- 世界を視野にスマートグリッド実現に取り組む富士通のICT

世界的に重要な課題である低炭素社会を実現する手段の一つとして取り上げられているのがスマートグリッドと呼ばれる次世代エネルギー網である。ICTを活用して消費電力量などの情報を通信・制御することにより、効率的なエネルギー供給・管理を実現する。
富士通では早くからスマートグリッドに着目し、適応可能な技術開発を進めてきたが、現在は特に「スマートネットワーク」及び「エネルギーマネジメントシステム(EMS)」に力を入れ技術提供をおこなっている。スマートグリッドはエネルギー網によるインタラクティブな情報のやりとりを可能にすることから、新たなビジネスの市場としても大きな期待が寄せられている。
国内外へのソリューション展開を推進する黒田健、実証実験に携わる森川義幸、スマートメーターの推進を担当する原博樹にスマートグリッドのビジネス展開を聞いた。

米国のオバマ政権がグリーンニューディール政策の一環にかかげたことで有名になった「スマートグリッド」。しかし、国内のエネルギー事業者様を担当する原博樹は、米国と日本ではいささか事情が異なるという。
「米国では国土が広く、電力自由化や小規模な電気事業者が多いこともあり、ネットワーク整備にあまり予算がかけられてこなかったという経緯があります。これに対して日本は変電所付近までネットワーク制御機能が働いています。家庭1軒あたりの年間事故停電時間で比較すると米国カリフォルニア州では128分、日本の平均はわずか6分(注1)。米国では、ネットワーク制御が整備できていないことが障害時における復旧時間を長引かせる要因になっているのです。日本ではすでに監視に関して品質の高い送配電網が整備されており、その電力網の信頼性は世界最高レベルだといわれています。」
しかし、電力の利用状況が大きく変化しようとしている現在、その高品質な電力網を、インタラクティブでさらに高度なものにする必要が出てきたと原は続けていう。
「国や自治体レベルでの再生可能エネルギーの活用が図られ、太陽光発電や蓄電池の普及など消費者自身が生み出す電力量も増えています。さらには、プラグインハイブリッド車(PHEV : Plug-in Hybrid Electric Vehicle)など消費・発電・蓄電の機能を持つ自動車、小型高性能のリチウムイオン電池の開発で生産が増えている電気自動車(EV : Electric Vehicle)など、電力消費の状況は今後ますます変化していくでしょう。エネルギーを効率的にマネジメントするためには送配電という一方向ではなく、情報をやりとりできるインタラクティブなネットワークが必要になっているのです。」
そのネットワークとICTベンダーの関係を、森川義幸は次のように語る。
「一般家庭の隅々までインタラクティブなネットワーク制御網を配備するにはICTの技術が大きな役割を持つことは間違いありません。それはまた私たちICTベンダーにとって大きな成長市場でもあります。国内はいうに及ばず、海外の自治体との提携など、各国各地で実証実験が開始されている現在、お客様に採用いただくために信頼性の高い技術開発をおこなっていくことが非常に重要だと考えています」

富士通では現在、経済産業省のスマートグリッド実証実験(注2)の一つである愛知県豊田市のプロジェクトに参加している。プロジェクトの概要を森川は次のように説明する。
「この実証実験はトヨタ自動車様が主体となり、およそ20社が協同して進めているもので『家庭・コミュニティ型』低炭素都市の構築を目指しています。実際に70棟の実証住宅を建築し分譲して住んでいただきながら実証実験をおこないます。富士通とトヨタ自動車様が共同でエネルギー情報マネジメントシステム(EDMS)を担当し、地域全体で再生可能エネルギーを最大限に有効活用できるよう、研究開発に従事しています。」
通常のエネルギーマネジメントシステムはEMSだが、今回のプロジェクトでは“D=データ”にこだわっている。
「今回の実証では特に家庭を主体にしていますので、人を中核にしてデータ分析をしています。家庭内のエネルギー管理システム(HEMS)や次世代自動車、交通システムはもちろん、生活者からもたらされる直接・間接的なデータを徹底して取得した上で、コミュニティ全体で低炭素な社会システムへつなげていきます。こうした種々のデータの反映をシステム構築へ巧みに取り込んでいくという意味をこめ、特にEDMSという呼び名にしています。」
と森川は付け加える。
豊田市のプロジェクトは将来的な地域エネルギーデータマネジメント構築をにらんだものだが、スマートグリッドの一歩として実用化が始まっているのがスマートメーターと呼ばれる自動検針システムだ。数年前からスマートメーターに携わる原はいう。
「いままで1軒1軒回って電気使用量を検針していたものを、メーターに通信機能を持たせ、自動で検針作業をするのがスマートメーターです。富士通では7、8年前から研究開発を進めていましたが、3年ほど前から実用化が始まっています。」
そして、そのスマートメーター間を無線ネットワーク化しているのが「WisReed(ウィズリード)」というネットワーク技術だ。原は続ける。
「WisReedは設定不要でネットワークを自動構築でき、障害発生の際にも自己修復し、周囲のネットワーク環境変化に適応する、富士通の自律分散型ネットワーク技術です。スマートメーターにより検針が自動化されるのはもちろんですが、ネットワークでリアルタイムに情報収集することによって、電力需要のピークカット、省エネルギー、再生可能エネルギーとの併用などを実現する電力網に貢献します。広範なエリアで数多くの通信機器やセンサーの利用が求められる場合、WisReedを導入することで、これら機器の導入・運用の負担を大きく軽減し、柔軟に大規模ネットワーク網を構築することができるのです。」
このWisReedをはじめとして富士通が持つ技術を融合し、国内だけでなく、海外をにらんだスマートグリッドビジネスの展開が始まっている。新規のビジネス分野を推進する黒田健は次のように説明する。
「スマートグリッドという言葉がマスコミに登場するようになって一般に認知されるようになりましたが、その対象とする範囲は非常に広く、様々な業種の企業様が関わっています。また、スマートグリッドは全世界的な動きといえますが、国や地域によって対象とするところやインフラ、技術がまちまちです。その中にあって、日本の技術を海外の需要にマッチさせて展開する、あるいは海外の進んでいるノウハウを日本へ輸入するということが重要になると思っています。
日本のエネルギーマネジメント技術は世界で最高のレベルですので、ここに富士通のICTを加えて海外市場をターゲットにした新たなビジネス展開を図っていきたいと考えています。」

スマートグリッドの実現には当然ながら複数の企業が携わっていく。どうやって協業するかは、スマートグリッド事業の大きな課題の一つだと黒田はいう。
「スマートグリッドに限りませんが、現代のビジネスは広域化、グローバル化が顕著であり、業界の垣根を越え協業して進めなければ成り立たないプロジェクトが増えていると思います。仕事の方向性やそれぞれの企業で異なる思惑を、どうやって補完しながらWin-Winの関係を築くかは非常に難しい課題です。そうした仕組みを構築できるかどうかがプロジェクトの成否にも少なからず影響してくるのではないでしょうか。」
スマートメーターという新たなビジネス現場を担当する原も、協業の発展性とともにハードルの高さを実感するという。
「前例のない新たな取り組みでは、協業関係も新たに構築していかなければなりません。ビジネスが展開して新たなノウハウが生まれれば、権利配分などさらに新たな取り決めをおこなう必要がありますし、契約を疎かにすればプロジェクトの進捗にも影響が出かねません。チャレンジするやりがいとともに課題も多いのが新規ビジネスの宿命といえるでしょうね。」
その上で、原は今後のビジネスの進展の目標を次のように語る。
「スマートメーターの導入は今後ますます広がっていくことは間違いないですし、エネルギー管理のレベルも高くなっていくと考えられます。またインタラクティブな電力網により収集されたデータを活用することによって新たなサービスが生まれる可能性があり、様々な業種の企業様がビジネスチャンスを見いだそうとしています。携帯電話が通話を目的としたものから発展し、瞬く間に種々のデータをやりとりできる携帯端末へと変化したように、スマートグリッドも新たなサービス、新たな仕組み、新たな市場が生まれてくると思われます。その中で、常にICTのリーディングカンパニーとして富士通が参画していくことが大きな目標です。」
実証実験の成果を新たなビジネスチャンスにつなげたいと考えているのは森川だ。
「今回参加させていただいている愛知県豊田市の実証実験では、富士通として何ができるのかという提案をし、ビジネスパートナーとしての充分な働きをしたいということがまず大きな目標です。そしてその先に富士通自身の新たなビジネスの活路を見いだしたい。例えば現在原さんが推進しているスマートメーターとEDMSとの連携で何ができるか、それは今後重要な新規サービスにつながっていくと考えています。」
黒田はグローバルなスマートグリッドのビジネス展開を次のようにまとめる。
「スマートグリッドは需要と供給を最適に制御できる電力網と言えますが、それが広範囲に展開することにより地球全体で目指す低炭素社会が進展します。日本の送電網はもともと品質が高く、社会基盤ですので、そのレベルを落とすことは許されず、その中で慎重に実験を重ねながら一つ一つ積み上げていかなければならない環境にあると思っています。一方で停電対策や送電制御など明確な課題を持っている海外の国は、スマートグリッドという世界的な動きの中で解決をはかろうと素早い取り組みをおこなう傾向にあります。市場を国内だけで考えるのではなく、グローバルでとらえていくことが不可欠です。」
さらに黒田は新たなビジネス機会創出にも言及する。
「スマートグリッドのICTに関係する世界市場は、今後数年で10兆円を超える規模に達することが想定されています。一般的に、スマートグリッドは環境ソリューションというところがスタートラインになっていますが、この社会基盤は、新たな市場、新たなサービスを生み出す基盤でもあるのです。現在は新しいエネルギー社会へ踏み出した、社会基盤整備の第一段階。今後、インタラクティブな情報の流れの中で、その情報をどう生かし、どう新しいビジネスへつなげるか、ということが大きな潮流になってくるものと思われます。」
環境とビジネスの融合は今世紀の大きな主題だが、スマートグリッドはその中核のひとつである。クリアしなければならない課題のハードルも高いが、富士通のICTが解決の突破口となり、新たな成長市場に資するところは大きい。
[2011年3月1日 公開]
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