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国際的枠組み交渉の不透明化と企業の低炭素経営

主任研究員 生田 孝史

2009年1月

不透明化するポスト京都議定書に向けた議論

2008年は、京都議定書の第一約束期間(~2012年)の開始年であった。しかし、08年11月に発表された2007年度の国内温室効果ガス排出量速報値は、基準年(1990年)比8.7%増であり、排出削減の見通しが立っていない。議定書の目標達成には、森林吸収源対策や排出量取引などの京都メカニズムによる削減充当分を見込んでも、基準年比9.3%(1.17億t-CO2)の排出削減が必要となる。昨今の経済悪化が排出削減に寄与する可能性はあるとは言え、議定書目標達成は、相当厳しい状況であり、追加的に海外から炭素クレジットを購入せざるを得ないシナリオが現実味を帯びてきている。

一方、国際的な議論は、2013年以降の「ポスト京都議定書」の枠組み作りに移行している。09年12月頃にコペンハーゲンで開催されるCOP15(国連気候変動枠組条約第15回締約国会議)で新たな議定書が合意される予定だ。08年7月に洞爺湖で開催されたG8サミットは、気候変動対策の議論の進展と日本のリーダーシップが期待されたが、両者とも十分な成果が得られなかった。2050年までの長期目標(世界全体で温室効果ガスの排出量50%減)のG8合意も大きな前進とは言えず、2020年~30年頃の中期の数値目標は、結局、設定できなかった。日本は、自国内の中期目標を提示することができず、リーダーシップを発揮できない状況であった。

洞爺湖サミットで明確になったことは、G8では、新たな国際枠組みを形成することができないという事実であった。今後、存在感を増すのが、G8に中国・インドなど新興8ヵ国を加えた16ヵ国による主要排出国会合(MEM)であり、温室効果ガス排出量合計は全世界の8割を占める。とはいえ、洞爺湖サミットに併催されたMEMでは役割分担を巡る各国の利害が対立し、長期の数値目標すら合意できなかった。

有効な国際枠組みを構築するためには、全ての主要排出国の参加、途上国への技術移転、革新的な技術開発と普及等の課題についての合意形成を図る必要がある。08年12月にポーランドで開催されたCOP14の結論は、本稿執筆段階では不明であるが、世界的に緊迫した経済情勢の下、新たな削減目標の合意、先進国と途上国の役割分担などを巡る交渉が激化することが予想され、大きな進展は期待しにくい。

強まる低炭素経営の要請

国際枠組みの交渉の行方は不透明であるが、企業経営の足下を見れば、低炭素経営の要請は強まる一方であることは間違いない。国内でも、2008年7月に低炭素社会づくり行動計画が閣議決定され、2050年までに60~80%削減という長期目標が示され、温暖化対策が一時的なものでないことが確認された。技術開発・普及施策では、太陽光発電導入の拡大(2020年に10倍、30年に40倍)、次世代自動車の導入(2020年までに新車販売の50%)、白熱電気の省エネランプへの切り替え(2012年まで)など、具体的な数値目標が設定された。国全体を低炭素化へ動かす仕組みの一つとして、国内排出量取引も試行実施される。2009年夏から企業間の排出枠取引や排出削減量を認証したクレジット取引が行われる予定である。罰則規定がない自主参加型である上に、多様な参加形態を想定しているため、十分な成果が検証できる仕組みとしての課題はあるものの、国内市場の構築に向けた一歩は踏み出したといえよう。

国際的な炭素の市場化は進行している。2007年の全世界の炭素市場の規模は、前年比105%増の640億ドル(約6兆円)であった。05年から削減義務に基づく市場を創設した欧州に続き、オーストラリア、カナダ、ニュージーランドでも排出量取引を導入予定であり、米国も政権交代によって取引市場創設の動きが加速されそうだ。直近の炭素市場価格は弱含みであるが、市場規模の拡大は基本的潮流である。

サプライチェーンのCO2管理の要請も高まっている。2003年から企業の炭素排出量報告調査を実施してきた国際NPOのCarbon Disclosure Projectは、07年から取引先の気候変動対策を調査するパイロットプロジェクトを開始した。日本企業の参加はないが、欧米の主要多国籍企業が参加しており、将来の調達基準となる可能性がある。製品にバリューチェーン全体のCO2排出量情報(カーボンフットプリント)を表示する動きも顕著である。英国ではポテトチップスの袋にCO2排出量を表示するメーカーがあり、大手スーパーのテスコも自主ブランド全商品への排出量表示を宣言した。我が国でも、食品業界や大手小売業を中心にカーボンフットプリント表示を試行する予定であり、原材料・成分等に加えてCO2情報が製品に表示される日は遠くない。

低炭素経営のためのリスクとチャンス

気候変動問題を巡る政策・市場動向が急速に変化する中、企業は、自社のリスクとチャンスを的確に把握し、低炭素経営を行うための意思決定を行わなければならない。

海外の金融機関は、資産価値・売上高・利益の経営指標と企業のCO2排出量を比較したリスクアセスメントを始めている。CO2排出量が多い企業は、将来の対策リスクが大きいということである。リスクマネジメントのためには、自社や製品のCO2排出量の最小化が必須であり、更には、バリューチェーン全体の管理が望まれる。

一方、CO2単価が明確になることで、ビジネスチャンスも拡大する。エネルギー価格の高騰問題が一段落したとはいえ、コスト削減につながる省エネニーズは大きい。低炭素型商品の提供や、企業や製品のCO2排出量管理・削減支援サービスなどのビジネス開発の競争も激化する。長期的な企業競争力強化のために、低炭素社会を目指す潮流と顧客ニーズを踏まえたソリューション提供のための創意工夫が求められる。

全文はPDFファイルをご参照ください。

PDF 国際的枠組み交渉の不透明化と企業の低炭素経営 [206 KB]