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差別化を支える仕組とその維持・強化・変革のシステム

富士通総研経済研究所研究顧問(早稲田大学教授)
根来 龍之

2008年10月

事業の持続的差別化の源泉は、他社が模倣困難な仕組である。成功している企業においては、投資と事業活動そのものが、仕組を強化していく。しかし、環境、顧客ニーズ、ライバルの対抗戦略の変化は、どのような企業においても、やがて仕組の変化も要請する。

仕組が差別化につながるメカニズムは「差別化システム」として分析できる。差別化システムは、ある時点での事業の差別化実現の構造を分析したものである。そして、差別化システムの維持・強化と革新は、仕組の維持・強化や革新を対象とするメタシステムとして分析できる。

差別化システム

資源ベース戦略論は、持続的競争優位の源泉を「経営資源(能力を含む)」に求める。ライバルや潜在的新規参入者が「模倣困難」な資源を持つことが持続的競争優位の要件とされる。当然ながら、その資源は、製品・サービス提供と市場競争において「価値」あるものであることが同時に必要である。

資源にはさまざまなものがある。設備、特許、ブランド、取引相手からの信頼などの「資産」が、まず資源の中身になる。また、技術力やマーケティング力などの「能力」や生産現場の運営ノウハウや営業ノウハウなどの「スキル」も資源の一種である。情報システムも「資産」となる。資源の本質は、調達や蓄積が可能なストックであることと、経営者がその活用を裁量的に行うことができることにある。ストックできないことや、他社と完全に共有する資源は、差別化の源泉となる資源ではない。ただし、ここで「裁量的」というのは、完全にコントロールできるということではない。例えば、自社がメインユーザーとなっている継続的取引関係があるサプライヤーは資源ではあるが、100%子会社でないかぎり、完全なコントロール下にあるわけではない。熱狂的なユーザーの存在も同種の性質を持つ。

ここで一つ疑問がある。同じ資源を持つ企業は、同じ差別化を実現できるのかどうかである。資源には上手な使い方というものがあるのではないか。また、その使い方は、日々注意深く繰り返される「活動」によって維持されているのではないか。上述したように、資源は蓄積可能な「ストック」である。それに対して、活動は繰り返すことをやめた時に消滅する「フロー」である。このように考えると、差別化は、資源だけではなく、その資源を使う「活動」によって成立していることがわかる。

上記の想定を基に事業の差別化のメカニズム(構造)を分析したものが差別化システム図(図1参照)である。差別化システム図では、顧客から見た企業の評価項目(差別化)から遡って、企業が行っていること(活動)、企業が持っているもの(資源)について、当該企業の競争力を構成する「主要項目」と相互関係が図示される。図中の項目間の矢印は目的-手段関係及び相互強化関係を意味する。こうした分析を過去や現在について行う場合は、成功モデルの説明ができる。そして、将来に向けて「あるべき」差別化システム図を策定する場合は、事業戦略作成の土台になり得る。後述するセブン-イレブンの分析は、前者の例である。

部分システムとしての「仕組」

ある差別化に、すべての資源と活動が一様に影響しているわけではない。ある差別化項目に対して影響度が強い部分システムを分離できる。これを「仕組」と呼ぶことにする。「仕組」は、「ある経営資源とある自社活動が結びついてできあがる『ビジネスシステムの部分システム』」と定義できる。ちなみに、ビジネスシステムとは、「結果として出来上がった実際の事業体の全体」のことで、ビジネスシステムから「差別化項目」を設定してそれに直接関係する部分を矛盾のない形で抽象したものが差別化システムである。その差別化システムの更に部分となっているのが、「仕組」である。

仕組を構成する経営資源や自社活動は複数でも単数でもよい。また、仕組は企業内に複数存在しえる。自社活動に自社なりの特徴がない(経営資源にだけ特徴がある)場合は、仕組の特徴は、経営資源の特徴が決定づけることになる。以下に仕組を例示する。

コカ・コーラ社における「自販機網(経営資源)と他社のヒット製品の早期模倣を躊躇しない製品開発方針(自社活動)の組み合わせ」。この仕組は、同社における流行商品の品揃え(差別化)の源泉である。

ダイソー社における「大型倉庫(経営資源)と一括発注・大ロット買取主義の購買方針(自社活動)及び価格100円主義(自社活動)の組み合わせ」。この仕組が、「これが百円」という驚きの実現(差別化)に貢献している。

吉野家における「全国店舗網(経営資源)及び長期契約の牛肉購買ルート(経営資源)と単一メニュー主義(自社活動)の組み合わせ」。この仕組が「安い、うまい」(差別化)に貢献している。

上記の例でわかるように、分析された仕組だけが該当の差別化の要因のすべてであるわけではない。あくまでも重要な要因の抽象というべきものである。言い換えれば、捨象された他の要因あるいは仕組が存在しえる。例えば、吉野家の例では、資産としての「レシピ」とそれをバラツキなく実現する「マニュアル」、そしてマニュアルを徹底する「教育」活動という別の活動の組み合わせも「安い、うまい」(差別化)に貢献する仕組である。

全文はPDFファイルをご参照ください。

PDF 差別化を支える仕組とその維持・強化・変革のシステム [367 KB]