No.101 : IT革命と時間の稀少性
研究顧問 岩村 充 /上級研究員 新堂 精士 /主任研究員 長島 直樹 /客員研究員 渡辺 努
2001年3月
要旨
- 本稿は情報取得における個人と組織の特性を対比し、そこから生じる様々な問題について整理した上で、問題提起を行なったものである。個人の情報取得に対する態度は、"時間の稀少性"をキーワードとして説明することができる。
- 近年、情報量の急増と余暇の増加によって、状況は明らかに情報取得促進的になっている。一方、個人による情報利用時間や情報取得のための支出は、促進的な環境とは逆に、消極性・保守性が観察される。
- この理由として、(1)情報を消費し、有益な情報へと再生産するには稀少資源としての時間の投入が必要になる、(2)組織と異なり個人の場合は、時間の投入を構成員間で配分できないため、異時点間配分も著しく限定される、(3)情報は使い減りしない財(Non-rival Goods)なので、組織であれば、共同利用(プール)のメリットが大きいが、個人ではプールが不可能である、(4)情報取得のための支出においても、得られた情報を消化するには時間投入を必要とするため、同様に保守的・リスク回避的になる ??? といった要因が考えられる。
- 個人にとって本質的な"時間の稀少性"、それに起因する情報取得に対する消極性によって説明される事象は意外に多いのではないか。例えば、(1)パソコンや書籍・音楽CDなどのネット販売価格は、店頭価格に比べて必ずしも安くなく、価格のばらつきも大きいこと、(2)消費財産業においては、顧客の関心を独占するための広告・広報戦略が業績との関連を深めている可能性が高いこと、(3)昨今報じられたメガ合併の多くは、対消費者の消費財・サービス産業で起こっていること ??? などが挙げられる。
- 前項の(1)はこれまで、パラドックスと考えられていたが、"時間の稀少性"を前提にすれば、個人にとっては合理的な行動である。(2)、(3)は個人サイドの特性を企業が利用すれば稀少な顧客の関心を独占する企業戦略が成立することを示唆したものである。しかし、こうした個々人、個々の企業にとって合理的な行動も、社会全体では非効率につながる。したがって「IT革命が情報の非対称性を解消し、理想市場に近い市場を実現する」という考え方は、"時間の稀少性"を前提とすれば成立しないことになる。
- 情報の過少取得に起因する非効率を解消するのは容易でない。「検索の浸透」が「関心の独占」を突き崩すには、NPOなど組織の利用を模索したり、個人の情報発信における責任を大幅に限定することなどが考えられる。また、競争法制のあり方においても、生産物や生産要素の独占だけでなく、権利としては規定しにくい"関心の独占"についても真剣に議論すべき時期に来ているのではなかろうか。
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