シンガポールにおける日系地域統括会社の実態
主席主任研究員 金 堅敏
2008年1月
1980年代の円高を契機に日系企業の対アセアン投資が急速に拡大した。事業部ベースの対外進出や相手国の経済規模が小さいことから、日系企業の現地拠点はアセアン諸国に点在していた。また、生産・輸出拠点機能に販売、調達、R&D、資金管理などの機能も徐々に移転してきた。他方、アセアンにおける地域統合の加速や産業集積などで各国の優位性が顕在化され、アセアンにおける現地拠点の整理統合が進められてきた。1990年代以降、シンガポールにおける日系企業の統括機能が認識され、2000年以降に強化されるようになった。昨今、シンガポールから生産機能の集約が進んでいるタイに統括機能をシフトしている例も見られるが、アセアン拠点の統括機能がシンガポールに集中していることに大きな変化はない。ただし、シンガポールにおける日系企業の統括機能の中身に相違が見られる。以下、現地日系拠点3社に対するヒアリングを通じてその実態を見る。
統括地域・資本関係の相違点
A社(化学メーカー)は、アセアンにJVや100%資本の子会社を含む12社(シンガポール3社、タイ5社、インドネシア3社、マレーシア1社)の事業会社を持っているが、シンガポールにあるAP統括会社の統括範囲は、アセアン諸国、インド・パキスタンなどの南アジア諸国、オセアニア諸国をカーバーしている。B社(法人サービス)は、事務所を含むと、21ヵ所の拠点がある。それらの事業所は、すべて本社出資の100%子会社である。その統括範囲は、台湾、アセアン諸国、インドの8ヵ国・地域を含む。また、中近東のドバイに置いてある事務所をも統括している。台湾が含まれているのは、政治的な配慮であり、中台関係が前進すればグレーターチャイナに入るだろう。
C社(IT)は、アセアン6ヵ国のソフトサービス関連6社を持っている。その統括範囲も、アセアン地域に限っている。シンガポールにあるC社の統括会社は、本社のAP統括組織のサブリージョナル統括会社の性格を有するので、A社のAP統括会社やB社の統括会社など日系他社の位置づけとは若干異なる。また、C社の現地拠点は、本社出資の拠点もあれば、現地統括会社による出資の拠点もある。
統括機能の相違
販売関連、生産関連、シェアードサービス関連などの統括機能で見ると、各社の現状は以下のとおりである。
A社製品の輸入販売で設立されたA社現地統括会社は、2年前にバックオフィス部門(法務、リスク管理など)統合のため機能強化が図られている。ただし、当該統括会社と地域内各事業拠点間に資本関係がなく、人事権や財務・資金調達等のシェアードサービス機能はまだ実現されていない。知財管理やブランド管理も本社に存在するのみである。また、マーケティングや販売管理・企画立案も各事業所が独自で行っている。原料調達、ITインフラ、物流も統括会社に担当者を配置して各事業拠点をサポートしていることに止まっている。2001年に設立されたB社の現地統括会社の統括機能は、1)予算管理、2)コンプライアンス機能、3)同一顧客にかかわる各国拠点間の調整、などである。当該統括会社は各国の事業拠点に対する人事権はないが、統括会社の幹部は各拠点の役員を兼任して1)予算管理を強化している。また、キャッシュフロー管理は統括会社によって厳格に管理されている。更に、ローカル人材育成のために統括会社内にバーチャルな教育機能を持っている。各事業拠点は、統括会社に一定の管理費を納付するという。C社の現地統括拠点の統括機能は、1)地域内各拠点のガバナンス機能、2)シェアードサービス機能、3)リージョナルサービス機能を含む。各国拠点に対する人事権は持っていないが、第一義的に評価権限を有する。2)のシェアードサービス機能については、ITインフラ、教育、キャッシュフロー管理などである。3)のリージョナルサービス機能については必ずしも枠組みができているわけではなく模索中という。
以上の3つのケースにおいていずれも事業会社が先行進出して、統括会社は後片付けに追われており、洗練された統括機能はまだ確立されていないのが現状である。また、統括機能の強弱は、資本関係や人事評価権限の付与状況によって異なっている。
シンガポールでの経営課題
まず、人材リクルートの難しさが共通の課題となっている。A社は、シンガポールで生産拠点の拡張を図っているが、労働力の逼迫は大きくリスクになっているという。特に中間管理職の欧米企業への流出が大きな問題になっている。統括会社スタッフの定着率も高くないので、上級管理職にローカル人はいない。B社とC社の現地統括拠点も同じ課題に直面しているが、経営幹部の採用など給与引上げとともに昇進などのキャリアパスを用意して離職率を業界平均より低く抑えている。
次に、経営コストの上昇も大きな悩みである。例えば、IT業界におけるシンガポールの給与水準(大学新卒年収約350万円、大卒約5年目の中間管理職約750万円、経営役員約1,500万円)は相当高い。また、A社の現地統括会社ではオフィスの契約更新交渉で現在の3倍の価格が要求されているという。
ただし、シンガポール政府の支援やインフラ環境は各社とも高く評価している。
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