東京都品川区では、小中学校の図書館から、他校の図書館と区立図書館10館を含めた蔵書検索ができ、貸し出し予約もできる学校図書館ネットワーク化事業を始めています。既に11の小中学校でサービスが始まり、子どもの本の貸し出し冊数が約2倍に増えるなど、顕著な成果をあげています。品川区では、最終的に区立の57小中学校すべてをネットワークで結ぶ計画を立てています。子ども達の本離れ、活字離れが指摘されている今こそ、児童・生徒にも先生にも本に触れやすい環境をつくることが大切だと考えています。

中野 隆也氏
品川区教育委員会事務局 品川図書館事業第三担当
東京都品川区では、「品川区教育改革プラン21」の一環として、2005年から「品川区子ども読書活動推進計画」を推し進めてきました。具体策としていち早く実施したのが、「学校図書館ネットワーク化事業」です。品川区の学校図書館の平均蔵書数は、小学校が約6500冊、中学校が約8300冊です。一方、区立図書館には合計約百万冊の本があり、児童書だけでも約30万冊を数えます。児童・生徒が毎日使える学校図書館を入り口に、豊富な蔵書を活用できる環境を実現することで、学校図書館の本不足を補いつつ、児童・生徒も先生も読書や調べ物がしやすい環境を形成することができるのです。
「魅力ある図書館を作るためには、本不足を補うだけでなく、さまざまなノウハウが必要です」と、品川図書館で学校図書館のサポート担当でもある中野隆也氏は指摘します。読書は、喜びや感動をもたらす楽しみの要素と、読み書きの力を高める学びの要素の両面があります。
「区立図書館は、長年にわたって『楽しさ』づくりに励んできました。『学び』の要素に力を入れてきた学校の先生方とノウハウを足し合うことで、より魅力ある図書館づくりに向けて大きく前進できるのです」と中野氏は言います。
まず2005年9月、区立小中学校11校で図書館の蔵書をデータベースに登録して、区立図書館とネットワーク接続しました。システムとしては、区立図書館にはすでに富士通の公共図書館パッケージ「iLiswing21/UX」が導入されていましたので、新たに、学校図書館にWeb型学校図書館システム「LB@SCHOOL」を導入。ネットワークを介して2つのシステムを結びました。

松下 敬子先生
品川区立旗台小学校 校長
「子ども達が長い文章を読もうとしないという傾向は年を追って強まっており、学校としても深刻に受け止めてきました」と、品川区立旗台小学校の松下敬子校長は言います。そのため同校では、3年ほど前から国語力を高めるための取り組みを独自に進めてきました。例えば、図書ボランティアによる「本の読み聞かせ」や、昨年度から始めた昼休み後の15分間を使った「読書の時間」などで児童が本に触れる機会を増やしました。その結果、児童の手元にはいつも必ず本があるという状況になりました。
「ただ、学校の図書館には古い本が多く、子どもを魅了する新しい本を思うように増やせないことが大きな悩みでした。区立図書館や他校の蔵書を利用しやすくする今回のシステムで、問題も一気に解決しました」と松下校長は言います。さらに、児童・生徒が自分でキーワードを入力して本を検索でき、貸出や返却手続きもバーコードを利用して簡単に行えるようなったことは、本に触れる機会を増やす大きな手助けになっています。

難波 淑子先生
品川区立旗台小学校 図書担当
休み時間、旗台小学校の図書館は大変な活気に満ちています。これを支えているのが、運営スタッフです。品川区の「学校図書館ネットワーク化事業」は、「システム構築」、「運営スタッフの配置」、「支援ボランティアの養成」、「物流体制の整備」を実現のための4つの柱としているのが特徴です。旗台小学校の図書館にも、1日6時間週3日程度、司書の勉強を積んだ運営スタッフが詰めており、学校図書館内の貸出・返却業務、区立図書館への団体貸出依頼、蔵書整理、先生方の検索代行の他、本の読み聞かせのサポートもしています。さらに、運営スタッフがいない日は、地域住民や保護者による支援ボランティアが図書館に常駐しており、「本のことなら、いつでもここへ来れば相談できる」という体制を作っています。

タッチパネルでキーワードを入力する大きなイラスト付きの操作画面は、子ども達からも好評で「調べ学習」も自然と身についている

検索のしかたを教えたり読み聞かせ授業をサポートしたりする運営スタッフの熱意が、システムの利用と普及の推進力だ
「図書館が変わって、各学年の『調べ学習』にも活用しやすくなりました」と、図書担当で1年生の担任でもある難波淑子先生は語ります。「この間は、『じどうしゃしらべ』というテーマで、各自の好きな自動車について調べ、作文をまとめ、絵も描きました。そのとき、授業の趣旨を口頭で説明しただけで、運営スタッフの方が役立ちそうな本を区立図書館の蔵書から検索し、授業の進行に合わせてまとめて配送してもらうように手配しておいてくれたため、大変スムーズに楽しい授業ができました」と難波先生。6年生の環境をテーマにした「調べ学習」でも、豊富な資料を使って、多種多様な角度から問題を考えることができました。
スタートから半年足らずであるにもかかわらず、「学校図書館ネットワーク化事業」の効果は顕著に表れています。
旗台小学校では、2004年度の1年間で、年間の本の貸し出しは約7000冊でした。ところが新システムがスタートした2005年9月からの2ヵ月間だけで、貸し出し冊数は約3100冊に達しました。その後も、従来のほぼ2倍のペースで本の貸し出しが続いています。本の選択肢が増えたことは、明らかに、学校図書館の魅力づくりにつながっているのです。
「整備する前と後とで、図書館の雰囲気はガラリと変わりました。児童・生徒にとっても、本が身近な存在になり、先生方からも大変喜ばれています。区の事業としても大変やりがいがあります」と中野氏は目を輝かせます。

品川区立図書館と品川区内の小中学校を結ぶネットワークの概要