新たな社会構築のための制度やビジネスの変革に向けて
-第22回 富士通総研経済研究フォーラム-
概要
富士通総研経済研究所では、2007年12月11日火曜日、経団連会館において第22回フォーラム「新たな社会構築のための制度やビジネスの変革に向けて」を開催し、5つのテーマによる研究報告を行った。研究発表に対する会場からの質問、コメントも活発であり、極めて盛況のうちに幕を閉じた。
まず客員研究員 木下が「自治体の総合窓口化を促進する具体的方法」というテーマで発表した。自治体の総合窓口化を促進する具体的方法として、複数の手続きを1ヵ所で済ますことのできる市役所の「総合窓口」化の現状と導入の際の課題を解決する方法について発表を行った。2006年度に政令市、一般市等の802自治体にアンケート調査を実施したところ、住民票関係の手続きと、国民健康保険等の手続きや転校手続きなどが1ヵ所でできる、住民にとって便利な総合窓口を実現している自治体は、全体の2割程度であった。総合窓口化の課題としては、研修マニュアルや業務マニュアルの整備などの運営面、総合窓口のスペースの確保などの物理的な面、予算の確保、が挙げられた。そこで、2007年度に12ヵ所の先進自治体を現地調査した結果、(1)縦割りの壁を打破するためにはトップのリーダーシップが不可欠であること、(2)業務マニュアルの作成については、ほとんど同じ内容の作業を各自治体が個別に実施していること、(3)大部分の自治体が、十分な研修をしていないこと、(4)総合窓口のスペースの確保については、先進自治体では、市民と関係の薄い課を他フロアーに移動する等の様々な工夫がなされていること、が判明した。「予算確保」の問題については、実地調査した自治体では、総合窓口化前後の労働時間等の資料が存在しなかった。今後は、(1)総合窓口化の対象業務の選定、業務マニュアル及び研修マニュアルの標準化とその提供方法の検討、(2)総合窓口の費用対効果の検討、(3)窓口業務の外部委託のあり方の検討を行う予定である。
次に、主任研究員 木村は「国際航空貨物分野の競争力強化に向けたゲートウェイ空港の必要性」と題し、成長するアジアの活力をわが国に取り込むための貨物分野のゲートウェイ空港を構築する方策について提言した。航空貨物は、わが国の貿易額に占める比率が近年30%前後に高まり、その重要性は高い。しかし国際航空貨物輸送におけるわが国の競争力は、空港と航空会社の双方で低下が著しい。一方アジア諸国・地域の空港、航空会社の競争力には向上が目立つ。なかでもソウル(金浦、仁川空港)、大韓航空の競争力向上は顕著で、韓国、大韓航空の戦略は、わが国の貨物ゲートウェイ空港構築に参考となる。貨物ゲートウェイ空港の国内立地のメリットには、(1)国内での生産・雇用の創出、(2)物流コスト低減、(3)国内産業の空洞化回避-がある。外航海運が94年の阪神大震災以降に経験したわが国港湾の大幅な競争力低下は、貨物ゲートウェイ空港の国内立地での早急な対策の必要性を示唆する。貨物ゲートウェイ空港に必要な条件は、(1)完全24時間稼動、(2)3,500m以上の複数滑走路、(3)国際線、国内線双方の十分な発着、(4)荷役用の十分なスペースと施設、(5)十分な貨物便の発着枠-である。これらを満たすわが国の空港は、関西国際空港(関空)唯一である。関空はアジア諸国・地域でゲートウェイ化を目指す他の空港に、北米航路では優位性を持ち、欧州航路でも十分競争力を持ち得る。関空の貨物ゲートウェイ空港化には、高い着陸料が障害となる。しかし着陸料は、株式会社として整備したことによる巨額債務の削減で、アジアの他の空港に十分競争力を持つ水準に引き下げ得る。したがって貨物ゲートウェイ空港は国のインフラとの観点から、その構築施策を関空に集中し、荷重な債務の国費による解消が求められる。また貨物ゲートウェイ空港のメリット拡大に、法人税減税、関税自由区域の特区設置も重要である。
続いて、客員研究員(東京国際大学国際関係学部教授) 武石は「エネルギー分野の規制改革のあり方-電力産業を例として-」について発表した。日本の新エネルギーの導入量は、諸外国に比べると、特に、電力分野において停滞する傾向が顕著となっており、これは「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法」(Renewables Portfolio Standard: RPS)制度に則り設定された導入義務量が少なすぎるために生じている。自由な競争を促進するよう求められている電力産業においては、ガス等の他業界との競争も生じており、RPS義務量を満たす以上の新エネルギーを用いた発電を導入しようとの意欲は存在しない。一方、電力分野では、今後も天然ガスを主体とするコージェネレーション設備等の分散型電源の導入量が着実に増大する見込みである。新エネルギーを利用した発電である風力、太陽光等も分散型発電設備であるが、これらの設備も含め、高効率で環境メリットも大きい発電設備の導入を促進していく必要がある。ただし、電力会社が保有する既存の送配電システムには、そもそも分散型電源の導入が予定されておらず、電力会社は新エネルギーの利用拡大、買電には消極的である。地球環境問題への配慮がますます必要とされてきており、新エネルギーが利用可能な場所では、その最大限の利用を図るために、既存のシステムに変更を加え、制度も変えていく必要がある。配電線を有効活用し、分散型電源と負荷を連系させて安定した電源を確保し、売電も行おうとするマイクログリッドシステムの導入促進が、今後大きな役割を果たすことが期待されている。導入促進に向けた制度の整備が必要となっている。
主任研究員 米山は、「定期借家制度の活用による賃貸住宅市場の活性化」というテーマで発表した。2000年に導入された定期借家制度は、一戸建てを中心に活用が増えているが、現在の制度では、借主の中途解約権が認められているため、長期間の契約でかつ家賃が割安な物件が供給されにくいという問題点が従来から指摘されてきた。東急田園都市線の一戸建ての賃貸物件を対象に家賃関数を推定したところ、定期借家は普通借家に比較して家賃が割安になっているが、契約期間が長くなるにつれ、両者の差は縮小していることがわかった。定期借家と普通借家の家賃が同じになる契約期間は6~9年であり、この期間が定期借家の供給が行われる契約期間の限界になっていることが明らかになった。今後、賃貸住宅市場をより活性化させるためには、定期借家制度の活用によって、長期・割安な物件が供給されるようになることが望ましい。そのためには、中途解約権を排除できるようにするか、中途解約する際には相応の違約金を支払う内容を契約に盛り込めるようにすることが必要である。中途契約権を制限できるようになれば、家主にとって空室リスクが減殺できるため、長期間確実に借りてもらうことを前提に割安な家賃で供給することが可能になると考えられる。借主にとっては、中途解約の自由度は失われるものの、割安な家賃で借りられるメリットが得られることになる。
また、研究理事 南波は、「高齢化社会における家計の資産選択の変化とその含意」と題し発表した。まず家計資産の保有構造の変化について、実物資産と金融資産を含む総資産の視点から浮き彫りにするとともに、金融資産の保有構造の特徴について日米比較も交えその特徴を明らかにした。またわが国の家計の資産保有構造が、90年代以降のバブル崩壊過程を経て大きく変化してきていることを示した。次に、高齢化が家計の金融資産選択に及ぼす影響について、金融資産の年齢別保有構造の変化の視点から分析し、近年高齢者世帯を中心にリスク資産の保有率が急上昇する一方で、安全資産の保有率が横這いに転じていることを指摘した。更に、年齢別世帯数の将来推計にリスク資産と安全資産に対する年齢別の保有構造の変化を加味し、家計全体の将来のリスク・安全資産保有率を推計した。その結果として、将来家計のリスク資産保有率は急速に高まるとともに、安全資産保有率は大幅に低下すると主張した。最後に、家計のリスク・安全資産保有率の将来推計をもとに、家計全体の金融資産残高構成比を推計し、今後預貯金・信託のウェイトが大幅に低下する一方、株式・投信のウェイトが急上昇する可能性があると主張した。このような高齢化の進展に伴う家計の資産選択行動の変化は、今後の金融機関の資産・負債構造に大きな影響を及ぼすと指摘した。こうした中で、金融機関は預金・貸出を中心とする伝統的な金融仲介機能に依存するこれまでのビジネスモデルを抜本的に転換し、市場型金融取引を中心とする金融モデルの構築と、家計・企業の資産・負債両サイドを対象とする双方向ビジネスの展開を早急に図る必要があると提言した。
| 13時05分~13時15分 | 開会挨拶 |
| 富士通総研 経済研究所 理事長 島田 晴雄 | |
| 13時15分~13時55分 | 自治体の総合窓口化を促進する具体的方法 |
| 客員研究員 木下 敏之 | |
| 13時55分~14時35分 | 国際航空貨物分野の競争力強化に向けたゲートウェイ空港の必要性 |
| 主任研究員 木村 達也 | |
| 14時35分~15時15分 | エネルギー分野の規制改革のあり方-電力産業を例として- |
| 客員研究員 武石 礼司 | |
| 15時15分~15時30分 | 休 憩 |
| 15時30分~16時10分 | 定期借家制度の活用による賃貸住宅市場の活性化 |
| 主任研究員 米山 秀隆 | |
| 16時10分~16時50分 | 高齢化社会における家計の資産選択の変化とその含意 |
| 研究理事 南波 駿太郎 | |
| 16時50分~17時 | 閉会挨拶 |
| 富士通総研 専務取締役 根津 利三郎 |
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PDF 新たな社会構築のための制度やビジネスの変革に向けて
-第22回 富士通総研経済研究フォーラム- [192KB]
