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No.137 : 京都議定書発効をバネに地域分散型産業構造へ

主席研究員 田邉 敏憲

2002年7月

要旨

  1. 京都議定書合意が発効する流れにある。米国は不参加ながら、EUと日本は参加する。産業界は対応コスト増による悪影響を懸念するが、再び日本が産業競争力を回復するチャンスである。公害防止規制や石油ショックをバネに競争力を高めたわが国産業の歴史に学びたい。
    その際、日本は相対的に豊かな雨量や米国と並ぶリサイクル鉄(金)などの資源大国であることを意識すべきだ。恵まれた降水量ゆえ、草木も育ち、エネルギー(火)がとれ、土質もよい。すなわち中国の五行思想「木・火・土・金・水(もくかどごんすい)」の説く、宇宙を構成する基本的な5元素全てに恵まれたポジションを活かす戦略が重要となる。
    京都議定書合意による具体的なCO2削減量は、政府の地球温暖化対策(旧)大綱ベースでは▲6,000万炭素トン(▲17%)となる。本年3月に出された新大綱ベースでは▲4,500万炭素トンと幾分削減規模は緩和されている。ここでは、厳しい削減量となる旧大綱ベースでも十分達成できる政策を示したい。
  2. CO2削減目標達成のための5つの柱をあげる。
    1. 原子力発電の稼働率引上げ
      定期検査期間の短縮<60日→30日>や燃料交換インターバルの長期化<13ヶ月→18ヶ月>のほか、熱出力一定とし、電力不要時には核熱水素製造等を行う。これら措置により、現在80%強のわが国原子力稼働率を10%引上げるのは十分可能だ。稼働率の10%引上げで、600万トンのCO2削減に寄与する(全体の約10%)。
    2. 低燃費車の普及
      水素燃焼の燃料電池車の開発にも注力する必要があるが、日本メーカーが優位に立ち、既に実用化されつつあるハイブリッドカーや低燃費ディーゼル車の普及に注力すべきである。環境税率等でインセンティブを付与すればよい。産業界に比べ、従来対応が遅れていると非難される民生・運輸部門の排ガスも大きく削減できる。因に、最終消費エネルギーの2割強を占める自動車部門の燃費が1/3になれば(1L=10Km走行車から30Km走行車への全面普及)、4,000万トン規模のCO2削減となる(全体の2/3)。
    3. バイオマス・エネルギーの活用
      炭素入出がニュートラルな草木などバイオマス(生物資源量)・エネルギーを活用する。わが国1次エネルギーの少なくとも1割は採集できるとすれば、約1割のCO2削減に寄与する。巨額のエネルギー輸入額も大きく削減できる。
      また、太陽光・風力発電など他の新エネルギーに比べても、雇用機会の創出効果が大きく、必要な設備量が少なくて済む。発電に加え、熱供給、メタノール製造、高カロリーガス燃料製造、森林整備による保水力向上、林業・水産業の活性化、肥料(灰)の供給など、極めて多岐にわたる波及効果も期待できる。
      問題は、日本では採集コストが高いことである。この改善には、例えば傾斜の厳しい森林用のエアーシューター型チッパー開発など、入口での収集コスト低減のための物流イノベーション、あるいは出口での高カロリーガス化等のイノベーションが不可欠となる。こうしたイノベーションを促進するよう電力買上げ価格等の設定が望まれる。そのための保水税・環境税など目的税や補助金の活用は国民の支持を得られよう。
    4. エネルギー多消費産業の熱利用プロセス革新による産業競争力の強化策
      豊富なリサイクル資源を活かして、鉄鋼、化学、セメントなどエネルギー多消費産業も熱利用プロセス革新により、国際競争力を取り戻すことができる。
      特に鉄鋼業が有望である。日本は米国に次ぐスクラップ鉄資源大国として、既に年間のリサイクル鉄資源は5,000万トンに達している。さらに今後、国内向け粗鋼生産量に相当する6,000~7,000万トン規模に達するとの予測にある。わが国の冶金技術で可能なスクラップ鉄から高級薄板を製造する、年産50万トン規模の次世代ミニミルを全国に展開するのが日本に有利な戦略となる。収集コスト面で各県への分散設置が合理的立地となる。サンク・コスト化した各地の休廃止高炉も蘇る。
      高炉プロセスが不要で、加工プロセスが飛躍的に短くなるため、設備投資コストは大幅に縮減する。必要エネルギー1/9、CO2排出量1/5、製造コスト1/2といずれも大幅に改善する。鋼材価格が現在の半分になると、鉄を産業の米とする他産業も復活する。
      CO2排出量が1/5になると、鉄鋼業の最終エネルギー消費に占めるウエイト(11.5%)、薄板比率1/3を前提にすると、全体の▲3%(1,000万トン)の削減も可能だ。
    5. 民生電力を削減する白色発光ダイオードの普及
      白色発光ダイオード(LED)は、民生電力の20%を占める照明分野の消費エネルギーを1/10(蛍光灯の場合1/2)に、かつ寿命は10倍化する。民生部門の最終エネルギー消費に占めるウエイト(27%)を前提にすると、全体のCO2排出量を▲3~5%(900万~1,500万トン)削減することになる。
  3. 以上の各種政策や企業努力が展開されると、わが国は2010年度までに必要とされる全体のCO2削減量6,000万炭素トンを十分にクリアーできる。しかも発電などエネルギー関連プラントや自動車産業が競争力を維持するだけでなく、鉄鋼業の低コスト化により、このところ競争力が低下気味の電機、機械などの産業も復活する可能性も出てくる。
    バイオマス・エネルギーにしろ、リサイクル資源活用の新産業モデルにしろ、ポイントとなるのは、収集コスト低減のための物流イノベーションである。それを磨くことにより、地域分散型産業構造への転換も進み、自立した地域経済が実現する。
    さらには、富士通総研・福井俊彦理事長発案の「2030年エネルギー自給率50%イニシアチブ」(仮称)といった、エネルギー自給率引上げも実現可能となる。これは、わが国の1次エネルギー構成比を現在の自給率20%から、30年には輸入化石燃料50%、原子力25%、バイオマスなど再生可能エネルギー25%に引き上げる戦略である。
    以上のように日本には、CO2削減、地域産業の立ち上げ、わが国産業競争力の回復、エネルギー国産化率の引上げという1石4鳥的な政策が十分可能と考える。

全文はPDFファイルをご参照ください。

PDF 京都議定書発効をバネに地域分散型産業構造へ [968 KB]