医療安全レポートシステム「SafeProducer」
導入事例

かつて起こした医療事故を二度と起こしてはならぬと、積極的な情報開示の基本方針のもとに、院内の総力をあげてリスクマネジメントシステムの再構築に取り組んでいるのが名古屋大学医学部附属病院。リスクマネジメントの現場を統括する同院の相馬准教授と宮田看護師長に、取り組みの背景とこれからの展望について伺いました。

名古屋大学医学部附属病院
【名古屋大学医学部附属病院 プロフィール】
国立名古屋大学医学部の付属病院として、1949年に開設。約1000床を備える、中京地区最大級の総合病院である。2003年の院内システムの入れ替えに合わせて、それまで紙ベースだったインシデント報告システムを電子化した。
| 名古屋大学医学部附属病院でインシデント報告システムの電子化に取り組まれたきっかけからお伺いさせてください。 |

相馬:
今から5年ほど前ですが、患者さんが亡くなる医療事故が発生しました。そこで当時の病院長が中心となって、「逃げない」「隠さない」「ごまかさない」という基本方針のもとに、安全管理体制の大幅な見直しが行われました。なかでも重要視されたのが、医療事故に結びつくインシデント(ヒヤリ・ハット(注1))を集約する報告システムを充実させ、病院全体の安全文化を構築することでした。
宮田:
インシデント報告そのものは2000年から導入されていましたが、当初は紙ベースの報告書だったこともあり、病院全体のシステムとしてを考える職員が少なく、看護師以外の報告事例が少ないという問題がありました。一見、気にすることもないような事例でも、インシデントを収集・分析することで、隠れた危険を探り当てられる場合があります。そのため医療の安全管理においては、なるべく多くのインシデントを蓄積することが前提になります。
| 電子化された報告システムの導入により、具体的に何が変わったのでしょうか。 |
| 相馬: |
紙ベースだった2003年度までは月に400件程度のインシデントしか報告されていませんでしたが、今年度はすでに500件を超えていて、年間のペースでいうと6000件ほどになりそうです。当院の従業員数が約2000人ですから、1人あたり年間3回は「ヒヤリ・ハット」を報告する計算になります。 それだけリスク認識の高いスタッフが増え、これまでの仕組みでは「危険要素」として捉えきれていなかった事象までも、明確に把握できるようになったということです。ちなみに、一般病院で医師からのインシデントレポートの提出比率は全体の3~5%程度ですが、当院では10%を超えています。各診療科の教授が率先してインシデント報告を行う姿勢は誇ってもよいと思います。電子化システムの導入により、インシデント報告の敷居が下がったという側面もあるでしょう。 |
| インシデント報告がしやすくなったと考えてよいのでしょうか。 |
| 宮田: |
今回、報告システムをバージョンアップしたことで、入力画面のプルダウンメニューから必要な項目を選択するだけで、素早くレポートを作成できるようになったメリットは大きいですね。医療者は、コンピュータの前でデスクワークをする時間が限られていますから、報告書作成の時間が短縮できるようになりました。また、入力文字数を増やせたので細かく内容を記載したい場合にも対応可能となりました。一つのインシデントであっても、当事者だけではなく発見者も報告してくれるようになったことも報告数の増加につながりました。 |
| 収集したインシデント報告は、どのように活用されているのでしょうか? |

名古屋大学病院の報告システム
宮田:
緊急性の高い事例は、直接病院長に報告するなどの対策を取りますが、それ以外のインシデント報告に関しては、医療の質・安全管理部で週1回のペースで検討会を行い、原因の分析を実施しています。
また月に1回は各部門のリスクマネージャー(RM)が参加する全体会議が行われ、インシデント情報の共有や注意喚起などが行われます。有害事象の程度が高く、早急な対策が必要な事例に関しては、病院長や副院長が集まる委員会(執行部としての機能を持つ)に報告され、当部の見解を報告することになります。
| 100名以上のRMがシステムへのアクセス権を持ち、自由にインシデント報告を閲覧できるとのことですが。 |
| 宮田: |
限られた担当者だけがインシデント報告を見るのではなく、所属部門や部署のRMとして、インシデント報告の内容を確認できる権限を持ってもらっています。 |
| 報告システムの構築が、いわゆる「ナレッジベース(注2)」としても機能しているということでしょうか? |
|
相馬: その通りだと思います。ただし、情報処理の世界で「garbage in, garbage out(注3)」と言われるように、無処理の情報をいくら蓄積しても、そのままでは価値を生みだしません。収集したインシデント報告をスクリーニングし、追跡調査を加え、現場にフィードバックすることで、はじめて価値が生まれてくるわけです。もちろん、個々の事例を掘り下げて調査していくことが重要ですが、年間5000件ものインシデントが発生すると、どうしても優先順位をつけて対応していく必要が出てきます。それだけに、電子化されたシステムならではの分類・集計といった機能は効果を発揮していると思います。 また、今後はソフトウェアの検索機能を利用することで、複数の部署を横断して類似例を探し出すなど、より高度な分析もしていきたいと考えています。またインシデント報告をCSV形式(注4)で取り出すことができるため、個々の患者さんの診療過程を時系列に合わせて電子化しておき、そこにインシデント報告を紐づけて管理するなど、他のアプリケーションと組み合わせた運用も検討中です。入力や管理画面のフォーマット変更をはじめ、カスタマイズも容易にできますから、さまざまな応用の可能性がありますね。 |
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| 最後に、名古屋大学病院が目指すこれからの医療についてお聞かせ願えますか。 |
| 宮田: |
安全な医療を提供するというのはもちろん、当病院では「医療の質」においても安心できるものを提供する義務があると考えています。インシデント報告の電子化は、あくまで当院における安全管理の取り組みのひとつですが、単なるリスク管理のためだけでなく、患者さんによりよい医療を提供するためのツールでもあるという位置づけです。どんな些細なことでも、患者さんにとって不利益なことを防ぎ、より安全な医療を提供することを目標としています。 |
【注釈】
| (注1) ヒヤリ・ハット : | 事故には至らないものの、その一歩手前のヒヤリとした事例やハッとした事例のこと。 |
| (注2) ナレッジベース : | データベースの一種で、知識を共有するための仕組みのこと。FAQや過去の事例集など。 |
| (注3) garbage in, garbage out : | 誤ったデータからは、誤った情報しか得られないという意味。 |
| (注4) CSV形式 : | 表計算ソフトやデータベースなどで、もっとも一般的に利用されている、データを保存するための形式。 |
関連リンク
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