米国における電子個人医療情報の動向
上級研究員 江藤 宗彦
2009年1月
目次
1. はじめに
2. 医療の情報化の発達プロセス
3. 医療情報化の国際比較
3.1. はじめに
3.2. 医療制度の3ヵ国比較
3.3. 3ヵ国の医療情報化の動向
4. 米国の医療情報化の動向
5. 医療提供者による医療情報化の動向
5.1. EHRモデルの2つのアプローチ
5.2. EHRアプローチ(1)の事例:カイザーパーマネンテ
6. 個人中心の医療情報化の動向
6.1. 個人による電子医療情報の活用状況
6.2. ePHRモデル
6.3. マイクロソフト
6.4. グーグル
6.5. Dossia
7. おわりに
要旨
米国は、世界IT市場において40%近くを占める巨大市場であると共に、IT産業の技術革新をリードしている国である。一方、医療においても、世界一の巨大市場であり、臨床研究や研究開発が盛んに実施されている。ITと医療の双方で世界をリードしている米国において、グーグルやマイクロソフト等の間でePHR(electronic Personal Health Record:電子個人健康医療情報記録)の規格競争が激化しており、医療情報の分野における地殻変動が起き始めている。
これまでの医療情報化は、医療提供側(医療機関や保険者)の効率化を目的に進められてきており、医療情報は医療提供側が管理をしてきた。これに対し、ePHRは、自らの生活の質(Quality of Life)の向上を図ることを目的に、個人(≒患者)が保健医療情報を収集、保存、活用するものである。ePHRによって、本来医療情報の発生源である個人が、医療情報を保有・管理するため、医療提供者中心で進められてきた医療情報化が患者中心で進むことになり、医療自体の在り方が大きく変革される可能性がある。
ただし、現時点ではePHRのビジネスモデルはまだ不明瞭な部分が多く、事業継続可能なビジネスモデルが出現している段階にはない。特に、プライバシーとセキュリティの問題、データの標準化、医療機関でのEMR(電子診療情報記録)の普及、投資回収可能な収入源の確保といった課題が解決される必要がある。
Webビジネスは“Web Globally Service Locally”と言われ国を超えてサービスを横展開することは容易ではなく、医療も国によって制度や習慣が大きく異なるため、他国の医療制度を輸入することは難しいと考えられてきた。しかし、米国において無料で利用できるePHRビジネスモデルを構築した場合には、そのモデルがグローバルスタンダードになる可能性があり、日本もその影響を受けることになる。