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これからの医療を考えるうえで大切な5つの視点

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2010年3月、米国では国民皆保険へと大きく舵を切る包括的医療改革法案が成立しました。一方、日本では国民保険滞納者の増大、健康保険組合の解散など国民皆保険の基盤を揺るがすリスクが拡大しています。健康は、個人、企業、国の観点でとらえる時代です。これからの医療に欠かせない5つの視点について、日米の取り組みや現状をあわせてご紹介します。

リスクが拡大する日本の国民皆保険制度と健康水準

仕事もプライベートも健康が基本です。日本の国民は、先進国のなかで健康寿命、乳児死亡率の低さで1位、平均寿命も女性1位、男性3位という世界トップクラスの健康水準を享受しています。高い健康水準の維持にはさまざまな理由が考えられますが、国民皆保険制度が大きく寄与していると思われます。1961年、国民の誰もが必要なときに必要な医療が受けられるように確立された同制度ですが、高齢化社会が進展し厳しい経済状況が続くなか、その存続を揺るがすリスクが拡大しています。

日本の国民医療費は増え続けており、2007年度は34兆1360億円に達し、そのうち保険料でカバーしているのは全体の約50%です。国民医療費の増大は、医療費を分担している企業への影響はもとより国の財政を大きく圧迫します。また、健康保険組合の解散の増大や、450万世帯におよぶ国民健康保険滞納の問題も懸念されます。

経営悪化による相次ぐ病院の倒産、勤務医や看護師の過重労働、小児科医や産婦人科医といった専門医不足など医療現場の疲弊も深刻です。財政健全化のための診療報酬の抑制が続けられたことが一因であると考えられ、その一方で医療現場の負荷は高まっていきました。今後高い成長が見込めず、財政状況が極端に悪化している我が国において、国民皆保険を維持しつつ、現在の健康水準をどのように維持していくのか、本当に大きな課題です。

国民皆保険への道筋をつけた米国

米国の公的保険は高齢者や障害者、低所得者向けの制度のみで、多くの国民は民間保険に加入しています。民間保険は保険料が高く、経済的理由から無保険者が全人口の15%程度を占めるに至り、医療格差の拡大が大きな社会問題となっています。

医療費の負担も2001年から2008年の間に家計部門(従業員保険料)で86%、企業部門(雇用主保険料)で77%と拡大。保険料の急激な上昇が無保険者増大の大きな要因となっています。政府部門でも総医療費の47%を負担、医療費のGDP比も1960年の5.2%から2009年には18%まで上昇しているにも関わらず、米国の平均寿命は先進国中、男性18位、女性20位、乳児死亡率の低さも25位と、医療成果は必ずしも芳しくありません。

こうした現状を打開するために、米国では、2010年3月に包括的医療改革法案(the Patient Protection and Affordable Care Act および Health Care and Education Reconciliation Act)が成立、国民皆保険への道筋をつけました。

国民皆保険へ向かう米国と、国民皆保険の維持に努める日本。その立場や状況は異なりますが、抱える課題や目指すべき方向性は変わりません。これからの医療を考えるうえでは5つのC(Coverage、Cost Control、Coordinated Care、Cost Sharing、Choice)が大切です。そのポイントについてご紹介します。

医療問題の解決に欠かせない5つのC

最初のCはCoverage(保険加入率)です。保険加入率は、医療へのかかりやすさの一つの指標となります。米国は、保険加入率の改善を政策目標にしていますが、2つめのC、Cost Control(医療費の管理策)をともなわずに保険加入率だけを上昇させた場合、総医療費の増大をただ加速させるだけです。

保険加入率を上昇させつつ、医療費の抑制をはかるには一人あたり医療費を削減する必要があります。その具体的な手段として3つめのC、Coordinated Care(連携医療)が考えられ、これにより生活習慣病の発症や重症化を未然に防いでいくことが重要です。米国の医療費の7割は生活習慣病に関するものといわれ、我が国の政府も特定健診・特定保健指導など生活習慣病予防対策を重視しています。

しかし、こうした方策だけでは医療費の増大に対応しきれません。そこで、4つめのC、Cost Sharing(財源分担策)が必要になってきます。日本では、2010年4月に診療報酬がプラス改訂され、今後は医療費削減から適正な規模での医療費増額へと政策の軸足が変わっていくと思われます。その際には、消費税を含めた財源の確保に関する議論の行方を注視してく必要があります。

最後のCは、Choice(選択)です。米国では給付内容が異なる医療保険を選ぶことにより、給付内容と負担を個人が選択できます。一方で、日本は公的医療保険の給付内容と負担を国が定めており、ドラッグラグ・デバイスラグ注1や混合診療の問題などもあるため、相対的に患者の選択肢は狭いと言えます。

健康状態の見える化を実現するPHR(個人医療記録)

5つのCによる医療問題の解決においてICTの果たす役割も広がっています。例えば、個人レベルで健康状態の見える化を支援するPHR(Personal Health Record)が欧米を中心に注目を集めています。Cost Controlに結びつく医療費の抑制では、個人の日常レベルでの健康維持が基本になりますが、そのためには健康状態をリアルタイムに把握することが必要です。

PHRは、バイタルデータや検査結果をオンライン上に登録し、医師や患者が必要に応じてどこからでもアクセスできるようにするシステムです。これまでの医療情報化は医療機関などの効率化を目的に進められてきましたが、PHRは個人基点で保健医療情報を収集、保存、活用するもので、患者中心の医療基盤ツールとして期待されています。富士通は、積極的にPHRに取り組んでおり、事業化の検討をおこなっています。

医療に関して包括的なソリューションを提供

Coordinated Care(連携医療)の観点では、有機的に連続した医療を地域レベルで提供するため、地域連携パスの開発・運用が医療現場で進められています。例えば脳卒中で倒れた場合、総合病院や専門病院、かかりつけの病院、リハビリ病院と、医療機関を超えて連携しながら一連の治療にあたることです。富士通では、全国の病院における導入シェアで30%以上のトップシェア注2を維持する電子カルテシステムの実績とノウハウを活かし、地域連携パスの実施にむけたプロジェクトにも積極的に参加しています。

富士通は、医療情報システムはもとより健康保険組合をサポートする健康情報システム、PHRなど医療に関する包括的なソリューションの提供に努めています。健康は、個人、企業、国の観点でとらえる時代です。富士通総研では日本の医療状況を見据えながら、世界の医療やICT技術の動向を注視し、これからもさまざまな提言をおこなってまいります。

注記

(注1)ドラッグラグ・デバイスラグとは :
ある医薬品又は医療機器が外国で審査・承認されてから日本で承認されるまでの期間。
(注2)導入シェアで30%以上のトップシェアとは :
電子カルテ導入シェア:31%(出所:月刊新医療データブック・シリーズ「電子カルテ&PACS白書2009~2010」)

[2010年6月1日 公開]
〔富士通総研 経済研究所 上級研究員 江藤 宗彦〕


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