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動き出すカーボンオフセットビジネス

主任研究員 生田 孝史

2008年10月

カーボンオフセットへの関心の高まり

昨今、温暖化対策を促す手法としてカーボンオフセットが注目を集めている。個人や企業等が、他から排出権や自然エネルギーを購入したり、他の場所で排出削減・吸収プロジェクト等を実施したりすることで、自らの排出分を埋め合わせるという考えである。

欧米を中心に、10年以上前から、カーボンオフセットの仕組みを提供するオフセットプロバイダーが出現している。その数は急速に増え、現在、全世界で100を超えている。2007年のカーボンオフセット市場規模は、3.3億ドル(約350億円)であり、前年より3倍以上に急拡大している。2010年には2兆円を超える規模になると予想される。ウェブサイトから必要な排出クレジットを気軽に購入できる仕組みが多く、温暖化問題に関心を持つ個人の自発的な需要を促している。データセンタからの排出をオフセットするカーボンニュートラルを宣言したグーグルのように、企業の自主行動による需要も無視できない。

国内でもオフセットビジネスが動き出している。07年末頃からオフセットプロバイダーが相次いでサービスを開始しており、10社近いプロバイダーが出現している。オフセット商品の開発も活発である。08年正月用のカーボンオフセット年賀状を始めとして、08年に入ってセブン&アイ・ホールディングスの排出権付きエコバック、JTBの排出権付き旅行商品、ローソンの店舗設置型情報端末からの排出権販売サービス、日産の排出権付き自動車、京急百貨店の排出権付きギフト商品、松下電工の排出権購入オプション付き省エネ電灯など、多様な商品が提案され始めている。

カーボンオフセットの功罪

カーボンオフセットの主な意義は、(1)個人や企業等が気軽に温暖化対策に貢献できる機会の拡大、(2)地球環境問題への意識の啓発、(3)より安価な排出削減手段の獲得、(4)CO2等の温室効果ガス削減の経済価値の認識、である。

国内主要プロバイダーが販売する排出クレジット価格は、CO21トンあたり約4,000~5,000円程度である。排出削減が義務付けられた欧州の排出権先物価格(9月5日現在、08年末物24.4ユーロ=約3,900円)と遜色がなく、今春から公開が始まった日経・JBIC排出量取引参考気配(9月8日現在、3,230円)と比べて割高である。

逆に言えば、割高な価格であっても購入希望者が存在するということである。それだけ国内でもオフセットビジネスへのニーズが大きいということができる。

一方、カーボンオフセットがもたらす問題点としては、(1)オフセットが実際の排出削減につながるとは限らないことや、(2)多様なプロバイダーが独自の基準でオフセット商品を提供しているために品質に対する信頼性が懸念されることが挙げられる。

カーボンオフセットで扱われるクレジットには、京都議定書で保証されたクレジット(CER)や、自主基準によるクレジット(VER)がある。VERはCERよりも信頼性が低く、価格もまちまちで、数ドル/t-CO2程度で売買されるケースもある。

また、VERは、CERのように国際的に統一された管理簿が存在しないため、CERとして取引されたものがVERとして使用されるというダブルカウントの恐れもある。

信頼性の確保のために、オフセットで使用できるクレジットをCERに限定する動きがある。例えば、英国政府が2月に公開したオフセットの自主基準では、当面、CERのみを対象としている。国内プロバイダーの取り扱いクレジットもCERである。2月に環境省が発表したカーボンオフセットのあり方についての指針においても、CERの活用が推奨されている。

CERに限定するデメリットもある。例えば、マーケットサイズが小さくなり、単価も高くなるため、市場参加者が限定される可能性がある。更に、CERは海外の排出削減事業に伴うクレジットであるため、国内の排出削減活動に資金が回らないことも挙げられる。認証機関だけが潤う構図になりかねない。特に、欧米では、京都議定書の対象以外の物質やプロジェクトによる温室効果抑制への貢献や、時間とコストを要するCDM認証を回避するために、VERを選択するというニーズもある。VERの認証機関同士で最低要件の標準化の動きも進んでいる。

カーボンオフセットビジネスの健全な成長に向けて

今後とも、オフセットビジネスに対するニーズは高まることが予想される。オフセットのためのクレジット供給とともに、その前段階として、企業・個人の排出量を「見える化」するビジネスもまた、重視されるであろう。

もちろん、カーボンオフセットは、温暖化対策の特効薬ではない。オフセットの意義と課題を十分に理解した上で、国内の排出削減活動を促す資金の流れを導くために、オフセットビジネスを柔軟に活用することが肝要である。

オフセットビジネスの健全な成長のためには、クレジットの信頼性を担保する仕組みが必要である。オフセットを温暖化対策への取り組みのきっかけ作りと考えるのであれば、その設計にあたっては、ダブルカウントの防止や情報開示等の最低限のルール作りにとどめ、基準の厳格化による市場の縮小を避けるべきである。既に英国では、VERの意義を考慮したオフセット自主基準の見直しが進められている。我が国においても、今年度中に共通ルールを策定するための作業が始まっているが、カーボンオフセットの意義を確認した上で、慎重にルール作りを図るべきである。

全文はPDFファイルをご参照ください。

PDF 動き出すカーボンオフセットビジネス [191 KB]