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高齢化社会における家計の資産選択行動の変化とその含意

研究理事 南波 駿太郎

2008年1月

金融資産選択に及ぼす高齢化の影響

「団塊の世代」が定年退職を迎え、わが国は本格的な高齢化社会に突入した。「人口問題研究所」の「日本の世帯数の将来推計(全国推計)」によると、全世帯に占める60歳以上の世帯(世帯主年齢:以下同じ)の割合は、2000年33.0%であったものが2006年37.2%に、2025年には45.6%にまで上昇すると予測されている。20年後の日本社会は、世帯数の約半分を60歳以上の世帯で占める世界に類のない超高齢化社会となる。

わが国の金融資産全体に占める高齢者世帯の保有割合を総務省「家計調査」でみると、60歳代世帯が全体の約3割を占めているうえ、近年70歳以上の世帯の保有割合が急激に上昇、2006年における60歳以上の世帯の保有割合は58.5%と5年間で4.3%も上昇している。高齢者の金融資産の資産選択行動は、今後のわが国金融資産全体の動向を左右するといっても過言ではない。

金融広報中央委員会が毎年実施している「家計の金融資産に関する世論調査」をもとに、1世帯当たりの年齢階層別保有額を見ると、わが国家計は20歳代から50歳代にかけて保有額を増加させ、定年後の60歳代でピークを迎える(2006年2,157万円)が、70歳以降も引続き高水準を維持する。また、米国家計とは対照的に、年齢を問わず預貯金・信託の保有率が極めて高く株式・投信の保有率が低い。

株式・投信をリスク資産、預貯金・信託を安全資産と定義し、家計の年齢階層別資産保有率の推移を見ると、2003年から2006年にかけて、60歳以上の高齢者世帯中心にリスク資産の保有率が急上昇している一方、従来40歳代をボトムに年齢とともに上昇していた安全資産の保有率が横這いに転じていることが目に付く。

高齢化の影響を、①高齢者世帯数が増加することに伴う影響と、②高齢者世帯の資産保有率自身が変化することに伴う影響の2つに分け、家計全体のリスク・安全資産保有率の将来推計を行うと、世帯数の増加のみの効果はさほど大きくはないことがわかる。しかしながら、最近のトレンドを反映し年齢別資産保有率が変化した場合の効果を加味すると、高齢者世帯のリスク資産選好・安全資産回避の傾向を反映し、家計全体のリスク資産の保有率は今後急速に高まるとともに、安全資産の保有率は大幅に低下していくことが予想される。

資金循環構造に及ぼす影響とその含意

高齢化の進展と高齢者世帯を中心とする家計の資産選択行動の変化は、資金循環構造の変化を通じて今後の金融機関のあり方に大きな影響を及ぼす。家計のリスク・安全資産保有率の将来推計を資金循環ベースに引き直し、今後の家計部門全体の金融資産残高の構成比を推計すると、①預貯金・信託のウエートが大幅に低下する(2006年:47.7%、2025年42.0~33.5%)一方、②株式・投信のウエートは急上昇する(同:16.7%、同26.8~38.2%)可能性がある。

わが国金融機関は、1990年代以降、バブル崩壊を受けた企業のバランスシート調整に加え自らの不良債権処理もあって貸出残高が大幅に減少、2000年代に入ると、家計の預金離れから負債勘定である預貯金・信託残高も大幅な伸び悩み傾向にある。高齢化の進展は、家計部門のリスク・安全資産に対する選好の変化を通じ、こうした傾向に一層拍車をかける可能性が強く、金融機関とりわけ銀行・郵貯・信託等の預金取扱金融機関の資産・負債両面に極めて深刻な影響を与える。試算結果によると、①直接効果として、預金取扱金融機関の負債勘定である預貯金・信託が大幅に減少する(2007年度~2025年度:年平均▲4.5~▲11.2兆円)ほか、②間接効果として、家計の株式・投信の保有増加を反映した企業の資金調達ウエートの変化により借入も減少する(同:年平均▲1.3~▲2.8兆円)。

このように、預金・貸出を中心とする伝統的な金融仲介機能が今後ますます縮小傾向を辿ることが避けられないとした場合、銀行を中心とする金融機関はこれまでのビジネスモデルを抜本的に転換し、新たな金融機能の発揮を目指さなければならない。まず第1に、従来の預金・貸出といったリスク集中型の相対型金融取引から、投信・債権流動化商品といったリスク分散型の市場型金融取引への移行を図ることで、リスク管理に対応した市場型間接金融モデルを早期に構築する必要がある。第2に、従来の家計の資産サイドと企業の負債サイドに特化した一方向の金融仲介だけでなく、家計と企業の資産・負債両サイドを対象とする双方向の金融サービスを展開する必要がある。具体的には、①ホームエクイティ・ローンやリバース・モーゲージといった家計の負債サイドに着目したサービス、②キャッシュマネジメント・サービスや在庫・売掛金の証券化といった企業の資産サイドに焦点をあてたサービスの拡大が重要となる。

高齢化の進展は、家計部門における安全資産からリスク資産への資産シフトを通じ、金融機関に対し、これまで以上に伝統的金融仲介機能からの脱却と新たな金融機能の発揮を迫っている。

全文はPDFファイルをご参照ください。

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