SaaSの本質を考える
富士通総研経済研究所客員研究員(サイバー大学IT総合学部 教授)
前川 徹
2008年1月
SaaSとは何か
最近、IT業界ではSaaSに注目が集まっている。業界誌にSaaS関連の記事をみかけるようになったのは昨年くらいからだが、この数ヵ月、ブームと呼べるくらいSaaS熱が高まっている。ネット上で毎日のようにSaaS関連のニュースが流れ、あちこちでSaaSに関するセミナーが開催され、書店の棚にはSaaSの解説本が並んでいる。
SaaSとは、Software as a Serviceの略で、直訳すれば「サービスとしてのソフトウェア」であり、「従来、ソフトウェアが提供していた機能を、インターネットを通じてサービスとして提供(販売)する仕組み」である。通常、ユーザーはウェブ・ブラウザからそのソフトウェアを利用する。
SaaSをユーザー側からみれば、ソフトウェアを所有するのではなく、ネットワークを介して利用することを意味する。この仕組みは電力に例えると理解が容易である。つまり、発電所を社内に設置して電力を利用するのではなく、電力会社の発電所で発電された電力をコンセントから必要に応じて利用する形態である。一言でいえば、情報システムを「所有から利用」に転換するものだと位置づけられる。
一方、SaaSをベンダー側からみると、「ドリルを販売するビジネスモデル」ではなく「壁に穴をあけるサービスを提供するモデル」だと表現することができる。セオドア・レビット(Theodore Levitt)が『マーケティング発想法』に「顧客は4分の1インチのドリルが欲しいわけではない。4分の1インチの穴が欲しいのだ」と書いたように、ユーザーが必要としているのは情報システムそのものではなく、その情報システムが提供する情報処理機能(能力)なのだから、それをベンダーがネットワーク経由で直接提供するサービスがSaaSだということになる。
ASPとの違い
SaaSを、ユーザーが必要とするシステム機能を、ネットワークを通じて提供するサービスとして定義すると、従来から存在しているASP(Application Service Provider)との差がまったくないことになる。ASPとSaaSの関係は、定義次第ではあるが、一般的にSaaSはASPに含まれると考えてよいだろう。ただし、SaaSには以下のような特徴がある。
- マルチテナント方式である
- ソースコードを改変することなくカスタマイズが可能である
- 当初からSaaSとして設計されている
- 他のアプリケーションとの連携が比較的容易である
従来型のASPは、ユーザーごとに論理的に独立した情報システムを割り当ててサービスを提供する形態(シングルテナント方式)が多かった。シングルテナント方式の場合、それぞれの利用企業に応じてソースコードを改変し、ユーザーインタフェースはもちろん、提供する機能、情報処理のフローなどを自由に変更できる。しかし、利用企業数が増加すれば、それだけ管理するソフトのバージョンの数が増え、管理コストの増加を招くという短所があった。例えば、ソースコードが改変されている場合、そのソフトのバージョンアップは非常に手間のかかる作業になる。
しかし、SaaSはマルチテナント方式であるため、1つの情報システム(インスタンス)で複数のユーザーにサービスを提供するため、管理コストを大幅に削減できると同時に、利用者全員に同時に最新バージョンの機能を提供できる。
マルチテナント方式であれば、ソースコードを改変することなくカスタマイズが可能である。多くのSaaSでは、メタデータを用いてカスタマイズが可能になっている。サービスによってカスタマイズ可能な範囲は異なるものの、一般的にはユーザーインタフェースや項目名はもちろん、レポートの様式から業務フローまで自由に設定できる。また、メタデータでのカスタマイズでは対応できない場合には、公開されているAPIを利用し、追加的にアプリケーションの作成が可能となっている。
こうした条件を満たすためにSaaSは、その設計・開発時から多様なカスタマイズがメタデータによって自由にできるように配慮されている。つまり多くのSaaSは、当初からSaaSとして設計されているのである。
もちろん、既存のソフトウェアをSaaS向けに修正することは不可能ではないが、かなり大幅な修正が必要になると考えられる。また、当然のことながら、SaaSの場合、利用者側はブラウザを通して利用することになるため、ウェブ・アプリケーションとして設計、提供される。これによって、利用者に必要なソフトウェアは標準的なブラウザ・ソフトだけになり、導入(利用)が非常に簡単になる。
更に、多くのSaaSは他のアプリケーションとの連携を前提として設計されている。これは、利用企業が必要とする情報処理機能をすべて統合的にサービスするのではなく、複数のSaaSを連携して利用する、あるいは既存の業務アプリケーションと連携して利用することを想定して提供されているからである。
全文はPDFファイルをご参照ください。
PDF SaaSの本質を考える [173 KB]
