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海外金融業界動向
基幹システムのマイグレーションへの取り組み

[2005年5月号]

欧米の金融機関の間でもいわゆる「勘定系システム」に相当する基幹システムは独自開発によるものが多く、それらをいかに再構築するかが近年、重要な経営課題になっています。実際、大半の大手金融機関における基幹システムは1960年代から70年代にかけて構築されたものでその後幾度となく機能追加や改造が行われていますが、現在でも依然としてメインフレームで運用されているのが実態です。しかしながら、この数十年間における法制度の改訂や規制緩和、顧客の金融サービスに対する期待や要望の変化、そして何よりも情報通信技術の革新などの前提条件はまさに劇的な変貌を遂げていると言っても過言ではありません。そこで、今回は欧米の金融機関が陳腐化した基幹システムをどのように再構築しようとしているのか、その取り組みの一端をご紹介しようと思います。

一段と劣化が進む既存の基幹システム

わが国と同様に、欧米においても金融業界はコンピュータの導入に積極的な業界の一つでした。1960年代には従来、人手と紙に依存してきた基幹業務、すなわち預金、融資および決済業務をコンピュータによって自動化しました。70年代にはいると、それらの業務を現在のCOBOLで記述する業務アプリケーションの開発が始まり、以降、基幹業務に続いて経営情報システム(MIS)などの様々なアプリケーションが開発されました。
しかしながら、当時の情報通信技術は現在のそれと比べると非常に未成熟な点が多く、しかも各ベンダー独自のものであったために、相互接続性や標準化などが全く考慮されていませんでした。そうしたシステムの柔軟性という点での制約が今日、次第に顕在化して深刻な状況となり、保守やメンテナンスなどの効率を低下させています。また、伝統的な対面取引による金融サービスの中で特に単純な取引などは、今やATM、携帯電話およびインターネットなどを利用したダイレクト取引に置き換えられつつあります。

営業店システム更改における戦略的な狙い

時期同じくして営業店システムが情報通信技術の革新によって抜本的な更改時期を迎えていたことから、このような課題に対処すべく単に通信ネットワークやプラットホームなどの基盤の更改だけではなく、事務の効率化とセールス支援の高度化が戦略的に重要視されていたことは欧米金融機関からのヒアリング結果からも伺われるところです。
顧客と対面でじっくりと商品説明を行える専門的なセールス・スタッフの育成と並行して、店頭の情報装備を強化して優良顧客やその潜在的な顧客層を営業店に誘導するマーケティングを展開するための布石という狙いが最近の営業店システム更改には盛り込まれていたようです。投資信託や保険商品などのように従来の銀行商品と比較するとかなり複雑な商品をセールスするための支援アプリケーションが拡充されました。

基幹システムのマイグレーション・アプローチ

このような課題に対処すべく、欧米の金融機関でも早いところで1980年代から90年代には最初の基幹システムのマイグレーションに取り組み始めたようですが、それらの多くは決して首尾よく成功に終わった訳ではなく、数々の教訓を残したようです。
それらのマイグレーション手法を分類すると、比較的小規模の金融機関で採用されてきた「全面・一括置き換え」、グローバル展開している金融機関で適用される「地域別段階的マイグレーション」そして一般的に多くの金融機関で採用される「業務別マイグレーション」などがあります。リスクやコストなどの点でそれぞれ一長一短があり、各金融機関が置かれた状況によって、然るべき検討や評価を踏まえて決断、実行されたようです。

欧米金融機関におけるマイグレーションの動向と事例

保険会社とリテール銀行を対象とした調査会社によるアンケート結果が物語るように、米国と欧州の間、さらにそれぞれの地域の金融機関によって取り組みの考え方にはかなりの相違があるようです。
全体を俯瞰すると、米国では依然として約半数の金融機関が基幹系システムを保守・メンテナンスしていこうという姿勢であるのに対して、欧州では現行の基幹系システムを継続しようとしている金融機関は約4分の1にとどまっています。また、欧米共通の傾向としては、パッケージの採用を決定ないし計画している金融機関がやはり増えている一方で、「Wrapping」技術によって既存の基幹系システムをバック・エンドとして維持しつつ、独立したフロント・エンドのシステムを開発しようとする金融機関も3割程度あります。
具体的な事例をいくつかご紹介します。スペインの最大手金融機関であるSantanderグループはグループ内共通の単一プラットホームとしてJava ベースの基幹系システムの開発に2億5000万ユーロを投資して主にバック・オフィスのコスト削減や効率化を実現しようとしています。また、ドイツのリテール銀行としてやはり最大手のDeutsche Postbankも3億ユーロを投資してERPベースの基幹系システムを構築しようとしています。地域別に個別カスタマイズしたメインフレームの基幹系システムを運用していたCitibankも既に北米を除く地域から順次、Unixベースの基幹系システムへの移行を始めています。

わが国金融機関への示唆

わが国の金融業界でも近年、基幹系システムの更改をどのように取り組むべきかを巡って様々な企画検討プロジェクトが発足したり、いくつかの金融機関では実際にWindowsやWeb技術を適用した基幹系シスステムの再構築が行われたりしています。そうした状況を踏まえて、海外の金融業界における基幹系システムのマイグレーションに対する取り組み事例から得られる示唆を以下に取りまとめてみます。
1990年代末には「2000年問題」を引き金にしてメインフレームから分散シスステムへの移行が進むと予測されていましたが、「Wrapping」技術やLinuxを搭載メインフレームの登場によって様相が変わりつつあるように思われます。更に、RISCサーバやIntel系サーバなどと対比すると、メインフレームの高い稼働率はミッション・クリティカルな基幹系システムにとって非常に魅力的な点です。また、システム数を絞り込むことによって保守やメンテナンスに係わるコストを抑制できることや近年、社会的な要請が高まっているビジネス・コンティニュイティ・プログラムの観点からも評価されることでしょう。

以上述べてきたように、海外の金融業界における基幹システム再構築の取り組みは全般的にはまだ緒についた段階と言えます。技術的な選択肢が多様化したためにマイグレーション手法も絶対的な評価を一概に下すことは難しいでしょうが、いずれにしてしも巷間言われている「2007年問題」への対応も含めて方向性の見極めが求められています。