- 開発者がコア業務に専念できる 富士通のプライベートクラウド

コスト削減や業務の効率化を進める新たなICT技術として注目を集めるクラウド・コンピューティング。富士通がクラウドサービスを開始した2009年4月以降、商談件数やお客様からの問い合わせは増え続けている。
一方、そうした商談約1500件のなかからお客様のニーズを分析すると、期待度が高い反面、データ保全などセキュリティの問題や障害対応への不安なども聞かれ、導入に躊躇する企業も少なくない。
そのような背景から、自社でクラウドを構築する「プライベートクラウド」へのニーズも高まっている。富士通のプライベートクラウド実践として、ソフトウェア開発の効率化を目指して設立した沼津ソフトウェア開発クラウドセンターで、システムの構築、運用・管理を担当する伏見浩、その環境を開発業務に利活用している小寺芳人に話を聞く。

時代のメガトレンドともいえるクラウド・コンピューティングだが、その環境はネットワークと仮想化技術によって構築されている。伏見は次のように説明する。
「10年くらい前から、サーバの集約化がICTの重要課題として話題にのぼるようになりました。部門単位で最適化を進めていった結果、企業内システムはサイロ化し、情報の共有や連携が難しくなる一方だったからです。そこに仮想化技術が現れ、サーバの集約が容易になり、さらにはアウトソースによりハードウェアを持たなくてもシステム構築することが可能となって、ICT資産の考え方は大きく変わりました。そして、高速大容量のネットワークコストが下がるにつれて、クラウド環境への期待が高まってきたのです。」
しかし、企業は手放しでクラウド環境を歓迎しているわけではないと伏見は続ける。
「富士通がクラウドについて実施したアンケートの結果を見ると、資産効率化や業務共通化、コストダウンへの期待がある一方で、基幹システムの膨大なデータ処理の取り扱い、セキュリティなどシステムの信頼性、障害発生時の対応への不安も多いことがわかりました。」
クラウド環境を利用する立場として、小寺は付け加える。
「セキュリティやデータの保全性が絶対的に保証されるものでなければ、重要な情報を抱える企業はアウトソースという選択をとらないでしょう。自社データが他企業と一括で管理されることへの不安をいだかれる企業が多いというのもうなずけます。また、お客様によっては、共用型のクラウドサービスだけでは自社のニーズをかなえきれないと考えていらっしゃる方もいるのでしょう。そのようなことから、プライベートクラウドの構築を検討されるお客様が増えてきたのです。」
富士通はプライベートクラウドの実現を、ICTインフラを仮想化技術で統合し、次に業務開発・運用の共通化により標準化し、最後に業務、運用プロセスを自動化する、という3つのステップで提案している。そしてクラウドサービスのクオリティを高めるため積極的に社内実践事例の取り組みを蓄積している。伏見は説明する。
「沼津開発センター内に、富士通のブレードシステムやストレージによるクラウド環境を構築し、国内外10拠点の開発者に対して、仮想化技術を使いマルチプラットフォームに対応したサーバを開発環境として提供しています。」

小寺が所属するミドルウェア事業本部の開発部でも、社内実践事例として、マルチプラットフォームな製品開発に、仮想化技術を使ったサーバ環境を利用している。小寺はHPC(注)向けの言語用デバッガエンジンの開発および保守にあたっているが、その現場を次のように説明する。
「デバッガはコンピュータプログラムのバグを発見・修正するためのものですから、プログラムが動作する環境を忠実に再現しなくてはなりません。OSの違いはもちろん、同じOSでもバージョンが異なればプログラムの動作も異なるため、OS、バージョンごとにそれぞれのプラットフォームを用意する必要があるのです。昨今、OSのバージョンアップが頻繁になっていることもあって、いくらハードウェアを用意しても足りない状況でした。」
ハードウェアの管理だけでも非常な労力を要したと小寺はいう。
「最新モデルから旧式のものまで何十台もハードウェアを抱える環境ですから、どこかにリソース不足で動作が鈍くなっているものがあったり、停電後立ち上げるのに苦労したりということがありました。マシンのメンテナンスに時間を割かれるのでは、本来の開発業務に支障が出ます。これをなんとか解決したいと切望していました。」
今回、社内実践事例としてプライベートクラウドによる仮想化したサーバ環境を利用するようになってから、開発環境は一変したと小寺はいう。
「ハードウェアの確保という悩みから一気に解放されました。さらにそれまでマシンルームでハードウェアに囲まれながら、黙々とソフトウェアの開発・保守をおこなっていたものが、仮想化技術を使ったプライベートクラウド環境を使うようになってからは、自分のデスクのパソコン端末を使って、ほかの業務と平行しながら開発を進めることができるようになりました。私たち開発者にとって非常に画期的なことです。この快適さを実感したら、もう以前の開発環境には到底戻れません。」
環境を提供する伏見がいう。
「開発者の方々は皆プラットフォームの対応という点で苦労されていると思います。社内実践事例では、開発者の求めに応じ、オンデマンドでハードウェア環境の提供をおこなっています。手軽にハードウェア環境を構築できるのは仮想化技術の大きな利点ですから、この技術を用いることで少しでも開発環境のストレスが軽減されればと思っています。そして、私たちは、この社内実践を通し、現場の開発者の生の声、要望を聞くことによって、現場に直面した課題を吟味し、クラウドサービスの内容をより現実的な改善へと導くことができるのです。」
プライベートクラウド環境は、一般企業のみならず、公的機関での利用も広がるだろうと小寺は予測する。
「基幹システムや主要な開発業務、金融や役所などの公的システムについても効率化が求められています。そのような分野でも今後クラウドサービスの利用率はますます高まるでしょうし、データの性質上、セキュリティには万全を期さなければなりませんから、プライベートクラウドは重要な位置付けになるはずです。」
パブリック、プライベートにかかわらず、クラウド・コンピューティングへのニーズは今後ますます高まっていくとしながらも、導入にあたっては運用を見据えた検討が必要と、小寺は念を押す。
「クラウド環境はあくまで道具のひとつです。便利な道具をどのように使うのか、使い手の考え方が重要です。便利な技術はどんどん利用していただきたいですが、クラウド・コンピューティングで何を実現するのか、変化するビジネス環境のなか、どのようにそれを役立てていくのかということを吟味しなければなりません。」
伏見も、クラウド・コンピューティングのメリットや特徴をよく把握することが大切だという。
「クラウド・コンピューティングにはいくつかの形態がありますから、どのような選択をするのが望ましいかは企業が持つ特質によって異なると思います。プライベートでいくのか、パブリックにするか、あるいは両方を利用するハイブリッド型がいいのか、さまざまな組み合わせが考えられるのではないでしょうか。」
富士通は現在、「ハイブリッドクラウドインテグレーション」を提唱し、クラウド利用の全体像を描きはじめている。これは、バックエンドとなる情報システム領域をプライベートクラウド化する一方、フロントにおいてはパブリッククラウドや社会インフラを連携させて、コストダウンと業務のスピード化をねらうもの。伏見は自信をのぞかせ言葉を続ける。
「クラウド・コンピューティングにおける富士通の強みは総合力です。クラウド環境に関わるネットワーク、サーバ、ミドルウェアといったインフラからアプリケーションまで提供でき、レガシーシステムからオープンシステムにいたる豊富な実績があります。」
小寺はまた、社内実践事例について次のように語る。
「開発現場での日々の実践によるフィードバックを得ることで、それぞれの技術がブラッシュアップされ、お客様へ提供するサービスレベルを高めています。しかし、技術もまた日々進歩していきます。現在のクラウド技術が高度に洗練されていくとしても、その先にはまた新しい技術のブレイクスルーが現れるでしょう。私たち技術者でさえ、5年先のことはわかりません。その時々でお客様のニーズに応えるサービスを提供していけるよう、社内実践を積み重ねることが未来への新たなステップへつながるのだと思います。」
社内実践によるトライ&エラーの着実な技術の積み重ねは、お客様のニーズへ確実に応える製品・サービスへとつながる。そうした実績に基づく確固たる技術を軸に、クラウドビジネスを推進するところに富士通の堅実な姿勢が現れているといえる。
[2010年5月1日 公開]
栗本鐵工所様が、富士通とともに取り組んだ、グローバル競争を勝ち抜くための「遠隔保守」についてご紹介します。
NKSJひまわり生命保険株式会社様が、富士通とともに取り組んだ、システム連携基盤を活用し実現した、統合コストの最小化についてご紹介します。