医療インシデントレポートシステム「SafeProducer」
医療業界におけるリスクマネジメント

リスクマネジメントを現状の問題解決としてだけではなく、医療の水準を上げる取り組みとして考えたい。

近年、全国で医療ミスによる事故が発生し、マスメディアから集中的に取り上げられるようになった。このため医療機関に対する世の中の目はかつてないほどに厳しいものとなり、患者が医療を選択する時代に突入しようとしている。そこで、かねてから病院のリスクマネジメントの必要性を主張してこられた信州大学医学部付属病院 医療情報部 村瀬澄夫教授に、医療に対する考え方が少しずつ変わろうしているいま、病院はこの変化にどう対応すればよいか、病院運営の観点から話を伺った。
| 医療に対する生活者の意識が変化しつつあると思いますが、どうお考えでしょうか? |
| 村瀬教授: | いま非常に大きな転換点にあると思います。医療の世界にパターナリズムという言葉があります。これは医師が父親のように患者さんに接するという意味で、お任せ医療のこと。これに対して、最近は患者さんが自分自身で医療を選ぶ、患者さん中心の医療という風が吹いてきています。 |
| つまり患者と共に歩む医療ということでしょうか? |
| 村瀬教授: | そうです。患者さん自らが医療を選ぶため、その判断材料が必要になります。そこで出てきたのが、インフォームドコンセントという考え方で、医師が持っている情報、あるいは考えていることを患者さんにしっかりと伝え、その中で治療方針を患者さんの立場で判断するというものです。それからセカンドオピニオンという考え方があります。インフォームドコンセントで医師から情報を得ても、患者さんとしてはそれを判断するのは非常に難しい。別の医師に意見を聞いて、その中でできるだけ客観的に判断するというのがセカンドオピニオンの考え方です。 |
| 患者側の立場からすれば、これまで以上に医療情報と接する機会が増えるということでしょうか? |
| 村瀬教授: | 少なくとも、患者さんが医療を選ぶという意味において、医療も消費者が選べる一つのサービスという考え方に、大きく変わりつつあるように思います。 |
| サービスという観点からはどんなことが必要になりますか。 |
| 村瀬教授: | 医療の世界では、まず病気が治るということ。また質の高い医療を受けられることが良いサービスだと思います。ただ、気をつけなければならないのは、「良いサービスを提供する」には、まずそのサービス自体に問題が無いことが前提です。最近でも製品に欠陥のあった、ある有名な会社が社会的に厳しい評価を受けました。 医療の世界でも同じで、より良い医療を目指すためには、まず医療自体が安全であることが必要になります。それがリスクマネジメントという考え方だと思います。 |
| リスクマネジメントとは万国共通の観念なのでしょうか? |
| 村瀬教授: | 基本的には万国共通なのですが、もともとの流れとしては、違う部分もあります。当初海外のリスクマネジメントというのは、大きな問題が起きて病院が訴えられた時、その損失をどう防いでいくかという考え方が主流でした。しかし日本では病院の損失というより、患者さんへ良い医療を提供する基盤をつくるという目的のもと、リスクマネジメントが推進されてきたという点で、他国との違いがあるように思います。 |
| より良い医療の提供のために、という精神の上に成り立っているわけですね。では、日本の医療現場は、具体的にどのようにリスクマネジメントへ取り組んでいるのでしょうか? |
| 村瀬教授: | まず、きちんと現場の情報を集めることだと思います。これは、医療の質をいかに高めるかという問題とも関係していて、EBMという考え方に則っています。 |
| EBMとはどんな意味なのでしょうか? |
| 村瀬教授: | EBMはEvidence Based Medicineの頭文字を取った略語で、実際に科学的な情報・データに基づいて医療を判断し実践しようというものです。リスクマネジメントも同様で、医療の安全性を保つためにどのような方法をとったらいいかを客観的に情報を集めて判断する事が必要です。 リスクというのは、大きなものから小さなものまであり、小さなリスクの積み重ねの中に大きな事故の芽が潜んでいます。実際、非常に重大な問題は、複数の小さな要因が積み重なって発生していることが多いのです。だからこそ、小さなリスクが大きな問題へと具体的につながらなくても、それらをきちんと分析し、選び出して解決していく姿勢が大事なのではないでしょうか。 |
| 情報収集が非常に大切であるということは、いまのお話しでわかりました。ただ、医療の現場はとても忙しいと思いますが、その中で細やかな情報収集は可能なのでしょうか? |
| 村瀬教授: | 大切なことは、仕組みをいかに作るかということです。例えば、いつの時点で誰からどのように情報を集め、その情報をどう公表するかという、まずはシステム作り以前の仕組み作りが重要になります。その次に、忙しい医療の現場で、その仕組みをうまく動かすために、どのようにコンピュータシステムを使えばいいのかを考えるわけです。また、できるだけ詳細なデータが最終的には必要ですが、それよりも大切なことは、いつどのような状態で何が起きているか、という情報をできるだけタイムリーかつ的確に集めることです。現場は非常に忙しいわけですから、ある程度ポイントを絞り込み、情報を集める。それが日常業務の中に自然に位置付けられるようなシステムであれば、十分に機能すると思います。 |
| 最後に、このリスクマネジメントという考え方を普及させることによって、日本の医療はどう変化していくとお考えでしょうか? |
| 村瀬教授: | いまリスクマネジメントというものが注目されている理由は、医療の現場でいろんな問題が起こり、表面化してきたからであり、それをどう解決するかということで注目をされています。しかしながら、本来リスクマネジメントの目的とは、医療の質を改善していくことにあります。だからこそ、リスクマネジメントが質の高いカタチで運用されるようになると、最終的には医療の中身そのものが向上するということにつながっていくと思います。ですから狭い意味でリスクマネジメントを捉えるのではなくて、日本の医療そのものの水準を上げていくという意味で今後リスクマネジメントを広く普及させていく必要があると思います。 |
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