No.172 : 政府の貨幣価値コミットメントと金融政策の限界
-金本位制から現代まで-
研究顧問 岩村 充/客員研究員 渡辺 努
2003年7月
要旨
- 金本位制とは金の一定量と貨幣単位とを結びつける貨幣制度である。だが、そうした金本位制の下でも、貨幣価値は自動的に安定していたわけではなかった。金本位制を支えていたのは、貨幣の価値を維持しようとする政府(中央銀行を含む広義の政府)のコミットメントであった。これは現代の管理通貨制でも何ら変わるところはない。
- 貨幣の価値を維持しようとする政府のコミットメントは、政府と中央銀行を連結した仮想的なバランスシートを想定することにより定式化することができる。そこで得られるのは、財政の将来に対する人々の期待の重要性である。人々が財政のサープラス拡大を期待すれば貨幣価値には上昇圧力が発生し、サープラス縮小を期待すれば貨幣価値には下落圧力が生じる。
- ところで,人々の財政の将来に対する期待から生じる貨幣価値すなわち物価への圧力は、金融政策により緩和したり増幅したりすることができる。そうした財政と金融のかかわり合いを、金本位制から現在の管理通貨制を通じて一貫した理論的枠組みによって分析するには、FTPL (Fiscal theory of the price level:物価水準の財政理論)が有効である。
- 金融政策による物価への影響力は万能のものではない。金融政策とは、人々の貨幣価値に対する予想を現在と将来の間で再分配するものに過ぎないことがFTPL から導けるからだ。しかも、名目金利がゼロに貼りついた流動性の罠の状態では、金融政策によって貨幣価値の再分配つまりデフレの先送りを行うことも不可能になる。
- 現在の日本の手詰まり状況は、そうした限界にある金融政策にデフレ脱出の課題の全部を負わせようとしているところにある。デフレ脱却のためには、財政の将来についての人々の期待を修正する必要がある。貨幣価値に関する政策目標の達成には,目標と整合的な財政に対する人々の期待が必要だからである。
*本稿は「ゼロ金利制約下の物価調整」(『フィナンシャル・レビュー』第64 号,2002 年8 月)および“Price Level Dynamics in a Liquidity Trap”(経済産業研究所RIETI Discussion Paper Series, 03-E-002,2003 年1 月)で議論した内容に、新しい観点を加えて書き直したものである。
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