変化するわが国ICT産業の担い手
上級研究員 湯川 抗
2008年4月
業界のうわさ話も含めれば、この数年間、毎日のように大企業によるWeb2.0ベンチャーの買収話や資本参加が海外のブログや大手メディアを賑わせている。既に世界的に認められたインターネット企業が、周辺分野で新たな技術やサービスの開発を行うベンチャーに、自らの更なる成長の糧を求めるとともに、投資回収のパターンを増やしてベンチャー企業の成長や創出を支えている。
実際、Web2.0ベンチャーは次々と生まれている。プログラミング言語「LISP」のプログラマーであり、エッセイストとしても名高いPaul Graham氏は“The Future of Web Startups”というエッセイの中で、ネットベンチャーの数が劇的に増えることで、買収者は「良い買収案件を見つけ契約を結ぶCAO(Chief Acquisition officer、最高買収責任者)を置くようになる」とすら予測する。
このような状況を念頭において、昨年発表された2つの調査を基に、大企業とベンチャーとの資本関係の側面から、我が国ICT産業の担い手の変化を考えてみた。
大手インターネット企業とWeb2.0ベンチャー
2007年8月に、富士通総研とNPO法人Japan Venture Researchが公表した「Web2.0企業の実態と成長の動向」は、わが国においても、サイバーエージェントや楽天といった大手インターネット企業がWeb2.0ベンチャーに対して積極的に投資を行っているという事実を明らかにしている。Web2.0的サービスを新たなインターネットビジネスのあり方ととらえた場合、Web2.0ベンチャーは、サイバーエージェントのような大手のインターネット企業にとって、自らが更に成長するための有力なパートナーとなりうる。
このことは、規模は小さいものの、米国と同様の現象が日本のベンチャー企業にも起こりつつあることを示している。現在積極的にWeb2.0ベンチャーに資本参加している企業は、10年前は自らもベンチャー企業であり、インターネットビジネスがいかに急速に拡大していくのかを実体験しているため、進化するインターネットに迅速に対応できているとも考えられる。これらの企業は次世代のインターネットビジネスの成長を内部に取り込む準備を整える半面、資本参加することでWeb2.0ベンチャーを支えている。
大手ICT企業とICTベンチャー
これまで、わが国においても大手ICT企業とICTベンチャーは欠かせないパートナー同士であった。2007年7月に総務省が公表した「平成19年度版情報通信白書」では、例年以上にICTベンチャーの分析に多くのページを割いているが、特徴的だったのは、ICTベンチャー企業が資本関係も取引関係も大手ICT企業に依存しているという点である。
この分析で、「大手企業を中心とする既存のICT企業」とされているのは、NTT、NEC、富士通、日立、といった大企業のことを指すと思われるが、これらの企業がベンチャー企業の筆頭株主になっているケースは、個人(恐らく経営陣)に次いで多く、ICTベンチャー全体の20%程度の株式を保有している。このことは、ベンチャー企業に対して、長期的資本政策を有利にする効果をもたらしてきたといえよう。更に、ICTベンチャーの業種別仕入先、販売先といった取引関係をみても、仕入先も販売先も6割以上を既存のICT企業が占めており、ベンチャー企業の成長に不可欠な存在であったといえる。
これは、ベンチャーからみれば大手ICT企業への依存かもしれないが、大手ICT企業からみれば、成長分野と積極的にかかわってきたことの証拠と見ることができる。そして、ICT産業という大きなくくりで見た場合、わが国においては、これまでも大手ICT企業がICTベンチャーの成長を支えてきたのである。
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