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地域レベルの温暖化対策の先行:東京都と広島市の事例から

主任研究員 生田 孝史

2009年1月

東京都の先行取り組み

2008年6月25日、東京都議会で、環境確保条例改正案が全会一致で可決・成立した。改正条例の目玉は、都内の大規模事業所への温室効果ガス排出総量削減義務付けと、その補完措置としての排出量取引の導入である。この条例によって、2010年度から、原油換算1,500kl/年以上のエネルギーを使用する約1,300事業所が、削減義務の対象となる。基準とする排出量と削減義務率は、08年度内に設定予定である。

削減義務の第一計画期間は、2010~2014年までの5年間の予定である。対象事業所が省エネ等による自らの削減対策だけでは、削減義務が達成できない場合、他者が実施した削減対策から削減量を取得することができる。他者からの削減量取得手段には、他の対象事業所の削減量の取得、対象外(中小規模)事業所の省エネによる削減量の取得、都外の事業所の削減量の取得や、グリーン電力証書(再生可能エネルギーの環境価値)の購入が該当する。また、09年度から太陽熱を使った暖房や給湯器を設置した家庭に対し、使った太陽熱の量を環境価値として評価して買い取る「グリーン熱証書制度」を全国で初めて導入する予定であり、このグリーン熱証書の取得も、対象事業者の削減量取得手段に活用できる見込みである。

実効性を確保する措置も設けられた。取り組みの優れた事業者には評価・表彰が行われる。削減義務未達成の場合は、不足量×最大1.3倍の削減措置命令が出され、命令違反には、上限50万円の罰金あるいは不足量の調達費用が請求される。その他の条例改正部分も、業務、家庭部門の対策強化が中心である。例えば、中小規模事業所の温暖化対策報告書の任意提出制度、大規模都市開発時のエネルギー有効利用計画義務付け、建築物の環境配慮基準強化、家電製品の省エネ性能提供・販売等である。

このように、東京都の取り組みは、国に先行したものとなっている。中期の削減目標についても、2007年1月に、2020年までに温室効果ガス排出量を2000年比で25%削減するという数値目標を設定している。2008年3月の改正環境基本計画では、産業・業務、家庭、運輸の部門別の削減目標が明記された。

国際連携にも積極的である。全世界の40都市が参加する世界大都市気候先導グループに日本で唯一参加し、08年10月には東京会議を開催した。また、都内企業の海外への環境技術移転協力や国際的な気候変動対策の推進のための国際協力銀行との覚書締結のほか、排出量取引の国際プラットフォーム構築を目指す国際炭素取引パートナーシップへの参加方針も示している。

これらの東京都の積極姿勢の背景には、国内最大の集積都市として、ヒートアイランド現象の深刻化を含め、都市特有の環境問題に率先して対処する必要性がある。気候変動対策において国内でリーダーシップを発揮したいという思惑もある。更に、オリンピック誘致の観点からも、「環境先進都市」としての高い評価は欠かせない。

広島市の先行取り組み

広島市でも独自の取り組みを推進している。同市では、2010年度の1990年度比6%の排出削減目標に加えて、2030年度に50%削減、2050年に70%削減という意欲的な中長期目標を設定している。広島市も独自の排出量取引制度を導入する計画である。東京都のような総量規制ではないものの、大規模事業者に削減計画を義務付け、計画達成手段として、植林活動やグリーン電力の購入、CDMによるクレジット購入に加えて、市が創設する取引市場での排出枠の売買を認めるというものである。

広島市の排出量取引制度では、市民が参加できるという点が画期的である。具体的には、各家庭における排出削減量を第三者機関が買い取り、大口化して取引に参加する。第三者機関は町内会等が想定されており、取引による収益の使途・分配方法は、各町内会の判断に委ねられるという計画である。現在、取引市場創設の詳細制度設計を行っているところであり、2010年度の導入を予定している。市民参画の土壌づくりとして、既にCO2削減割合に応じて、ポイントがもらえて、協力店での割引やサービスが受けられる制度が実施されており、参加者の反応も上々だという。

地域の先行取り組みの意義

地域の独自の先行取り組みには、実験・実証の場としての意義がある。例えば、EUにおいては各加盟国の提案・議論が、先進的な環境政策を生み出しており、国際議論を先導する源泉となっている。ブッシュ政権下で連邦レベルでの温暖化対策が停滞していた米国においても、カリフォルニア州や北東諸州等の地域レベルの排出量取引実施計画などの先行取り組みが進展し、オバマ新政権下の温暖化対策において有益であると見られている。

地域特性に合わせた適切な対策が行えることも、独自取り組みの意義である。特に、今後の温暖化対策は、産業部門から、業務・家庭部門対策の重要度が増すだけに、きめ細やかな仕組みづくりに対する地域の経験蓄積が期待される。

地域の先行取り組みは、域内事業者からすれば、負担増につながるという見方もある。しかし、長期的に温暖化対策が強化されることを考えれば、排出量取引など、炭素の市場化に関する経験蓄積や、自社の炭素排出を最小化することで、将来のリスク回避につながる。先行して低炭素型の事業ノウハウを獲得すれば、有効なビジネス展開を図ることもできよう。低炭素型社会への転換が求められる今、先行取り組みによる経験を、効果的に国全体の施策に反映させることが期待される。

全文はPDFファイルをご参照ください。

PDF 地域レベルの温暖化対策の先行:東京都と広島市の事例から [198 KB]