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富士通総研

Japan

低炭素社会の設計図
~洞爺湖サミットに向けて~
-特別企画コンファレンス-

概要

富士通総研は、2008年6月16日月曜日、経団連会館において、特別企画コンファレンス『低炭素社会の設計図 ~洞爺湖サミットに向けて~』を開催し、多くの方々にご参加いただいた。ご来場いただいた皆様にはあらためて感謝する次第である。

要旨

コンファレンスでは、まず、大阪大学の西條教授から「気候変動対策の制度設計」という題による基調講演が行われた。西條辰義氏は、2100年までの温室効果ガス排出シナリオから、気候変動対策が人類始まって以来の難問であることを示し、その解決のためには、正攻法で対応するしかないと述べた。京都議定書を遵守する制度設計については、同議定書が排出総量を固定して価格で調整する仕組みという特色を持つのに対して、日本はこれまで、規制と自主行動という「価格をつけない」政策をとってきたことを問題視し、排出権取引の仕組みを解説しながら、「価格をつける」制度の意義を示した。国内の制度設計には、単純、透明、公平、効率に加えて、日本の特色、という視点が必要であるとして、排出権を普通の生産要素とみなして、政府が化石燃料の輸入主体に排出権を販売する上流還元型排出権取引制度(オークションによる取引制度)の導入を提案した。また、ポスト京都の制度設計については、削減率ではなく排出総量に責任をとる仕組みが必要であるとし、日本が提案するセクター別アプローチは、排出総量の考えと再分配機能がないためにポスト京都の戦略にならないと評した。更に、世界の排出総量分の排出権を各国に排出した分を購入させる仕組み、あるいは排出総量分の排出権を世界の人口で割って、1人当たり同じ排出枠を与える仕組みの方が、京都議定書の枠組みよりGDPへの影響が軽微であるという分析結果も紹介した。

続いて第一部の研究報告では、最初に、国際公共政策研究センターの濱崎博主任研究員が「低炭素技術の研究開発及び普及施策の戦略的検討」について報告を行った。現在の国際的な枠組みの議論は、先進国への数値目標の設定が論点になっているが、途上国での削減なしでは気候安定化には不十分であることを示した。そして、この状況下での排出量取引の導入はカーボン・リーケージを生じさせるため、国境税調整などの対策が必要となり、先進国に過大な経済負担を強いると指摘した。削減目標達成には、技術面での対応が重要であるが、中国・インド等の途上国への技術移転よりも、新規の革新的技術開発と普及が必要であるとした。また、排出量取引は「市場プル」メカニズムであるため、市場に近い技術には有効であるが、基礎的R&D活動の活性化には不十分であると指摘した。第二世代バイオエタノールの例を示しながら、日本の政策について、基礎研究から市場導入まで一体化した技術戦略策定が急務であることを強調した。

つぎに、当社の主任研究員 梶山恵司が「吸収源対策から資源ビジネスとしての森林経営へ」と題する報告を行った。梶山主任研究員は、欧州では知識集約・技術集約型の森林経営によって、森林の環境機能の高度化を実現しているのに対して、日本では「吸収源対策」として750億円を労働集約型の森林整備に追加投入していることが、木材利用を伴う森林経営への移行を阻害しており、気候変動対策とビジネスが共倒れする恐れがあると指摘した。日本にとっては、世界的な木材需要の高まりと戦後に植林した国内資源が成熟期を迎える今こそが、森林資源利用による低炭素社会実現の最初で最後のチャンスであると述べた。環境対策とビジネスが両立する森林経営実現への道筋をつけるために、まず所有者をとりまとめ、路網を構築し、間伐を実施しなければならず、森林組合による施業集約化と民間による機械作業といった役割分担・連携を図ることを提言した。更に、そのためには、従来の森林整備から森林経営の用途に、予算をシフトすべきであると述べた。

研究報告の最後は、同じく当社の主任研究員 生田孝史が、「民生部門対策のためのグリーンIT普及支援の枠組み」について報告した。京都議定書の目標達成という観点からは、温室効果ガス排出量の増加が著しいオフィス・店舗や家庭などの民生部門の対策が日本にとって喫緊の課題となっており、対策が十分に進まなければ、他部門の対策強化や海外からの排出クレジット取得に頼らざるを得なくなることを指摘した。民生部門対策を推進するために、IT機器自身の省エネとITの活用によるCO2排出削減(グリーンIT)と、個人レベルの排出削減行動を促す経済的インセンティブによる対策試案を提示した。具体的には、排出量把握のための測定機器の普及を前提条件とした上で、排出削減クレジットの買い上げとエネルギー超過課金等によるインセンティブの試案を比較し、試案の組み合わせやカーボンオフセット市場へのアクセスなどの制度設計によって、数百億円と想定される対策費用の削減も可能であることを示した。更に、国内カーボンオフセット市場を整備することで、海外に流出するクレジット取得資金を国内の民生部門対策に有効活用できるとした。

第二部のパネルディスカッションでは、まず、株式会社三菱東京UFJ銀行の斉藤氏、横浜市の吉田氏、富士通株式会社の朽網氏のそれぞれより、事業を通じて低炭素社会への移行を支援する取り組みについて、事例紹介を行った。斉藤隆司氏は、昨年3月から地球環境問題への対応を三菱UFJフィナンシャルグループのCSR重点領域と位置づけていることを述べた上で、(1)清算・決済代行やドキュメンテーション等の排出量取引関連の市場サポート、(2)プロジェクトファイナンス基準や、環境融資・排出権付帯商品、SRIファンドなどの環境配慮型金融サービス、(3)環境金融に関する国際的枠組みへの参加を通じて、金融機関として低炭素社会への移行を支援する取り組みを紹介した。続いて吉田肇氏は、大都市の環境行政担当者という立場から、今年1月に横浜市が策定した脱温暖化行動方針を中心に今後の取り組みを紹介した。2025年度までに1人当たりのCO2排出量を30%以上削減するという意欲的な目標に基づくこの行動方針は、生活、ビジネス、建物、交通などの7分野において、市民・事業者等との協働による行動を開始し、横浜型の脱温暖化の方法・取り組みとして定着を図り、最終的には脱温暖化行動を横浜の文化「横浜スタイル」として、全国・世界に発信することを目指している。そして朽網道徳氏は、IT企業自身の環境負荷低減を1とすると、ITインフラ自身の環境負荷低減効果が10、ITによる社会全体の負荷低減が100になるという例示から、低炭素社会の実現に向けたIT企業の役割は極めて大きいことを述べた。そして、富士通グループが「Green Policy Innovation」の推進により、ITインフラとITソリューションの双方の取り組みから、2007年度からの4年間で累計700万トンのCO2削減を図り、社会全体の環境負荷低減に貢献することを目指す姿勢を紹介した。

パネリストによるディスカッションでは、基調講演、研究報告及びパネリストの事例紹介で十分に紹介できなかった点を含めて、国際的な枠組みのあり方、目標設定や排出量取引などの国内制度設計のあり方、欧米企業の取り組みとその背景、大都市と地方の関係など、多様な論点について議論を行った。例えば、国際的な枠組みについては、今後、中国・インドを取り込むためのインセンティブを与える仕組みが必要であり、例えば10年後にどのような社会であるべきか選択肢を示すことが重要という考えが提示された。また、一度設備更新をすると50年間はその設備が稼働することになるため、どのような設備に更新するかということが、特にアジアでの環境問題を考える際に重要課題になるという意見も出た。国内制度設計においても、ライフスタイルの変革を促すための方策を真剣に考えなければならないという点では意見が一致し、人材を育てていくことの重要性も指摘された。

本コンファレンスは、7月に洞爺湖で開催されたG8サミットを目前に控え、福田首相が低炭素社会づくりの施策の方向性・ビジョンを示した直後のタイミングで開催された。今回紹介された事例報告や政策提案の多くは、施策やビジネスの具体的な成果を示すというよりも試行錯誤の現状を示すものであった。しかしながら、これらの試行錯誤こそが、我が国にとって経験の蓄積という点で重要であるし、制度設計の提案についても、今後具体化していくための課題を示すことが重要であるということを共通認識とすることができ、参加者から十分な評価を得たコンファレンスとして成功裡に終えることができた。

13時~13時10分 開会挨拶
富士通総研 代表取締役会長 高島 章
基調講演
13時10分~13時50分 気候変動対策の制度設計
大阪大学社会経済研究所 教授 西條 辰義 氏
第一部 研究報告
13時50分~14時15分 低炭素技術の研究開発及び普及施策の戦略的検討
国際公共政策研究センター 主任研究員 濱崎 博 氏
14時15分~14時40分 吸収源対策から資源ビジネスとしての森林経営へ
主任研究員 梶山 恵司
14時40分~15時5分 民生部門対策のためのグリーンIT普及支援の枠組み
主任研究員 生田 孝史
15時5分~15時25分 休  憩
第二部 パネルディスカッション
15時25分~16時55分 低炭素社会への移行を支援する仕組み
【パネリスト】 大阪大学社会経済研究所 教授 西條 辰義 氏
三菱東京UFJ銀行 リテール業務部長 斉藤 隆司 氏
横浜市 地球温暖化対策事業本部 地球温暖化対策課担当課長 吉田 肇 氏
国際公共政策研究センター 主任研究員 濱崎 博 氏
富士通株式会社 環境本部 環境企画統括部長 朽網 道徳 氏
主任研究員 梶山 恵司
【コーディネーター】 主任研究員 生田 孝史
16時55分~17時 閉会挨拶
富士通総研 専務取締役 根津 利三郎

全文はPDFファイルをご参照ください。

PDF 低炭素社会の設計図
~洞爺湖サミットに向けて~
-特別企画コンファレンス-
[198KB]