- スパコンによる大規模な電気特性シミュレーションに成功
半導体デバイスの性能を高める微細化が限界に近づきつつあるなか、ナノ(注1)メートル規模の新しい材料の利用が盛んに研究されています。富士通研究所は、スパコン(スーパーコンピュータ)の効率的利用により、新しいナノデバイス設計に必要となる原子1,000 個レベルの電気特性シミュレーションに成功しました。
半導体デバイスの高速化や低消費電力化は、デバイスのサイズを微細化することで実現されてきました。しかしそのサイズはナノメートル規模に到達しており、シリコンや銅といった従来材料のままではさらなる微細化は難しいと考えられています。そこで、ナノテクノロジー(注2)を用い、DNAやたんぱく質と同等サイズのナノ材料を使ってデバイスの性能向上を図ろうとする研究が盛んに行われています。
代表的なナノ材料に、鉛筆の芯(黒鉛)やダイヤモンドと同じ炭素原子で構成されているナノカーボン(注3)があります。ナノメートル規模の構造を持つことで、例えば、半導体デバイスのチャネル(電流の通り道)に使用されるシリコンの200倍以上の電子移動度(注4)、配線に使用される銅の1,000 倍の電流密度耐性(注5)等、従来材料にはない優れた性質を備えます。
ナノ材料を使用して全く新しいナノデバイスを開発する際、計算機上のシミュレーションによって電気特性を予測することができれば、実際に実験を行うよりも開発期間とコストを削減できます。しかしナノメートル規模では、原子本来の特性に加え、原子配置のわずかな違いによっても電気特性が大きく変わるため、他の実験データや経験的パラメータ(注6)を基に計算する経験的手法のシミュレーションを適用できません。
そのため、量子力学の基本法則から物質の性質を計算する「第一原理計算」により、原子の種類と配置だけを用いるシミュレーションが不可欠となりますが、計算量が膨大です。これまで第一原理計算による電気特性シミュレーションで可能な原子構造は数100 個レベルにとどまり、ナノデバイス設計に必要な1,000 個レベルを実現できていませんでした。
かねてナノデバイス設計に取り組んでいた富士通研究所は、北陸先端科学技術大学院大学との共同研究により、新しいナノデバイス設計を可能にする大規模計算に成功しました。
計算機には、名古屋大学情報基盤センターのスーパーコンピュータ「FX1(注7)」を使用。「京(けい)(注8)」のコンセプトを取り入れた「FX1」上で、ハイブリッド並列処理(注9)に最適化された第一原理計算プログラム(注10)を実行し、膨大な計算量と計算メモリを必要とする原子1,000 個レベルの電気特性シミュレーションを実現しました。
今回初めて原子1,000 個レベルの計算が可能になったことで、これまで生じなかった様々な問題が発生しました。
電気特性シミュレーションでは、原子の種類と構造を入力値として電気特性を調べ、得られた出力値をもとに次の入力値を更新する、という手順を繰り返すことで、答えを導き出します。この時、小規模な計算の場合はプログラムを繰り返し実行していけばほどなく計算は収束していきますが、大規模な計算の場合はわずかな入力値の違いで計算結果が大きく変わり、なかなか答えに到達しません。そこで、プログラムに与える入力値や更新法を適切に調整するための工夫が必要になります。
これらを改良した結果、原子1,000 個レベルの計算を確実に短時間で完了させることに成功し(図1)、電気特性を約3 日間で得ることができるようになりました。

ナノカーボンに限らず、シリコンや有機物、あるいは化合物等、新しいナノデバイスの設計に本技術を適用することにより、例えばチャネル材料や形を変えたり、接合方法を変えたりといったことが、計算機上で可能になり、ナノデバイス設計の早期実現が期待できます。
スーパーコンピュータはいまや、宇宙、環境、生命科学といった基礎研究の分野に限らず、医療、防災、金融工学、ものづくりに至るあらゆる研究開発において不可欠となってきています。富士通研究所では、今回ご紹介したナノデバイスの他にも、電池素材をはじめとするエネルギー関連素材の研究に本技術を適用しています。また今後は、存在していない材料を仮想的に開発し、その製造プロセスをもコンピュータシミュレーションによって得られるような技術の研究開発に取り組み、「ものを作らないものづくり(仮想ものづくり)」の実現を目指していきます(図2)。

[2011年10月3日 公開]
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