No.161 : ITと生産性
—日米欧の比較分析—
主任研究員 峰滝 和典
2003年4月
要旨
- ITに対する行き過ぎた楽観論や悲観論は、金融市場とりわけ株式市場からの見方に影響されている。ITと生産性に関する実証分析は、ITが社会にもたらすインパクトを冷静に把握する上でも必要である。米国ではネット・バブルが崩壊した直後2001年に、労働生産性の伸び率は低下したものの、2002年は再び上昇率が上がり2000年を上回った。具体的には非農業部門の労働生産性の対前年比上昇率は2000年の2.9%から2001年に1.1%と低下し、2002年には4.8%と大幅上昇となった。
- 各国の90年代後半のIT供給産業・IT利用産業・非IT産業別の労働生産性上昇率の比較を行った結果を見ると、フィンランド、アイルランド、米国はIT供給産業・IT利用産業ともに相対的に高い労働生産性上昇率となっていることがわかる。とりわけ米国の特徴はIT利用産業の労働生産性上昇率が高い、なかでもサービスの寄与が高いことである。米国とEUと比較するとIT供給産業の労働生産性上昇率については概ね同程度であるが、IT利用産業の労働生産性上昇率については米国が大きくEUを上回っている。
- 1995年以降、米国では労働生産性の上昇が観測され、それをもたらした原動力はITであり、IT財価格の低下(特にコンピュータ・ハードウェア)がその他の生産要素を代替させることによって生じているということである(Capital Deepening)。しかしより構造的変化の要因である、ネット・ワークやソフトウェアの外部性効果については産業レベルのデ-タでは十分には実証されていない。
- IT資本と各種労働需要との代替・補完関係についてみると、実証分析の結果ではIT資本と低学歴労働は代替関係にあることが明確に現れている。IT資本の急激な価格低下に伴い、IT資本による低学歴労働の代替(つまり資本深化)メカニズムが強く働いているのである。他方IT資本は高学歴労働に対して補完的(食品、繊維、金属製品、一般機械(90年代)、電気機械、輸送機械、精密機械、サービス)であることが分かる。ITの進展がKnowledge Workerの存在を必要としているということが、日本の一部の産業で実証された。
- IT革新による日本の労働者のノウハウの陳腐化、つまり1990年代におけるITの急速な広まりが、逆にこれまでの日本経済の強さである長期的関係を基礎としたノウハウの相対的優位性を低下させてきたことを示唆する結果が実証された。
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PDF ITと生産性 —日米欧の比較分析— [1.24 MB]
