産業連関表から見た省エネルギー社会の姿
-原油高を契機に考える産業・生活のインフラ整備のあり方-
研究員 河野 敏鑑
2008年10月
原材料価格の高騰が生活に大きな影響を与えている。今年度の通商白書で指摘されているように、商品先物市場に投機資金が流入した影響は決して無視できず、実需以外の要因で、価格が高騰している側面もあることは否定できない。しかし、資源を浪費する形で、持続的な経済成長を達成することは難しく、むしろ、原材料価格の高騰に動じない、省エネルギー社会を作り上げることが求められよう。そこで、今回、原油価格の高騰に着目し、産業連関表を用いて、原油高の影響を受けにくい社会の姿、更には、インフラ整備について考察を加えた。具体的には、平成12年産業連関表(統合中分類・104部門表)を更に独自に50部門に統合して分析を行った。分析に際しては、化学製品や運輸といった分野はより詳細に、サービス業は統合する形で、産業連関表を作成し、分析を行った。
「石油製品」の値上がりの影響
わが国で原油高騰の影響は、原油を精製したガソリンや重油といった燃料油などの「石油製品」の値上がりを通じて表れると考えられる。そこで、「石油製品」の値上がりがどのような影響を与えるのかを分析した。大きな影響を受ける部門としては、有機化学基礎製品、自家輸送、有機化学製品、合成樹脂、石炭製品、非金属鉱物、航空輸送、水運、道路輸送などが挙げられる。
注目すべき点は、同じ、「化学製品」、「運輸」であっても、その影響にはかなりの違いがあることだ。化学製品においては、無機化学物質(苛性ソーダ、塩など)よりは、有機化学物質(合成アルコール、合成ゴム、エチレン、ベンゼンなど)の方が大きな影響を受けるのは当然だが、加えて、いわゆる上流工程の方が下流工程よりも大きな影響を受けている。また、医薬品などに与える影響は極めて限られている。
更に、運輸部門においては、鉄道部門がほとんど影響を受けていないのに比べて、他の交通手段は大きな影響を受けている。もともと、鉄道はエネルギー効率が高い上に、主要幹線のほとんどで電力を動力源としているためである。
電力部門は運輸部門に比べて影響が小さい。電力が石油製品の高騰の影響を受けづらいのは、発電量に占める石油の比率をここ20年ほどで大幅に低下させてきたことにある。1980年には、発電量の約半分が石油製品由来であったが、原子力発電の導入促進や、火力発電において石炭や天然ガスへの切り替えが進んだことによって、2005年には、石油への依存度は11%ほどまで低下しており、近い将来には、10%を下回ると考えられている。
ただし、原油価格の高騰が持続した場合、やがて、石炭や天然ガスの需要の増加というルートを通じて、石炭や天然ガス価格の更なる上昇を引き起こす可能性が高い。原子力発電という存在があるものの、長期的に見て電力部門に対して影響が生じる可能性はあろう。
予想される産業・生活への影響
以上の分析結果を踏まえると、原油高は産業部門のうち、物流に大きな影響を与えると考えられる。ITによる物流コストの最小化、アウトソーシングによる効率化が個々の企業の対応策としてあるが、社会的には、二酸化炭素排出量の削減という観点からも、物流の鉄道輸送へのシフトを推進する必要があろう。
我々の生活に最も直接的な影響を与えるのは、物流コストの上昇やガソリンが主たるエネルギー源の自家用車などの移動コストの上昇である。しかし、その影響には、大きな地域差があると考えられる。首都圏など、鉄道網が稠密な地域では、自家用車を使用しない生活を送ることが容易であり、結果として、消費者が経済的に大きな影響を受けるとは考えにくい。しかし、自家用車以外に代替交通手段が容易には見つからない地域では深刻な影響が発生すると考えられる。
こうした地域における原油高への対応策としては、1.ハイブリッドカーや電気自動車などの導入、2.LRT(次世代型路面電車)などの公共交通機関の整備、3.富山・青森で見られるようなコンパクトシティ化、などが挙げられる。
対応策を実行するために
以上で挙げたような対応策を実行するには、社会全体として、インフラ整備のあり方を見直す必要がある。電気自動車・燃料電池車は技術的には可能であるが、エネルギーを供給するインフラが不十分である。既存のガソリンスタンドをどのように活用するのかを含めて、解決策を検討する必要がある。
物流を鉄道輸送にシフトするにしても、既に山陽本線など一部の線区では鉄道貨物輸送が輸送力の限界に達している。輸送力の増強、ターミナルの整備をどのように行っていくのかが、喫緊の課題となる。
公共交通機関の整備やコンパクトシティ化にあたっては、道路に依存しない街づくりを行う必要がある。これらには、高齢化社会への対応策という側面もあるが、環境・エネルギー面からも重要と考えられる。これまでの公共投資は、道路という形でのインフラ整備に傾斜していたが、他の輸送手段との連携の強化や、エネルギーの供給施設などのインフラ整備にも目を向けていくことが重要であろう。
以上のようなインフラ整備は、原油高が持続すれば、今後、大きく進展するものと思われる。たとえ、原油高が一時的なものに終わったとしても、省エネルギー社会の実現という政策課題への対応として必要であることに変わりはない。むしろ、原油高を、新たなインフラ整備、新たな産業構造を実現する契機として利用するしたたかさが必要なのではないだろうか。
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