高齢化社会における家計貯蓄と資金循環構造の変容
-安倍政権の中期方針とその含意-
研究理事南波 駿太郎
2007年6月
要旨
わが国はかつて経験したことがない急激な高齢化社会を迎えている。一方、わが国の家計貯蓄率は、1980年代初頭にはG7諸国の中で高い水準にあったが、今やもっとも低いグループに属している。「ライフサイクル仮説」によれば、高齢化の進展はマクロの家計貯蓄率を押し下げることになる。1980年代以降のデータを使い家計貯蓄率関数を推定したところ、高齢化が極めて強い影響を与えていることが分かった。
家計貯蓄の背後には家計の資金運用・調達行動がある。運用から調達を差し引いた家計の資金余剰は、1990年代半ば以降大幅な低下を示し、現在名目GDPの1~2%と極めて低い水準にある。家計部門はもはや資金余剰部門とはいえない状態にあり、これまで日本経済の特徴といわれてきた家計の貯蓄超過を企業の投資超過でバランスさせるといった構図は大きく変化してきている。
安倍政権は、本年1月の財政諮問会議において、「日本経済の進路と戦略」と題する新中期方針を打ち出した。「進路と戦略」で想定されているマクロ経済見通しをもとに、今後5年間の家計貯蓄率の推移を予測すると、2010年以降家計貯蓄率はマイナスに突入する。一方、「進路と戦略」で想定している今後5年間の資金循環構造をみると、家計部門の資金余剰の減少を企業部門で完全にカバーするかたちとなっている。しかし、日本経済が着実な回復過程を辿っている中で、果たして今後とも企業部門の資金余剰の状態を維持することが可能か疑問なしとしない。
高齢化に基づく家計貯蓄率の低下が基本的に避けられないと仮定した場合、残された選択肢は、稀少資源としての貯蓄の無駄使いをなくし、経済の効率化とスリム化による1人当たりの所得水準の向上を目指すことであり、安倍政権はこうした経済目標を、国民のコンセンサスとして明確にする必要があるのではないだろうか。
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