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雇用指標から見る地域間格差

上席主任研究員 長島 直樹

2009年1月

日本経済は2002年1-3月期から2007年秋まで、約5年半にわたって景気拡大局面が続いたと言われる。この間の景気回復と並行して「格差拡大」がクローズアップされてきた。格差は主に経済格差の意味だが、それは地域間、企業規模間、雇用形態による所得格差という文脈で語られることが多い。

こうした格差に対する認識は、当時の小泉政権の経済政策を批判する立場から、「金持ち優遇」、「大都市偏重・地方切捨て」という言い方も各種メディアや野党の立場から常套句として使われるようになった。格差の議論は、経済格差にとどまることなく、「希望格差社会」(山田昌弘著)といった書物にも注目が集まった。

しかし、「中央と地方の格差」、「地域間格差」に限定しても、何をもって格差とするのか、何を尺度とすべきかに関しては様々な見方がある。よく使われるのは1人当たり所得額であり、生活水準を表す代理変数と考えられている。しかし、地方ごとに物価水準が異なるため、所得水準イコール生活水準とはならない。また、地域間で人口の年齢構成が異なるという問題もある。所得が少なくても資産を多く持っている高齢世帯の比率が高いと、その地域の生活水準を過小評価する可能性もある。

格差の指標としては、所得以外に鉱工業生産指数なども使われるが、サービス産業など製造業以外を考慮していないという欠点がある。ここでは、生活面から比較するという趣旨から、雇用の代表的な指標である有効求人倍率(月次指数の年平均)で見ることにしよう。

下位の固定化が問題

2007年の有効求人倍率(年平均値)を都道府県別に比較すると、製造業が好調だった愛知県がトップで1.95、最下位は沖縄県で0.22である。10年前の1997年は福井県、20年前の1987年は栃木県がトップとなっており、その時々で変化している。また、都市と地方の格差に関して、東京は上位5位に全く顔を出しておらず、神奈川、埼玉、千葉といった首都圏に含まれる県の水準が高いという事実もない。更に、上位5位は常に入れ替わっており、ここ30年間で5位以内をキープした都道府県は皆無である。

ただ、下位は固定化している。10年前、20年前とも、沖縄県、青森県、高知県が下位から並ぶ。格差以上に、雇用が低迷する県の産業構造の問題とみることもできる。

では、格差はどう推移しているだろうか。有効求人倍率が上位5位の都道府県の平均が下位から5番目までの平均の何倍になっているかを計算すると、2007年は3.3倍、1997年は3.0倍、1987年は4.8倍、1977年は5.9倍である。2007年は10年前に比べれば若干差が大きいものの、それ以前と比較すると、むしろ都道府県間の格差は縮まっている。

格差は90年代半ばの水準

都道府県間格差の実態をもう少しきちんと長期的に見るために、1977年以降の有効求人倍率に関する変動係数を月次で計測し、時系列で辿ったのが下図である。通常、ばらつきを表すには分散や標準偏差が使われることが多いが、変動係数は標準偏差を平均値で割ることによって求められ、単位への依存を回避している(1))

下図によると、2002年以降は都道府県間のばらつき(格差)が大きくなっている様子が確認される。しかし、格差の程度は1996~1998年の水準にあり、それ以前と比較すれば地域間格差はむしろ縮小している。1980年代半ば以降、地域間格差は縮小するプロセスにあり、2002年にそのトレンドが反転したことが確認される。また、2005年以降はほぼ横ばいであり、格差拡大の動きは見られない。

格差に関する議論は単純ではない。メディアでは、現状レベルを正確に捉えるような試みは少ないように思われる。むしろ短期的に「拡大したか、縮小したか」という動きが問題視されることが多い。しかし、長期的なトレンドを把握しておくことも必要である。少なくとも、数値に基づく多面的な検証結果に基づいた議論が求められる。センセーショナルな事例を取り上げたり、「格差社会」をお題目のように繰り返す報道メディアを疑ってみることも、時には必要であろう。

1) 
例えば、あるグループの世帯年収を円単位で計測したときと、万円単位で計測したときを比較すると、前者は後者に対して標準偏差で1万倍、分散で1億倍になる。これに対して、変動係数は計測単位に拠らず不変である。

全文はPDFファイルをご参照ください。

PDF 雇用指標から見る地域間格差 [189 KB]