
内視鏡治療をはじめ先進的な医療で知られる昭和大学横浜市北部病院ですが、2008年4月にインシデント報告システムの「SafeProducer」を導入。医療安全対策においても先駆的な試みを行っている同病院のキーマンであるお三方に、これまでの取り組みについてお伺いしました。

| まずは昭和大学横浜市北部病院において、インシデント報告システムの電子化に取り組まれた背景について、お伺いできますでしょうか。 |

世良田:
ここ最近ではインターネットやブログの普及により、患者さまの側から病院の安全管理に関して積極的に情報発信を行うケースが増えてきています。そのような状況の中で、いかに医療に対する信頼を守るかが問われているといえるのではないでしょうか。単に安全意識を高めるだけでなく、病院が自ら積極的に問題を洗い出す姿勢や、それを支える体制づくりが重要だと考えています。また当病院のベッド数は663床なのですが、個々の患者さまに合わせた医療を行うことが求められる反面、医師や看護師の数は限られています。そのため、情報処理の効率化やシステム化が重要な課題となっていました。
| インシデント報告システムを電子化することで、具体的にどのような効果がありましたか? |
武藤:
インシデントレポートの情報が流れる経路は、紙ベースで運用してきたこれまでと同様なのですが、とにかくスピード感が違いますね。以前は、各部門の責任者が予防措置や対策を採ってからインシデントレポートを提出する場合が多く、インシデント発生から最長で2週間かかることも珍しくありませんでした。インシデント報告が電子化されたことで入力がより簡便となり、医療安全対策室に情報の届く期間が短縮され、結果として何が院内で起きているかを素早く知ることができるようになっています。たとえば従来の紙ベース運用では、日勤で発生したインシデントが夜勤でも発生するといった問題が少なくありませんでした。電子化により情報共有の速度が上がったことで、これらの問題へタイムリーに対応できるようになったのは大きな違いですね。
また、これまで数日おきにまとめて報告されていたインシデントが随時集められることによって、新たな「気付き」も生まれています。たとえば、薬袋に記載されている情報に不必要なものがあったため投薬のタイミングを間違うというインシデントがありました。当初は人為的なミスと考えていたのですが、看護師や薬剤師からのインシデント報告が続いたことで、システムとしての問題点に気付くことができました。
世良田:
インシデント報告を電子化するメリットとして、情報の匿名性という効果も期待できます。紙ベースだと、報告書が提出される経路において「関係ない第三者に見られる」可能性がありますから、何らかの問題を感じていても気軽に出しづらいという状況がありました。手書きと比較して誤字脱字が少ないことや、誰が書いたレポートなのか筆跡だけで判別できないということも、意外と大事な点なんです。結果、前述のようにレポートの入力が簡便となったことも併せて、安全管理に必要なインシデント数を引き出すことに成功したと考えています。
もうひとつ、データとしての検索性や利便性がアップしたのも大きな利点ですね。紙ベースと異なり同時に複数の担当者がインシデント情報にアクセスできますから、1つのインシデントを多面的な視点から評価できます。過去のインシデントを参照して、関連性を分析できるようになったのも重要な変化ではないでしょうか。
| インシデント報告システムの効果的な運用にあたり、特別に工夫されている点はこざいますか? |

成島:
インシデント報告書のフォーマットに関しては、紙ベースのものを踏襲していますが、広く浅く情報を拾い上げることに重点をおいています。あまり細かい情報を要求するフォーマットですと、入力に手間がかかることから、かえってインシデント報告の敷居を上げてしまいかねません。インシデント報告でなにより重要なのは、第一報をいかに早く提出してもらうかであり、情報の詳細さではないんです。備考欄などに関しても、報告者の主観や感情がなるべく入り込まず客観的な情報が収集できるよう、なるべくシンプルな構成としています。

武藤:
インシデント報告システムを導入したら、そこで終わりにするのではなく、いかに情報を現場にフィードバックするかが重要ですね。そのため当病院では月に1度、セーフティーマネージャー(各部門における医療安全の担当者)による分科会を開催し、情報共有を徹底しています。また電子化が進んだとはいっても、「いったん紙に書いた情報を電子カルテに転記する」といった旧来の運用手順が残っている場合があり、研修などを通じてこれら変えていくことが重要といえます。
世良田:
リスクに対する意識の共通化も運用上のポイントですね。本来はインシデントであるはずなのに、当事者が危険を認識していないケースが決して少なくありません。そういった意味において、インシデントの当事者だけでなく発見者が手軽に報告できるようになったSafeProducerの導入効果は大きいといえます。もちろん、情報を分析する側の感性を磨く必要もあるでしょう。
| 今後、医療安全に対してどのような取り組みを予定されているのか、お聞かせください。 |
成島:
次の段階としては、アクシデント/インシデントの手前でいかに危険を排除できるかが課題だと考えています。具体的には、患者さんに影響の大きい処置や検査を行う際には、決められたフォーマットによるチェックリストで確認を行う仕組みを採用しているのですが、このチェックリストを電子化し、電子カルテと連携させることを検討しています。もうひとつは「医療の標準化」を念頭に、医師や看護師のスキルを数値化して管理できるよう、カテーテル挿入など個々の医療行為の履歴を電子データとして残すことができないかと考えています。


2001年に設立。全国でも有数の人口増加率を示す横浜市都筑区において、横浜市北部医療圏の地域中核病院として中心的役割を果たしている。設立時に電子カルテを導入するなど、先進的なシステムを採用。
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