- 多様化する顧客ニーズに応えクラウドによるCRM開発で顧客との接点を強化する

顧客との関係性を深め、継続的なマーケティングを支援するツールとしてCRM(Customer Relationship Management)が登場したのは1990年代後半。以来、CRMは顧客情報をデータベース化して管理し、分析し、次のアクションを実行するための手だてとして活用されてきた。富士通でも従来より営業現場やコンタクトセンター業務を支援する様々なCRMツールを提供し実績を積んでいる。
ところが、近年になって顧客の価値観が多様化し、市場がめまぐるしく変遷してくると、CRMの活用にもスピードが求められるようになった。顧客との接点を絶えず強化するためには、どのような情報をもとに、どういったアプローチが効果的なのか、素早い判断とアクションが必要になってきたのである。おりしも台頭してきたクラウド環境は、こうしたニーズをとらえ、短期間でのシステム開発を実現するものとして注目される。
時代にかなうCRMとは何なのか。メディア営業統括部で放送業界を担当する齋藤と、CRMシステムの開発を手がける高橋に話を聞く。

実質ゼロ成長ともいわれる厳しい市場環境の中で、企業と顧客との関係性も変化してきている、と齋藤はいう。
「市場が成熟・飽和し、さらには顧客ならぬ“個客”という言葉が生まれるほど消費者のニーズや価値観が多様化している現在、不特定多数の顧客をターゲットとするマスマーケティングの手法はもはや有益とはいえません。マスからエリアへ、さらには顧客へ個別アプローチをおこなうOne to Oneへとマーケティングのコンセプトは変遷しています。そのために各企業の方々は、顧客属性や購買データを記録したデータベースをフルに活用することで、効果的な販促につなげようとしています。その仕組みを提供するCRMは重要なツールのひとつです。」
そして、顧客との接点の機会は増え続ける一方だ。齋藤は続ける。
「顧客ニーズの多様化とあいまってインターネットの普及により顧客との接点となるメディアも多様化しています。それぞれの顧客にふさわしいメディアは何か、複数のメディアの顧客情報をどう管理統合するのか、メディアごとの対顧客強化策はどうするのか、非常に多くのデータを蓄積しながら、かつそれを整理統合・分析し、戦略に取り入れなければなりません。そして、競争が激化する市場にあっては素早い戦略やアクションが他に先んじる手だてとなります。
いま、お客様に望まれるCRMは、そうした市場やマーケティングの変化を迅速に反映し、アクションにつなげられる情報を提供できるシステムなのです。」
変化を迅速に反映するCRMを構築するには、クラウドサービスを利用することが賢明な施策のひとつだと齋藤はいう。
「構築のスピードに加え、厳しい財政状況下のコストダウンを考え合わせると、クラウドサービスは不可欠な要素だと思います。そして、ソフトウェアそのものもカスタマイズが容易であることが重要です。」
放送業界のお客様を担当する齋藤と高橋だが、業界の中でも有料放送を手がける企業は、顧客とのリレーションを特に重視し、CRMの効果的な活用に敏感だという。SEとして数年にわたり、有料多チャンネル放送業のお客様のシステム開発に携わる高橋は次のように語る。
「私が担当させていただいているお客様は、顧客に対する新しい施策に即応して、素早いアクションにつなげられるようなCRMシステムを必要とされていました。従来から大型の顧客管理システムは導入されていたのですが、新たな施策やイベントに対応して機能を追加する場合など、システムが大規模なため時間や費用がかかり、改修が容易にできないという悩みをお持ちでした。マーケットの変化に対応できるシステムについて、お客様ご自身でも独自に様々なシステムを調査されていたようです。そこで私どもでもご提案とデモをおこない、最終的にSaaS型のSalesforce CRMの導入をご決定いただきました。現時点で何を優先するべきか考えた時、攻めのビジネスを展開されるお客様にとっては、SaaS型CRMはまさに要求にかなったシステムだったのです。」

高橋が担当するお客様先でのSalesforce CRM導入では、従来のシステム構築とは異なった開発プロセスが取り入れられているという。
「最初に要件定義があって、設計をおこない、次にハードウェアを用意して実装にかかり、テストをして、運用というのが従来型の代表的なウォーターフォールモデルの開発プロセスです。ところが、今回の場合は、Salesforce CRMと同一のインフラ上でクラウド型のプラットフォームを使うことにより開発スピードをあげ、簡単な打ち合わせの後に内容を盛り込んだシステムをすぐに作り上げるというやりかたをしています。最初に作り上げたものをプロトタイプとし、その後先方にご確認いただきながら、何度か改修を重ね開発していくという手法です。
この開発プロセスの利点は、新たな施策をすぐにCRMに取り入れ実行することができる点です。マーケティング戦略をいち早くアクションにつなげ、現場レベルに落とし込むことによって、顧客獲得や販促につなげていくことが可能となります。」
効率的でスピード感ある開発を実現するため、高橋らSEグループはお客様先へ常駐して開発を進めている。
「お客様の機密情報の保持、あるいは開発人数を増強する場合などを考えると、常駐開発も長所ばかりではないのですが、タイムラグやお客様との認識の不一致を極力減らすためには非常に効率的な開発スタイルです。今回は、いったん現場で稼働しだしてからも、現場の稼働状況や使い勝手を確認しつつ、最適なシステムへ向け開発が続いたので、常駐することでこちらも対応しやすくなりました。」
こうした開発手法、あるいはSEのありかたについて、将来的な展望も含め、齋藤は次のようにいう。
「今世紀に入って、一部でアジャイルというソフトウェア開発(注1)手法が提唱されていますが、今回高橋が携わったケースもその手法に非常に近いものです。最終的に価値のあるソフトウェアにするために、必ずしも計画どおりに進む必要はなく、むしろ変化に対応していくことを重視しています。変化に対応するためには、繰り返し確認をしながら進める必要がありますので、常駐して開発をしたほうがお客様にも富士通にもメリットが大きくなるのです。」
そしてSEの役割も変わっていくと齋藤はいう。
「こうした開発手法が確立されるにつれ、SEに必要とされる能力も変化していくのではないでしょうか。戦略の具現化に向けてスピードを最優先されるお客様が増えれば、当然常駐型開発へのニーズが高まってくるでしょう。
また、SEにとってのプログラミング作業そのものは減少傾向にあります。Salesforce CRMを例にとると、force.comという業務アプリケーションのプラットフォームが提供されており、これを利用することによってプログラミング工数を減らし、開発スピードを格段に速めることが可能になります。こういったツールによりプログラミングが急速に自動化されていくと、SEの価値はコミュニケーション能力や業界・業態の知識をもとにした提案力といったソフト面に重点が移っていくと思います。ビジネスや業務の話をすぐに理解できる知識を備え、「こういうものが必要ですよね」など、その場でお客様に確認し進めていけるような対応力が要求されてくると思います。今回のプロジェクトは、そういった意味で、先進的な事例だと自負しています。」
今回のSalesforce CRM導入に関しては、クラウドサービスの進化もあり、着々と新たな機能を追加している状況だと高橋はいう。
「現在、CTI(注2)の対応、および基幹システムとの連携に向け開発を進行中です。早ければ2010年中に開発が完了する予定で、完成すれば、より効率的でリスク回避に優れ、リアルタイムな顧客接点を実現することが可能になります。」
高橋は今後もお客様先での開発というメリットを生かし、提案力を高めていきたいと語る。
「常駐ではお客様の現場を身近で把握することができますから、現場がアクションを起こしやすいシステムの提案を、クラウド環境を使いながら素早くおこなうことができます。しかも、お客様のレスポンスも早いですから、相乗効果があるスピード対応が生まれます。この理想的な環境のもと、データベースの統合を含め、富士通が持つ様々なツールやクラウドサービスを最適な構成で提供し、お客様利益に貢献するシステムを開発し続けることが目標です」
Salesforce CRMに限らず、ICT業界においてクラウド対応は避けられない大きな波だといえる。
「ICT環境のクラウド移行はICT業界全体を再編するような影響力を持つものだと思います。」
と齋藤はいう。その中で企業はどういう選択をしていくべきなのか。
「クラウドサービスはますます多様化し、お客様は選択の幅が広がるでしょう。ただ、気をつけなければならないのは、クラウド環境があればICTがすべて効率的に進展するわけではないことです。クラウド化には適さないシステムもあります。戦略を具現化するために何を優先するべきかを考え、クラウド・非クラウド両環境から効果的なICTシステムを考えていくことが最も賢明な方法だと思います。
今回はSalesforce CRMが適切な解決策となりましたが、他の企業様にも同じ解決策が適しているわけではありません。どのツールがお客様業務に適していて、どういう組み合わせでシステム化していくのが最適なのかは、業態や業務内容、戦略によって異なります。コストやスピードの面だけではなく、どれだけ自社のサービスの特性に対応できるシステムを作れるか、という点が大事なのだと思います。」
そしてクラウドサービスの隆盛は、ICTベンダーの競争を激化もさせる。時代に求められるICTベンダー像について齋藤は次のようにまとめる。
「開発者には発想の柔軟性が求められると思いますし、技術に関していえば他システムやツールとの相性、親和性が重要になると思います。私たちICTベンダーに期待されるのは幅広い知識と臨機応変な開発力です。お客様の課題に対して、どういうノウハウと品揃えで素早く対応できるのか、またコストやスピードだけではなく、システム全体を最適化できる能力をどれだけ持っているのかによって、お客様に選ばれるのかどうかが分かれるのだと思います。
富士通もクラウド時代に向け、既存のサービスや事業部の体制を越えて柔軟に対応するぐらいの気持ちで取り組んでいくことが必要とされている時代なのだと感じています。」
市場環境だけではなく、ICT環境も社会情勢も変化のスピードが加速している中にあって、お客様が持つ課題に常に最適な解決策を提示し続けることは難題である。ただし、旧弊にとらわれることなく、変化を糧とできる体制が組めるのならば話は別だ。変化の時代に向け、富士通の挑戦は続く。
[2010年11月1日 公開]
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