更新日2007年2月20日
携帯電話を使っている最中、相手の声が余計な雑音で聞きづらいことありませんか。
このSAW(注1)(日本語ではソーと発音します)フィルターはそんな雑音をとってくれるすぐれものなのです。
注1 SAW:Surface Acoustic Waveの略で表面弾性波を意味しています。
携帯電話の中身
SAWフィルターについて
役割
原理
応用
先端技術(当社オリジナル技術)
小話
受賞
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最近の携帯電話は、
など、ただ単に音の信号の出入りだけでなく、ずいぶん改良され、開発の成果を身近に感じることができます。まずは携帯電話の中身を覗いてみましょう。

実際の写真

(注)実際に分解して中身を見る事は絶対にしないで下さい。

現在『周波数』は用途によって、使用に制限があります(郵政省で定められています)。必要な信号以外の他の『周波数』まで取り出してしまうのがいわゆる『雑音』です。雑音(他の周波数)をカットして、必要な信号だけ取り出すのがSAWフィルターの役割です。



固体の表面は振動を伝えます。それを応用したのがSAWフィルターです。

この現象の波(ちょっと難しい言葉で言うと表面弾性波といいます)を発見したのは英国の地震研究者、レーリー卿です。
地震は最初のドンという揺れがきた後、しばらくしてまた揺れがくるのは大抵この表面弾性波です。

地球の断面層
この表面弾性波を応用しています。
SAWフィルターで使われている圧電体という材料について説明しましょう。
(1)音波が入ってくると…
(2)圧電体の表面が振動します
(3)断面図の一部表面を拡大すると…



音波が入ると、圧電体の結晶構造が、原子同士、近づいたり離れたり、波打ちます。
このような圧電体の特長を生かして、SAWフィルターを作りました。
音波と同じ波長の長さに電極を作ると、その波長しか出口に到達できません。つまり、雑音になる音波(5ミクロン以外の波長)は圧電体の表面の波と異なっているため打ち消され、5ミクロンの音波(800MHz=必要な信号)のみ出口からでていきます。

雑音が混じっている電波
5ミクロン電波とそれ以外とに振り分ける
5ミクロン電波のみ通過
家庭の中の身近な物に意外と使われています。

1)アンテナ分波器の規格(ロス2dB以下・耐電力1W以上)をクリアしたSAWの開発
ノイズを取るために従来では、入力櫛形電極からSAW(表面弾性波)を送って、出力櫛形電極で受けていました。
この方法では、電極の両側にSAWが発生し、片側のSAWが使われずにロスになり電力を余分に使ってしまう原因になっていました。
共振器タイプは、両側に反射器と呼ばれる電極があり、片側をロスしていたSAWを反射させ定在波という、一定の往復する表面弾性波を起こします。
そうすることにより波の減衰が少なくなりロスが減ります。
この共振器をラダー(はしご)型に並べるとフィルターになると考えました。
SAWフィルターでこのラダー型に電極を並べてフィルターを実現したのは、富士通が初めてです。



2)圧電体の見直し
圧電体の切り出し角度を6°増やしたことによりロスを0.5dB減らすことができました。これも富士通オリジナルです。
これらの技術は、アンテナ分波器の要素技術になったばかりでなく、携帯電話の通常フィルターの低損失化にも大いに役立ち、富士通のSAWフィルターが世界中でたくさん使われるきっかけになりました。
圧電体(LiTaO3(注1))の切り出し角度を工夫しました。
(注1)LiTaO3:リチウムタンタレイト

6°上がる
0.5dB下がる


普通36°
富士通42°
切出し角度の工夫で
消費電力が2dBに減少
(消費電力=30%)
電極材料の見直し
従来、電極の材質はアルミ合金でした。この従来品は、電圧を上げると電極内のアルミ原子の振動が激しくなり、アルミが飛び散ってしまい、断線していました。
この現象を起こさないために電極の材料を検討しました。

アルミ合金の間に銅(Cu)を挟み3層構造にすることによって強度が上がりました。
それまで0.2Wだった耐電力性が、1.2Wに向上しました。耐久年数が50年くらいあります。

これでアンテナ分波器にかかる1Wの電圧をクリアでき、ロスも2dBに押さえられ、アンテナ分波器をSAWで作ることが実現できました。
アンテナ分波器をSAWで作ると従来の誘電体を使った分波器の8分の1の大きさで作ることができます。
右が従来のアンテナ分波器、右がSAWで作ったアンテナ分波器で、高さは、従来の4mmから2mmまで薄くできました。
もちろん富士通オリジナル技術です。性能や価格は、従来の物と変わりません。
これにより携帯電話の一層の小型化が実現されました。


執筆:開発グループのリーダ S氏
時は11年程前にさかのぼります。入社以来14年間も携わってきた研究内容が中止したことを聞かされ、私は一種の虚脱状態にありました。その後私に、中間管理職として研究部内の広い技術分野のすべてを管理するように命ぜられました。しかし、しばらく続けるうちに何か自分の内部に満たされないものが感じられ、それは、自らの手で研究をやっていないということに対するフラストレーションのようなものでした。当時の新しいテーマはいずれも専門分野ではなく、研究員の話を理解するのが精一杯という状態で、とても技術的に研究をリードしていくことができません。これでは自分も行き詰まるし、研究員にも申し訳ないという気持ちでした。そこで私は、何か1つのテーマに集中し、1から出直そうと上司に申し出ました。私は、当時そんなに注目されてなかったSAWフィルターを、1からやろうと決心したのです。何故なら、その当時1人の研究員がようやく事業部の要請を受けSAWフィルターを始めたばかりで、その研究員も物作りが精一杯で設計までは手がのびず、設計をやる人が必要だったからです(私はもともと設計を担当しており、技術分野は異なるとはいえ、仕事の性質上取り組み易かったので)。上司は私の決心が固いと判断し、周りを説得し、そのような環境を作ってくれました。
SAWデバイスは当時、テレビ用IFフィルターが全盛で、まだ携帯電話用は本格的に開発されていませんでした。新規に参入するにはチャンスでした。以上のようないきさつで1988年秋に我々は2人でSAWフィルターの開発に本格的に着手しました。私が設計技術、M氏がプロセス技術という構成でした。お互いこれまでの研究で培った得意技術でひしめく競合を相手に無謀にも挑戦を挑んだわけです。今までは先行研究が主で、実用化の経験がなかったので、今度は使われる物をなんとか作ってやろうと2人意気込んでいました。2人で猛烈に文献を集めて読み、世の中の技術を勉強しながら、その傍らで試作を始めました。全くの素人ですから、本当に1から勉強しました。しかし、微細パターン形成技術やそれを作る製造装置は、部内にある物をそのまま使えましたので、研究の立ち上げは非常に早かったように思います。
始めてわずか1カ月位で最初のフィルターらしきものを作ることができました。しかし、特性は課題だらけでした。また、如何に他社の特許に抵触しない新規な設計技術を考えるかで非常に苦しみました。そこで、富士通の川崎工場資料課に行き、SAWの分野の特許抄録(これには図がついており、分かり易い)を全部コピー(2000件位)しました。この他にもUS特許を1000件位集めました。こちらは図もないし、英語なのでどんな技術が書かれているのか判断するのに非常に苦労しました。これらの調査は一度にやったわけでなく、1年ぐらいかけて少しづつ行いました。
これらの調査の結果、どうしても特性改善のためには使わざるを得ないような特許が出てきました。この特許に代わる新しい技術の探索に勢力を注ぎ込みました。1989年5月頃からI君と新人のMa君を加え、4名の研究員と1名のサポート職の総勢5名で開発を推進しました。この頃、アメリカで世界最初の小型携帯電話が発売されました。これを受け、富士通も当時の専務が1年以内にもっと小型な携帯電話を発売すると新聞発表しました。発売されたアメリカの携帯電話に、SAWフィルターが使われていましたが、その特性は挿入損失も大きく、サイズが大きなものでした。まだまだ我々の出番はあると感じ、むしろ開発に拍車がかかりました。そこで、勘で進める開発をやめ、開発効率を上げるために、大型計算機を用いた精度の高いシミュレーションツールを作ることにしました。そして3カ月後、ようやく実験と良く合うツールを完成させ、その後の特性改善の強力なツールになりました。その2カ月後の11月、I君が目のさめるようなシミュレーション結果を持ってきました。これまで苦しんでいた帯域外抑圧を改善する方法を見つけたのです。早速実験し、効果を確認することができました。これは他社の特許を回避する重要な技術となり、「電極対数重みづけ法」と名付けました。この他にも帯域幅を拡大する方法や、量産性のある製造技術(一口でいえない多くのノウハウが詰まっています)をM氏やMa君が確立し、ついに1990年3月、技術を完成させました。
この時は、少ない人数(研究員4人)で本当に効率良く何でもうまく進展しました。おそらく全員が目標に向かって燃えていたからだろうと思います。当時、研究所の雄城社長が月度報告書に次のようなコメントを書いてくれました。『SAWフィルターの時宜を得た進展に敬服します』と。我々はそれを見て、また更に燃えました。他部門の開発者やユーザー部門も評価において強力にバックアップしてくれ、一丸となって完成まで助け合いました。いいものを開発すれば、研究者自身もさらにポジティブフィードバックがかかってより良いものを開発するし、周りからも強い協力が得られ、全体として良い方向へ向かうものであることを実感しました。
やはり、開発には熱いものを感じられるような状況ができること、または意識的に作り出すことが一番大事なような気がしています。どんな仕事にも共通することのような気はしますが。
業績:「高機能性弾性表面波フィルターの開発」

受賞者:佐藤良夫
『紫綬褒章』は、学術・芸術上の発明、改良、創作などにおける業績が極めて顕著な方に贈られるもので、今回、科学技術に関する業績で受章されました。当社従業員(受章当時)の褒章受章は、平成10年のHEMTによる三村フェロー(当時:主席研究員)以来、2人目となります。
業績:「弾性表面波フィルターの低損失化と高耐電力化の研究」
従来の誘電体フィルターに替わって携帯電話の小型・高性能化に寄与し、次世代移動体通信機器のキーデバイスとしての貢献が期待されるラダー型弾性表面波フィルターの研究

受賞者
佐藤良夫(右側)
