企業の淘汰メカニズムはどのように働いているのだろうか
上級研究員 齊藤 有希子
2008年10月
企業の淘汰メカニズムについて
企業の自然淘汰機能が正常に働けば、生産性の低い企業が退出して、生産性の高い企業が生き残る。その結果、経済全体集計レベルの生産性が上昇することとなる。このような自然淘汰機能は当然成り立つものと考えられていた。
しかしながら、既存研究(Nishimura, Nakajima and Kiyota(2005))では、このような自然淘汰機能の崩壊が指摘されている。96年以降、非効率な企業が存続して、効率的企業が淘汰されるという奇妙な現象が確認されたのである。前述の研究では、市場の自然淘汰をつかさどる金融機関が、不良債権問題を通じた「追い貸し」などにより、自然淘汰機能が働かなくなった可能性が高いと結論づけている。
一方で、90年代の日本経済の停滞は、生産性の低下にあるとHayashi and Prescott(2002)により指摘されおり、企業の生産性や自然淘汰機能の崩壊に関する議論は、非常に重要な課題と考えられている。
企業の淘汰メカニズムの現状
それでは、現状(2006年時点)では、自然淘汰機能はどのように働いているのだろうか。東京商工リサーチ(TSR)のデータを用いて分析した。TSRのデータは、約80万社の企業(中小・零細企業から中堅、大企業を含む)の情報(3期分の売上高、利益金、従業員数、創業年、評点など)と退出状況(存続、倒産、解散、廃業、休業、合併など)を収録するデータである。
分析の結果、現状では、収益性(売上高利益率)の低い企業、成長性(売上高成長率)の低い企業、財務状況(評点)の悪い企業ほど、トータルの退出率(倒産、解散、廃業、休業、合併による退出の和)は高く、企業の自然淘汰機能は、収益性、成長性、財務状況のいずれの観点からも正常に働いていることが確認された。90年代後半から現在にかけて、市場の淘汰機能が変化したと考えられる。
企業の退出メカニズムの特徴
次に、企業の淘汰メカニズムが企業の規模や年齢、企業間関係(取引関係や株主関係)によってどのように異なっているかを分析する。ここで、企業の退出を以下のように分類する。前述の退出形態うち、債権者に被害を及ぼす倒産は「遅い」退出と考えられるのに対し、解散、廃業、休業(以降「解廃休」と呼ぶ)は「早期の」退出と考えられる。合併も早期の退出と見ることができるが、合併する企業をアレンジすることが必要な「高度な」退出といえよう。3つの分類から淘汰メカニズムの違いを分析する。
まず、企業規模による退出率の違いは、以下のとおりである。「解廃休」による退出率は、企業規模が小さいほど高く、合併による退出率は、企業規模が大きいほど高いことが確認された。「解廃休」と合併による退出率の和は、売上高数億円程度の企業で低くなり、U字カーブを描くが、一方で、倒産による遅い退出は山なりになっていることが分かる。早期の淘汰メカニズムが働かないと遅い退出が増えるのだと推測される。
次に、企業年齢による退出率の違いを観測すると、企業年齢が低いほどトータルの退出率は高い。また、企業退出の形態別にみると、企業年齢が低いほど合併、解散による退出、年齢10-19年で倒産による退出、年齢40-49年で廃業による退出が多いことが確認される。企業年齢によって、淘汰のメカニズムは異なっているのである。
更に、企業間関係による退出率の違いを観測すると、他企業から主要な取引先と認識されることにより、早期退出(「解廃休」)は少なくなり、その結果、「遅い」退出(倒産)が増える。一方、大株主企業を持つことにより、早期退出(「解廃休」)は多くなり、合併もアレンジされるようになることが確認される。
自然淘汰機能の強さについて
次に、企業規模、企業年齢、企業間関係による退出率の違いを、自然淘汰機能の強さの観点から確認する。ここで、自然淘汰機能の強さを収益性と成長性の2つの観点から定義する。前者は、収益性の高い企業に比べ、収益性の低い企業の退出率は、どの程度大きくなっているか、両者の差で定義する。後者は、成長性の高い企業と成長性の低い企業の差で定義する。
自然淘汰機能の強さは、企業規模、企業年齢、企業間関係によって、異なることが観測された。まず、企業規模が大きい企業ほど、収益性の観点から、早期退出による自然淘汰機能が強く働く一方で、企業規模が小さい企業では、収益性よりも成長性の観点から自然淘汰が働いていることが分かる。また、企業年齢による自然淘汰機能の強さの違いをみると、収益性の観点からは、企業年齢の低い企業ほど、早期退出による自然淘汰機能が強く働くが、成長性の観点からは、企業年齢の低い企業と企業年齢40-49年の企業において、自然淘汰機能が働いている。企業年齢40-49年の企業の退出は、事業承継に関わる退出と考えられるが、事業承継の有無は、収益性ではなく、成長性の観点から判断されると考えられる。
最後に、企業間関係による自然淘汰機能の強さの違いをみる。前述のように、他企業から主要な取引先と認識されることにより、早期の退出は少なくなるが、この傾向は、収益性や成長性の低い企業で顕著で、早期退出による自然淘汰機能は弱められているのである。企業の取引関係は自然淘汰機能を弱める観点から望ましくないが、企業が取引関係を構築するためには、一定のコストがかかると考えると、企業の退出は、取引関係の崩壊という意味で重要な意味をもつ。企業の退出により取引先に与える負の影響も考慮して、企業のネットワーク全体として捉えることも重要であろう。
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