行政のスタンスがガバナンスの強化を重要視するものに変わりつつあります。そこで、今回は欧米の金融機関においてどのような内部統制が行われようとしているのか、BASELIIなど金融業界独自の法制度体系との関連付けを意識しながら、その概要をご紹介しようと思います。
先駆けとなったCOSOのフレームワーク
米国では公認会計士協会、会計学会および内部監査人協会などからなる5つの機関がスポンサーとなって、さまざまな企業不祥事を未然に防止することを検討するCOSO委員会(正式名称:Committee of Sponsoring Organization of the Treadway Commission)が運営されてきました。この委員会が1992年に公表した「内部統制の統合的枠組み」と呼ばれるCOSOレポートは、組織が法令を遵守しながら事業活動を効率的に行い、しかも信頼に足る財務報告を行うためにはどのようなプロセスが必要であるかを統合的に体系化しています。その後、このレポートが原型や土台となって、98年にバーゼル委員会が公表した「銀行組織における内部管理体制のフレームワーク」が策定され、更に99年にはわが国の金融監督庁(当時)が制定した「金融検査マニュアル」が編集されたと言われています。
エンタープライズ・リスク・マネジメント(ERM)への発展
その後90年代半ば以降、金融取引のイノベーションやリスク管理手法の高度化などが進展してきたことに対応して、このCOSOレポート自体も見直しが行われた結果、2004年の秋に「エンタープライズ・リスク・マネジメント(ERM)」フレームワークとして再構成されました。
このERMフレームワークによれば、(1)しかるべき検討と手順を踏まえた戦略の策定、(2)効果的かつ効率的な事業運営、(3)内外の利害関係者に向けた虚偽のない適正な報告、(4)法令等の遵守などからなる内部統制を求めています。具体的には、(1)誠実かつ倫理的な経営目標に基づく内部環境の整備、 (2)リスクの選好度や許容範囲に応じた戦略・目標設定、(3)それらに影響を及ぼすファクターの分類、(4)リスク・ファクターの定量的・定性的な評価、(5)リスク発生の可能性や影響の大きさを踏まえた対策の費用対効果等の考慮と対応方針の確定、(6)リスクのコントロール、(7)これらに関わる適切な情報の正確かつ迅速な捕捉・識別・伝達、(8)日常的な監視と独立した監査による評価などが必要となります。
ガバナンス、リスク管理およびコンプライアンスの有機的な結合
COSOが公表したERMフレームワークの主たる狙いは、近年ますます問題意識が高まっている内部統制に関する統一的な概念の提示にあったことから、今後、グローバル・スタンダードとなる可能性も有していることから引き続き注目すべき動きでしょう。
一方、エンロンやワールドコムなどの企業スキャンダルが多発したことを受けて、米国ではサーベンス・オクスレー法(Sarbanes-Oxley: SOX)が2002年に成立しました。この404条では、経営幹部が「財務報告書を作成する上で十分な内部監査体制および手続きを確立・維持」し、「内部監査体制及び手続きの有効性」に対する評価を提供する責任を直接負うことが義務付けられており、COSOが提示するERMフレームワークがどのような形で受け入れられていくのか注目されます。
これら内部統制に関連する取り組みと並行して、金融業界ではBASELIIへの対応も当面の重要課題となっています。特に、オペレーショナル・リスクは以上で述べてきた金融機関における内部統制そのものと言っても過言ではない程に対象分野が重なっています。財務報告書を作成するに当たっての透明性の確保や向上などに関する規定はまったく同じ問題意識を背景としています。しかしながら、BASELIIが求める要件はCOSOやSOXなどと比較すると、市場リスクや信用リスクなどの管理目的に基づいて展開されてきた事情からよりリスク管理に軸足を置いていると言えます。
今後、これらの取り組みが有機的に結合した形で進展していくものと思われます。
求められるわが国金融機関の対応
わが国でも、2004年10月以降の度重なる大手企業による有価証券報告書への虚偽記載問題は起こっています。これらを契機として、企業情報のディスクロージャー制度に対する信頼性をいかに確保するかという問題意識から関係省庁においてしかるべき対策の検討が進められ、2004年12月24日に金融審議会第一部会より報告書が出されました。
同報告書によれば、(1)財務報告に係る内部統制の有効性に関する経営者による評価と公認会計士等による検証の基準の明確化を早急に図るべきである、 (2)会社代表による確認書制度の活用促進とともに、同制度の義務化の範囲や方法が適切に判断されるべきである、という提言が盛り込まれており、今後、こうした法制度への対応が急がれることになります。
わが国の金融機関も不良債権処理の峠を越しつつあり、競争力の強化や攻めの経営へと転換しつつあります。確かに、近年の規制緩和や金融イノベーションによって金融機関の経営における裁量の範囲は拡大していますが、それに対応した形でのガナナンス、リスク管理そしてコンプライアンスなどの整備は未だ十分とは言いがたい状況にあります。市場からの信認を高めることを通じて金融機関の企業価値がより一層高められることが期待されています。
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