No.248 : ITの戦略的価値をめぐる論争
— ニコラス・カーの”IT Doesn't Matter”を再考する —
主任研究員 前川 徹
2005年12月
要旨
ニコラス・G・カーがハーバード・ビジネス・レビューに発表した”IT Doesn't Matter”は、IT業界、ITと企業戦略の研究者、企業経営者の間に大きな論争を巻き起こした。カーの主張は「ITは、電話や電力、鉄道などの基盤的技術と同じように技術的な成熟に伴いコモディティになり、もはや企業にとって持続的な競争優位の源泉ではなくなっている」というものである。
多くの人たちはカーの論文について、カーが「ITは重要でない」と主張していると誤解しているが、カーは決して「ITが重要でない」と述べてはいない。「持続的な競争優位の源泉となるものは、普遍的なものではなく、希少な資源でなけれなならない。したがって、誰でも入手できるITによって持続的な差別化を図ることは困難であり、ITは戦略的な価値はなくなっている」というのがカーの主張である。
カーは、ITの最善の利用方法(ベスト・プラクティス)もソフトウェアの中に埋め込まれるようになっており、利用方法もコモディティ化していると述べている。しかし、ITを実際にビジネスや経営に活用する能力(ITケイパビリティ)は、企業の抱える人材や組織形態、企業のカルチャーに依存しており、これは簡単に模倣できるものではない。ITが容易に入手できるようになったことを考えると、ITを活用できる組織能力こそが競争優位の源泉として重要になっているのではないだろうか。
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