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Netsuiteの新規株式公開とSaaSビジネスの本質

富士通総研経済研究所 客員研究員 (サイバー大学IT総合学部 教授) 前川 徹

2008年4月

NetsuiteのIPOとその財務データ

米国のSaaS企業Netsuiteは2007年12月20日、新規株式公開(IPO)を行った。ニューヨーク証券取引所に売りに出された株式は620万株、1株当たりの売り出し価格は26ドル、IPOによる調達額は1億6,120万ドルの予定であったが、12月26日のNetsuiteの発表によれば、実際の調達額は1億8,540万ドルであった。

Netsuiteが上場にあたって証券取引委員会に提出した財務データを見ると、2006会計年度(期末は2006年12月末)の売上高は6,720万ドル、純損失が3,570万ドルである。また、直近の3四半期(2007年1月~9月)の売上高は7,680万ドル、純損失が2,060万ドルとなっている。

しかし、財務データを詳細に見ると、売上総利益率(粗利率)が非常に高いことがわかる。2006会計年度の粗利率は65.8%であり、直近の3四半期は68.5%である。この粗利率の高さは、パッケージソフトを開発・販売している企業に匹敵する(ちなみに、Microsoft、Oracle、SAPの直近の会計年度の粗利率は、それぞれ79.1%、76.7%、66.2%である)。

これだけ粗利率が高いにもかかわらず、純損失を計上している最大の理由は、販売とマーケティングのためのコストにある。「Sales and Marketing」に計上されているコストを見ると、2006会計年度では売上高の65.3%であり、ほぼ粗利のすべてを食いつぶしている。また、直近の3四半期でみても売上高の54.6%が販売とマーケティングに投じられている。

実は、2004年にニューヨーク証券取引所に上場したSalesforce.comも同じような財務構造をしている。例えば、2007会計年度(期末は2007年1月末)を見ると、粗利率は76.1%であるのに、売上高純利益率は0.1%しかなく、販売とマーケティングに売上高の50.1%を投じている。

SaaSの本質

SaaSは、従来ソフトウェアが提供していた機能を、インターネットを通じてサービスとして提供(販売)する仕組みであり、コンセプトとしては2000年頃に一時的にブームになったASP(Application Service Provider)と変わらない。

しかし、NetsuiteやSalesforce.comなどが提供するSaaSには「マルチテナント方式」であるという特徴がある。マルチテナント方式とは、1つのソフトウェア・バージョンで複数の利用企業にサービスを提供する仕組みで、このためにはソースコードを改変することなく、利用企業のニーズに応じてカスタマイズできるような仕組みを備えていなければならない。

シングルテナント方式の場合には、利用企業ごとに異なるソフトウェア・バージョンを管理しなければならないため、利用企業が増えればそれだけ管理コストも増大する。しかし、マルチテナント方式の場合には、利用企業が増えても、管理コストはそれほど増大しない。

つまり、マルチテナント方式のSaaSは、パッケージソフトと同様に「規模の経済」が大きく働くビジネスなのである。パッケージソフトの場合には、ソフトウェアの設計・開発のプロセスで規模の経済が働くのだが、SaaSの場合には、設計・開発のプロセスに加えて保守・運用のプロセスでも規模の経済が働く。

したがって、SaaSは、パッケージソフトと同様に、利用企業が増えれば、利益が増大するだけでなく、「利益率」が上昇する。NetsuiteやSalesforce.comの粗利率が高い理由はここにある。

全文はPDFファイルをご参照ください。

PDF Netsuiteの新規株式公開とSaaSビジネスの本質 [144 KB]