ねじれ国会をどう打開していくのか
-先送りを起こさないために-
研究員 河野 敏鑑
2008年7月
ねじれ国会をどうみるか
与野党の対立で、日銀人事や税制法案について政策決定が期限を過ぎても行えない状態に至った。期限が来ることは以前からわかっていたことで、期限までに人事や政策が決まらなければ、与野党とも国民の信頼を失うはずである。しかしながら、相手が譲歩してくれるのなら、自分は譲歩せず自分の政策を押し通した方が政治的な得点は高くなるはずである。逆に、相手が譲歩しないのなら、自分は譲歩した方が国民の信頼を失わない分、政治的な得点は高くなると思われる。
ゲーム理論では、このようなゲームをチキンゲームと呼んでいる。チキンゲームは有名な囚人のジレンマと同様、コーディネーションの失敗が、非効率な状態を生み出すゲームである。
ねじれ現象の事例と問題点
政治の場でチキンゲームが生じることは珍しいことではない。二院制の下では、両院の多数派が異なる可能性は十分に高いことはいうまでもないが、仮に一院制であったとしても、どの政党も過半数を獲得できず、政策決定の過程でチキンゲームが生じる可能性がある。また、行政機関のトップ(知事や大統領)が住民や国民の直接投票によって選出される場合、議会の多数派と知事や大統領の党派が一致するとは限らない。
実際、諸外国では、連立政権で与党同士が異なった政策を主張して、政権が危機に陥ることは珍しくない。また、アメリカやフランスでは、議会の多数派と政府のトップの党派が異なることはまれではなく、予算や人事、外交に影響が出たことは過去にもあった。更に、日本においても、長野県や滋賀県などで、議会と知事が対立する現象が生じたことは記憶に新しい。
こうした権力(特に拒否権)をもつ者同士の対立は意思決定の遅れにつながりやすいとされ、財政政策の先送り(財政支出・財政赤字の拡大)が生じやすいことは、Alesina and Drazen(1991)によっても指摘されている。また、比例代表制の議会では連立政権になりがちで、小選挙区制の議会では単独政権が生まれやすいが、前者の方が与党同士の抗争がある分、財政赤字が拡大しやすいとの研究もある。他にも、アメリカでは、州議会の多数派と州知事の党派が異なると、財政赤字が発生しやすいとの実証研究もある。また、日本での事例として、1990年代の不良債権問題は、債権者間の利害対立に政治勢力の対立が相まって、処理が遅れたとの指摘もある。
先送りを繰り返さないために
さて、以上のような先送りを防ぐためには、どのようにすればよいのであろうか。
解決策への手がかりを一つ示すと、どのような場合には、誰が譲歩するのかについて、ルールとまでいかなくても慣習が存在している場合は、問題の解決が容易であることを指摘したい。渋滞している高速道路のファスナー合流や、関東と関西では異なるが、エスカレーターで急いでいる人のためにどちら側を空けるのかといった慣習も、トラブルを防ぎ、問題を早期に解決するために重要な貢献をしている。
また、フランスでは、大統領と首相の党派が異なる保革共存(コアビタシオン)が第五共和制の下で3回起きているが、大統領が主に軍事・外交を担当し、首相が主に内政を担当するという慣習によって問題解決の長期化を防いでいる。
逆に、こうした慣習が存在しないと問題解決が遅れる。日本においても北欧においても、不良債権問題は金融の自由化が進む移行期で生じた。金融の自由化は、良くも悪くもこれまでの慣習を壊す側面があり、新たなルールや慣習が成立するまでの間は、不良債権問題が生じやすい。また、現在生じているサブプライムローン問題も、証券化された金融商品について、問題解決に関する慣習やルールが不十分なことが、問題を長引かせる可能性があろう。
ねじれ国会によって、国政の問題点が明らかになるのは歓迎すべきことである。その一方で、問題解決が長期化し、決めるべき期限を過ぎても物事が決まらないのは大変問題である。過去にも衆議院と参議院の間でねじれが生じたことはあったが、戦後の日本政治の中では例外的で、慣習やルールが必ずしも対応していない事態である。しかし、是非はともかく、二院制を採用している以上、両院が対立することは今後も十分に考えられうる。対立をどのようにして克服し、議論を通じて昇華していくのか、与野党を超えて新たな事態に対応する、新たな慣習やルールを作り上げていくことが、今、政治家に求められているのではないだろうか。
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