- 日本の「林業」を「森林経営」へ成長させるために
これまで巨額の補助金で支えられ、衰退産業と言われてきた「林業」を、成長ビジネスへと転換し新たな雇用を創出するなど、真の「森林経営」へと導き、環境政策のみならず経済政策に発展させるためのポイントについて、富士通総研のエコノミストが解説します。

米国でオバマ大統領が就任して以来、「グリーン・ニュー・ディール政策」が注目され始めています。これは、いわば環境政策を経済政策に結び付けようというもので、我が国でも日本版グリーン・ニュー・ディールが発表されましたが、現在、具体的な取り組みを公募しているような状況で、その内容はまだ十分とは言い難いものです。
米国の環境政策(グリーン政策)は、クリーンエネルギーについての取り組みが主なようですが、歴史的にさまざまな産業を持つ我が国においては、「グリーン・ニュー・ディール」に成り得る可能性を秘めた産業があります。それが「林業」です。
「林業」は、日本では安い外材などのため成立しないとされ、巨額の補助金で支えられる衰退産業というのが今までの印象でした。
日本の木材需要は現在、8,200万立方メートル/年(東京ドーム約66個分)と言われており、そのうちの約23%が国産、残りの約77%が外材です。日本国内の森林の潜在的な生産力は、約5,000万~6,000万立方メートルあると見込まれていますので、残念ながら、現在は満足な生産ができていないと言わざるを得ません。
この状況を打開し、経営の視点で「林業」を営めば、今後は国産木材で需要を満たすビジネスチャンスと雇用の創出が大変に期待できる産業なのです。
実は林業は先進国型産業です。世界の木材生産量の3分の2、製材品生産量の7割は先進国におけるものです。しかも、1990年代に入り、欧米での木材生産量の増加傾向が顕著になっています。

欧州などの先進国では、林業を基点とした木材関連産業の裾野が広く、一大産業集積となって、経済社会を支えています。オーストリアでは貿易黒字の5割を木材産業で稼いでいますし、フィンランドでは2004年にエレクトロニクス産業に抜かれるまでは、最大の輸出産業でした。
また、ドイツの森林面積は1,000万ヘクタールあり、日本の人工林と同等ですが、そこから生産される材は7,700万立方メートルを超えます。これは日本の約4倍にもあたり、林業・木材関連産業の雇用は自動車メーカーをしのぐほどです。近年では、木質バイオマスエネルギー利用も増加の一途をたどっており、一次エネルギーの2.5%を占めるまでになっています。
他の産業が発展しにくい地域にこのような産業集積があることは、地域のみならず国民経済にとっても極めて重要な意味を持つことはいうまでもありません。
このような世界の動向に比べて、我が国の木材生産量は、年々減少しています。
それでは「林業」はなぜ、先進国型産業なのでしょうか。大きく二つの理由があると考えています。
木材に適している針葉樹が、温帯から亜寒帯に多く生息しており、この地帯には先進国が多く存在しているため、おのずと産業として重点を置くことができるという、自然立地的な優位性があります。
先進国では高度に発達した社会システムを構築することができる、経済力とノウハウがあります。木材は、重くてかさばる割に単価が安いという特性があります。このため、物流コストの比重がどうしても高くなりがちです。これを解決するには、伐採地から近いところで加工して物流コストを下げ、競争優位性をつけることが重要です。
また、森林資源を商品化するには、森林作りのノウハウや管理、木材生産やマーケティングなど、多岐にわたるプロセスを必要としており、それぞれの工程において、高度な専門知識や技術を必要とします。つまり「林業」は知識集約産業、技術集約産業であるのです。これを支えるための人材育成や、相互の連携をはかるシステムや組織体制などを発展させることができるのも、先進国で成熟している理由と言えます。
それではなぜ先進国のなかで日本だけが、国内供給の比率が低いのでしょうか。
現代林業の原型であるドイツ林業が日本に入ってきたのは、明治半ばのことです。ところが、それが定着する前に戦争になってしまい、戦後の復興特需(注1)でそれまでにあった木をほとんどすべて伐採してしまいました。1950年生以降に植林した森林が8割を占めるという日本の人工林の林齢(注2)構成がそれを表しています。
木材が本格的に利用できるのは、植林後、50年生前後からでです。つまり、日本国内ではこれまで使えるだけの森林資源がなかったわけです。これに対し欧米の森林は100年を越えて林齢構成が平準化され、立派な蓄積を誇っています。欧州では「森林経営」に早くから取り組んできたため、品質や供給量、木材価格をこの30年間、安定させることができているのです。

日本の戦後の復興特需の際は、物不足により材価が異常に高騰したため、「林業」は高収益をあげることができました。バブル状態だったわけです。
しかし、戦後「林業」の好況は本来の実力を大幅に上回る木材生産によってもたらされたもので、いずれ行き詰まるのは時間の問題でした。実際、供給量は急速に低下していき、価格も下落していきました。
さらに、伐採後に植林された人工林への投資と育林コストが重くのしかかるようになり、日本で林業は成立しないとするあきらめが広がって、自然の生育に任せておく、いわば「環境で森林を支える」との考えが一時支配的になりました。
しかしながら、「環境で森林を支える」ことは不可能です。森林の多面的機能(注3)を引き出すには、適時に間引き(間伐)するなどして、人の手を加える必要があります。ところが、日本では「林業」を産業として成熟させることができなかったため、育林コストを補助金に依存するようになってしまい、多くの人工林は、補助金が出た時だけ間伐するという、無計画なやり方で管理してきました。
日本の森林は人工林だけで1,000万ヘクタールもあり、環境を名目に公共事業として森林を維持管理することは到底できません。間伐した材を運び出して利用する木材生産によって、林業を営む事業者が、自立的に森林を管理する組織や体制、経営基盤を築くことが、「林業」を「森林経営」へと転換させるために必要なのです。
日本も戦後の大々的な植林開始から50年を超える木も増えるようになり、これからまさに先進国型の林業・木材産業を構築できる可能性が出てきました。ただし、「林業」を近代的な「森林経営」にしていくには、従来とは比較にならないくらいの努力が必要です。そのためには以下の3点が必要と考えています。

これまでの日本の林業は、炎天下の重労働ではあるものの、画一的な施業で、特別な技術は必要とされませんでした。ところが、林業の現場はどれ一つとして同じものはなく、現場ごとに柔軟な判断を迫られます。また、前に述べたような森林管理技術を持った人材を育成し、中長期的な計画を策定することも不可欠です。
日本がこのようなバランスの取れた発展を遂げることができるかどうか、今、大きな転換期を迎えています。最近では、上記であげたような取り組みをおこなう事例が現れており、これをベースに「森林経営」をおこなう本格的な試みが林野庁の事業として始まりました。
富士通総研はこのようなプロジェクトに積極的に参画し、森林管理者を育成する研修プログラムの開発や講師を務めるなどしております。ご興味のある方は、お気軽にお問い合わせください。
[2009年3月2日 公開]
〔富士通総研 経済研究所 主任研究員 梶山 恵司〕
この記事は、お客様の変革と成長の実現をご支援する 株式会社 富士通総研が提供しています。
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