No.133 : 著作権の経済学的分析に関する理論的枠組み
主任研究員 浜屋 敏/研究顧問・慶応義塾大学メディアコミュニケーション研究所教授 林 紘一郎/関東学院大学経済学部専任講師 中泉 拓也
2002年4月
要旨
- デジタル化とネットワーク化という環境変化に伴って、わが国でも著作権に関する議論が盛んに行なわれている。しかし、議論の中心は、著作権の中でも財産権について、権利者と利用者の利害調整の面から検討するものが多い。一方、米国では法律に関する経済学的な分析が「法と経済学」として確立されており、著作権あるいは著作権法を経済学的に分析する試みも行なわれている。
- 米国における代表的な研究によれば、作者は過去の作品を利用して新しい作品を作るのであるから、著作権保護を過度に強めると作者が過去の作品を利用するコストが高くなり、創造される作品の数が少なくなる。著作権保護の強化とともに作者の事後的な利益は増加するから創造のインセンティヴも高まり、作品数は増加するが、一定水準以上に保護を強化すると作品創造のためのコストが高くなるために作品数は減少してしまう。また、社会全体の厚生にとっても最適な著作権保護の水準が存在する。最適な水準以上に著作権保護を強化すると、創造される作品の数が減るだけでなく、作品へのアクセスが減少し、制度を維持するためのコストも上昇するために、社会全体の厚生が減少することになる。
- 私的コピーが経済に与える影響を分析する場合、重要なポイントとして、(1)複製の限界費用、(2)収益帰属の可能性(アプロプライアビリティ)、(3)オリジナルとコピーの代替可能性という3点がある。この3つの条件が変われば私的コピーが経済厚生に与える影響も変化するが、たとえば、複製の限界費用が一定で収益帰属の可能性が直接的であり、コピーがオリジナルを完全には代替できず、しかも作者の限界費用が低い場合、コピーによって作者の利益は減少するものの、それ以上に消費者余剰が増加し、全体的な経済厚生は高まることになる。つまり、条件によっては私的コピーを許した方が経済厚生は高くなる場合もある。
- デジタル化とネットワーク化は、既存の研究の前提を大きく変化させている。パソコンとインターネットの普及という新しい環境において、1990年代後半には、情報財の共有による経済的な影響を分析した論文も登場した。そのような論文では、作者(著作権者)が財の利用者の属性を事前に知ることができれば、利用者の属性によって情報財の価格を差別化することで利益を増大させることも可能であると指摘している。
*本稿は、2001年12月5日開催の富士通総研主催「デジタル化時代の著作権コンファランス」において発表した報告の内容を、加筆・修正したものである。
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