No.37 : 日本企業におけるIT投資の生産性
客員研究員 松平 Jordan
1998年9月
要旨
- 最近日本の景気低迷に対する対策をめぐる議論において、 情報技術(IT)へ優先的投資をすべきだという主張が台頭しつつある。 しかし、民間設備投資額の多くをITに対して行ってきた米国においてさえ、 「IT生産性パラドックス」 と名付けられている現象についてさまざまな研究が行われ、 ITの経済的な効果は疑問視されていた。 さらに、日米の経済制度は異なるため、 それぞれの国におけるITの経済効果も異なっていると考えられる。 このような問題意識のもとで、 われわれは228社の日本の上場企業のデータを用い、 日本におけるITの経済的影響、特にIT投資に対するリターンについて、 計量的な分析を行った。
- 本稿では、まずIT投資の増加がどのようなメカニズムや条件のもとで 経済パフォーマンスを向上させるのかということを浮き彫りにするために、 理論的な分析枠組みを概説する。 IT投資の増加が経済成長に貢献するためには、 ITの限界生産物は正でなければならない。 しかし、これだけでは他の設備よりITに対して 優先的に投資を行う理由にはならない。 そのためには、さらにITが超過リターンを生み出す、 つまりITに対するリターンが他の種類の資本のリターンを 上回っているという条件も満たされていなければならない。
- 上述の条件が満たされているかということを明らかにするために 多変量回帰分析を行って分析すると、業種によって異なる結果が得られた。 製造業においては、上記の2つの条件は満たされている。 情報技術への投資の限界リターンは正であるだけではなく、 他の設備のそれより約10%大きいことが判明した。 これは、ITへの優先的な投資を促すような政策が 日本の経済成長や生産性を向上させる効果があることを示唆している。 しかし、非製造業での結果はこれと矛盾している。 米国で観察された「IT生産性のパラドックス」と同様に、 ITに対するリターンは統計的にゼロと違いがない。 この業種間の相違の原因を探るためには、 さらなるミクロ・レベルの研究が必要である。
