国力の計算式
衆議院議員
小池 百合子
2008年7月
本文
1973年10月6日、エジプト軍による奇襲作戦により、第四次中東戦争が勃発した。アラブとの関係を重要視し、71年からカイロに留学中だった私は、初めて経験する戦時下での生活に緊張を覚えた。戦争前には1バレル2~3ドルだった原油価格が一気に4倍に跳ね上がったことで起こった石油ショックに右往左往する様を、私は震源地の中東から眺めていた。
79年にはイランでの革命をきっかけに第二次石油ショックが起こったが、30ドル台に乗せる原油価格の高騰はその後、省エネ技術のイノベーションにつながった。現在、ハイブリッド車に代表される日本経済のけん引役は、当時のショックの果実に他ならない。
今年の5月下旬、シナイ半島の保養地、シャルム・エッシェイクで開かれたダボス会議に、私は共同議長として出席した。中東諸国からのリーダーたちは、原油価格高騰による富の蓄積を享受しつつも、SWFは持続可能な世界作りに生かすべきと発言したり、ポスト京都ならぬ、ポスト石油の中東社会のあり方を議論し、またバイオ燃料ブームと食糧問題との連鎖についてOPECで協議すべしとの声が上がるなど、野心的な会議であった。
世界は今、ガラガラと音を立てながら激動している。
与野党のにらみ合いが続く日本国内の政治情勢とはまったく異なる別世界が広がっていることを認識しなければいけない。
ところで、国力の計算式なるものがある。
国力=(人口+経済力+防衛力)×(戦略+意志)
ジョージタウン大学のクライン教授が編み出したものだそうだ。
人口については、日本は既に減少社会に突入した。経済力は世界第二位の経済力を維持できるかが問われ、防衛力は量より質の向上が欠かせない。
よって、計算式の前半は、右上がりというよりも、水平状態という認識となる。
問題は後半の戦略である。現状維持ならば×1であり、戦略とはいえない。戦略がなければ×0、すなわち国力はゼロとなる。倍の戦略なら、人口減少分をなんとかカバーできるかもしれない。5倍の戦略なら、存在感を示せる。10倍ならば、世界をリードできる。
戦略を描くには、まず日本を取り巻く「不都合な真実」と「好都合なチャンス」を分析し、自覚し、「不都合」をプラスに変え、「好都合」を更に伸ばすようにすることにつきると、私は考えている。
「不都合な真実」は、減少する人口と資源に恵まれないこと、地震の多発や、女性パワーの活用が下手なことも加えておこう。
一方、「好都合なチャンス」だが、実は「不都合な真実」をそのままひっくり返せば「好都合なチャンス」に生まれ変わる。資源に恵まれた産油国で省エネ技術の開発は行われにくいが、資源に恵まれないからこそ編み出された日本の省エネ技術を産油国に移転することができる。水や大気の汚染を除去する日本の技術も、高度成長時代の経験を経て、世界有数の環境力へと育っている。
更に1,500兆円に上る個人資産、金融力がある。ただし、タンス預金に回るなど、運用は下手だ。エコファンドなどのSRI(社会的責任投資)を刺激し、新しいカネの流れを構築すれば、大きな力になるだろう。
環境力と金融力のセットは日本の力だ。日本の国力の源泉となる。
ワーク・ライフ・バランスを考えた女性の活用が進めば、子育てしながらの就労継続を実現することもできる。結婚や出産で慣れ親しんだ職場を離れねばならないならば、それはパニッシュメントに他ならない。女性の活用は国際競争力を殺ぐという発想は、結局、少子化を進め、社会的コストが嵩むだけである。
リタイヤする団塊の世代の活用も、社会的エネルギーを高め、働き蜂であり続けることしか知らなかった世代の健康維持につながり、医療費を抑制する作用も出るだろう。何よりも健全、健康な社会作りができる。
つまり、日本の「不都合な真実」は「好都合なチャンス」に他ならず、日本はダメだ、Japan passingだのJapan nothingだのとうつむいているヒマなどないのだ。
140ドルをうかがう油価や温室効果ガスの70%削減、いや80%だとかまびすしい地球温暖化対策競争は、すなわち「もう石油は使いませんよ」との意思の確認と戦略の競い合いに他ならない。食糧需給の混乱で、世界の農業政策も減反政策の転換など根底から見直す動きである。現状からの対策を積み上げているようでは到底間に合わない。
道元禅師は言う。
「考えられないことを、考えよ。」
日本のギアチェンジが求められている。
全文はPDFファイルをご参照ください。
PDF 国力の計算式 [205 KB]
