グローバルへのカルチャー・チェンジ
富士通株式会社 代表取締役社長
野副 州旦
2009年1月
本文
リーマン・フラザーズの破綻やAIGの経営危機説をきっかけに、世界の金融経済の暴力的とも言える縮小は、あっと言う間に世界に拡がっている。比較的、サブプライムローン問題の被害が少ないと言われた日本の金融機関も、世界的な株価の暴落によって生じた様々な影響で苦境に立たされている。ことほど左様に、経済の世界はグローバル、世界が1つになっていることを実感する。こういうことを考えると、欧米はグローバルで日本はグローバルでないという対立的な議論は少し違うような気がする。グローバルというのは、ある意味で、地域を離れて、もう一段高い視点で、世界を観るということだろう。つまり、グローバルに見れば、米国も、英国も、日本も、ドイツも、1つの市場ではあるが、その関連を観て、物事を考えることが非常に重要になるのだろう。
私が社長になって、最初にやったのは、富士通の海外ビジネスの体制を変えたことだ。それまで、地域別体制を敷いていたものを一本化した。そして富士通の上席常務で、英国の富士通サービシーズ(FS)の会長をやっているリチャード・クリストウに見てもらうようにした。そうはいっても、彼が、当社の海外を含めたビジネスの全部を理解しているわけでもないから、私と2人の副社長を入れたステアリング・コミッティを彼の上に置いた。
もちろん、英国人だからグローバルだという短絡的な発想ではない。英語ができるということは重要なことだが、私は、富士通の、日本中心という見方を変えるカルチャー・チェンジに意味があると考えている。
英国でビジネスをやっている彼から見ると、日本も巨大な市場であるが、1つの市場にしか見えないのだろう。これは、我々にとっては、重要なカルチャー・チェンジであると思う。日本にいる富士通のメンバーは、日本中心で、日本は特別だという見方が根底にあるように思える。もちろん、これは当社の海外売上比率が30%強しかなく、収益も日本が中心という事業構造に起因する見方であろうとも思える。
今、彼は世界中の拠点を廻っているが、我々がAPACと呼んでいるアジア、豪州も彼の目からみると、例えばフィリピン市場は、ほとんど米国市場に見えるようだ。あるいは豪州市場は、英国市場に重なって見えるらしい。彼から見ると、APACという括り自体が不自然に見える。これは、我々に見えていなかった視点だと思う。彼のそういうスタンスは、我々からすると新鮮なものであった。
そして、彼は、もともと法律畑であったこともあって、非常に論理的で、情緒や、「まあ適当に」といった曖昧さは通じない。これは、やはり、1つのグローバルということなのだろう。つまり、どこでも通用するのは、論理的な説得力であり、0か1かで考えるシンプルさなのかもしれない。そして結論を急ぐ。だから、ステアリング・コミッティも、報告や検討の場ではなく、結論を出す場にした。私も、彼と話をするのは、相当に疲れる。こちらも論理的に対抗しないといけない。しかし、我々がグローバルになるためには、そういった訓練をもっと積まなければならないのだろう。そのためには、富士通も、もっと海外のマネジメントの人材を国内に入れていく必要性を強く感じている。
もちろん、英語の力も大きいのだろう。英語は少なくともビジネスの世界では、グローバルスタンダードである。ドイツのシーメンス社は、もう20年くらい前から社内では英語が公用語だと聞いた覚えがある。ただ、私は、英語よりもっと公用語に相応しい言語があると思っている。それは数字だ。それは少なくともビジネスの世界では、一番わかりやすい世界共通の意思疎通の手段だろう。だから、その数字のもつ意思というのを考え、表現し、使っていく訓練をしていかなければならない。例えば、ある社内の拡販会議で、数字の0に、マイナスを示す「▲」がつけてあった。これは、もう気持ちで負けている。「▲0」と「+0」では大きく違う。あるいは、「もっとこの分野には力を入れていきます」といっても、例えば投資金額がマイナスでは、何の説得力もないだろう。グローバルを考えると「数字は意思を語る」ということをもっと大切にしていくことが必要だと思う。
少し余談になるが、ある銀行の幹部の方とお話ししていたとき、その方が「海外にIRに行くと、皆元気で明るい。それに比べ日本人は暗い」と言われた。その時、私は、「何かの文献で読んだのですが、外国の人は、ベースとして、今日がベストなんだという考え方が強いんだ、と。今がベストなのに、そんな暗い顔しちゃもったいない、そういう発想の違いがあるように思います」と申し上げた。一方で、日本ではトヨタ生産方式の生みの親である大野さんの言葉に「今日が一番悪いと思え。だから、今日よりも少しでも良くしようと考えろ」というのがあり、どちらが良いかは別にして、こういう彼我の違いも意識しなければならないとも思う。
もちろん、だからといって欧米が優れていて日本が劣っているという論調には与しない。劣っていれば、何の資源もない、この小さな国が、世界の経済大国と呼ばれるようになれたはずがない。これは、グローバル化ができていない富士通特有の問題でしかないのかもしれない。
富士通は、昨年11月4日、シーメンス社と合弁でやってきた富士通シーメンスコンピュータ(FSC)の、シーメンス側が保有する全株式を取得し、今年4月に完全子会社化すると発表した。その際、私は「FSCの完全子会社は、富士通が追求するテクノロジーに支えられた“サービスとプロダクトの両輪”でのビジネスをグローバルに展開する扉を開くものである」と決意を申し上げた。グローバルの扉を開いたいま、これを成功させるためには、事業としてどう変革をしていくかという大きな命題はあるが、我々富士通の日本人メンバーも大きなカルチャー・チェンジをする必要があると思っている。
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PDF グローバルへのカルチャー・チェンジ [198 KB]
